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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】
25/33

〈2-15〉絶望の始まり

医務室。

アルケーとの戦いで深手を負ったヴェーターがベッドの上に腰をかける。

「かなり思い切りやられたようね」

「う、うん。でも大丈夫。少ししたら治るから」

そう言いつつも、苦しそうに感じられるその顔にスピカは愁眉の表情を向ける。

「ヴェーター!!がんばれぇえええ!!!痛いの痛いの飛んでけぇええだよ!!!!」

「シキうるさい。傷に響くでしょ」

バシッ

「いたっ!」

相変わらずのシキの変わらぬハイテンションぶりとうるささに呆れた様子を見せるも、彼女も彼女なりにヴェーターを心配しているという事だけは理解できた。


「…………………無理、しないでね」

「う、うん。あ、ありがとうね」

リゼットも相変わらず淡々と告げる。

それぞれ方向は違えど、皆が自分を心配してくれている。

ヴェーターはその気持ちが何より嬉しかった。



「みんなありがとう。僕はここで負けちゃったけど、リゼットとシキはまだ試合残ってるよね。二人とも頑張ってね」

「そうだ!!!てか次うちじゃん!!!!行かなきゃ!!!

!」

ヴェーターの身体も心配ではあるが、いつまでもここにいる暇は無い。

次の試合が控えている。

四人は手を合わせ、医務室に残ったヴェーターは三人の姿を見送った。


「………………………」

「強く、ならなきゃ…」

三人が去った後、風にかき消されてしまいそうな小さな声でそう呟いた。




──────────────────




「お待たせしましたァ!!!トーナメント第二回戦、次の試合はぁあ!この二人だぁぁあ!!!」

恒例のゲラーテの声と共に向き合う門から出てくる二人。

「みんなぁあーーーー!!!よろしくねぇえーーーーーー!!!!!!」

天真爛漫のハイテンション少女シキだ。

シキは観客席にいる全員に大きく手を振り、万遍の笑みを浮かべる。


「ほんとあの子ったら……毎回それやるのね…」

まるで緊張感が無い。しかも自分が試合に出る度に毎回全員に手を振っているのだからもう見慣れたどころか見飽きたと言った方が正しいだろう。

「…………………ふふっ」

その横で、リゼットは静かに微笑んだ。


しかし、そんな空気は次の場面にして一瞬で切り替わる。

「やぁ、迷宮ぶりだね」

「あああぁーーーー!!!!炎の人!!!!!」

シキの正面。そこにはトラウマともラスボスとも呼べる存在がそこにいた。

「炎の人とは失礼な……。まぁ、間違っては無いか」

彼は手を胸に当て、自身の名と正体を明かす。

「僕の名前はメルティ。セフィラの魔術師第三席、獄炎の魔術師さ」


空気が一瞬にして凍りつく。

観客席の全員が、スピカが、そしてリゼットの瞳も僅かに見開かれる。


「せ、セフィラだと……」

「めっちゃ強いと思ってたけど、そういうことかよ……」

誰もが小さくざわめき始め、その声が何重にも重なる

セフィラの魔術師第三席。彼相手に勝てるわけが無い、むしろ絶望すら見えてしまう程だ。

誰も画像感じていた。


ただ一人を除いて…………。



「えっと!!!なんか凄い人なんだね!!!よろしくね!!!!!!!」

「………え?あ、うん。まぁ…」

シキの一言で凍りついた空気が再び元に戻る。

彼女は正真正銘の純粋で無知な少女。つまり彼女にとってセフィラの魔術師とは、なんだか凄くて強い人という認識でしかないのだ。


「え、え、えっと……は、始め!!!」

怒涛の展開に少し戸惑った表情で開始の合図を送るゲラーテ。


瞬間、まず最初に動き出したのはシキの方だった。

「いっくよー!霊魂魔法!!!」

シキは自身の魔法を展開すると、会場に八体の幽霊が出現。

「へぇ、面白いじゃん」

「でしょ!!うちの霊魂魔法はね、皆が幽霊に干渉できる魔法なの!!」

メルティの一言に、シキはまるでこれが戦闘であることを忘れたかのようにはしゃぎ始める。


(隙がありすぎでしょこの子………まぁいいや)

メルティはあまり深く考えず、攻撃を開始する。

炎魔法イグニス獄炎ノ練華(ヘルフロース)

