〈2-14〉俺の殺り方
「炎魔法・無双ノ業火!!」
幾つもの炎が唸りを上げ、ヴェーターを襲う。
しかしヴェーターの拒絶魔法は絶対防御。その攻撃が彼に届くことは決して無い。
全ての攻撃を防いだヴェーターは再び攻撃を開始する。
「水魔法・無慈悲ナル雫」
ヴェーターは刃のような鋭利な雫を出現させ、アルケーへと向ける。
しかし、アルケーの口元が不敵に吊り上がる。
「待ってたぜ…!!」
瞬間、空中で停止していたアルケーの十個の炎魔法がヴェーターを襲う。
「う、うわぁあ!!!」
咄嗟にヴェーターは魔法の矛先