会場全体の地面を覆い尽くすかのように、複数の炎の花が形成される。

そして、その花は大きな火柱となって次々とシキを襲う。


しかし………


「やったー!!全部避けれた!!!!」

誰もが回避不可能のように見えた技を、シキはたったの一発もかすることなく全て避けきって見せた。


「ま、マジ?もしかして、未来予知の魔法とか持ってたり……??」

一斉射撃では無くランダムに火柱が形成される魔法の為に避けることは可能だが、それでも一発も命中しないという事例は過去二一度もなかった。

未来予知。彼がそれを疑うのも無理は無い話だ。


しかし、そんなシキから返ってきた言葉はたった一言

「うんん!!勘で避けた!!!!」

勘。シキは予測するわけでも解析する訳でも無く、ただ直感で全てを避けきったのだ。

「そ、そんなことある……??」

さすがにメルティも呆然とした表情でこの状況を飲み込むしか無かった。


「じゃ、次はこっちの番だね!!ゴーストちゃん達、行っくよー!!!!」

シキは縦横無尽に走りながら幽霊と共に魔法を放つ。

「くらえ!闇魔法ノクス!!!!」

「闇魔法か。でも…炎魔法イグニス!」

対するメルティは炎魔法で打ち消す。


「まだだよ!!!いっけぇえ!ゴーストちゃんたち!!!」

攻撃はシキの闇魔法だけでは無い。

霊魂魔法によって可視化された幽霊達も次々とメルティに向け攻撃を放つ。

しかし…

炎魔法イグニス獄炎ノ乱舞(ヘルサルタチオ)

その攻撃も全て、メルティを囲むように放たれた炎の輪によって全てかき消されていく。

相手はセフィラ第三席。そう簡単に攻略できる相手ではない。なんてことはシキは何一つ考えていない。


「まだまだいくよぉーー!!!!」

シキは再び幽霊達と共に攻撃を繰り返す。

再度放たれた魔法。

「同じことしたって無駄なんだけどな……」

メルティは再び炎の輪を形成し、幽霊達の魔法を掻き消す。


その瞬間、メルティは気付いた。

会場からシキが消えていることに。


「どこだ……いや、この一瞬で一体どうやって」

冷静に周囲を見渡すメルティ。しかし、どこを見ても彼女の姿が見当たらない。

そしてそんな中、突如謎の影がメルティを覆い尽くした。

(まさか……)

メルティは咄嗟に上空へと顔を向ける。

そこには幽霊の風魔法で宙に浮き、巨大な闇魔法を形成していた。


「見つかっちゃった!!!でも、もう遅いよね!!!」

メルティは咄嗟に片手を空へと広げる。

「いや、この程度なら普通かな」

彼もまた巨大な火球を即座に形成し始めた。


「いっくよー!!!闇魔法ノクス黒ノ怨恨(ランコール)

炎魔法イグニス獄炎ノ滅却(ヘルトルオ)

巨大な炎魔法と闇魔法が衝突し、再び大きな爆発を引き起こす。



「あぁぁぁぁ!これ何度目だよ!!」

「爆発多すぎだろ!!」

巨大な爆風に観客席の誰もが椅子にしがみ付く。

「…………………危なかった」

「ふぅ、助かったわ。ありがとうリゼット」

予め爆発を想定していたリゼットは既に防壁を展開。リゼットの周囲にいた者たちは爆風から身を守ることができた。



「もうちょっとだったのにーー!!!!!」

そう言うとシキはそっと地に足を着いた。

その瞬間、メルティが小さく不敵な笑みを浮かべる。



「────チェックメイト」



メルティがそう呟くと、シキの足元から突如巨大な火柱が放たれる。

炎魔法イグニス獄炎ノ煉舞(ヘルガトリウム)、君の魔法を相殺する際、既にそこに設置しておいたんだ。て言っても、今の君には聞こえてないと思うけどね」


煉獄の炎がシキを包み込み、焼き尽くす。



「シキ!!!!!!」

絶望的な光景に、思わずスピカが声を荒らげる。

「……………大丈夫」

「でも、シキが!!!」

まるでスピカとは別人の誰かのように慌てる彼女に、リゼットはそっと彼女の手を握る。

たしかにこの試合は死者が現れぬよう予め魔法をかけた状態で挑む。

しかし、受けた傷や痛みが無くなることは決して無い。

それにスピカは誰よりもシキの近くにいた存在。彼女が慌てるのも当然だ。


「僕の勝ちだね。じゃ、先に行くとしようか」

メルティが焼かれるシキを背に会場を去ろうとする。

そして彼が指を鳴らした瞬間、シキを包みこんでいた煉獄の炎が解除された。

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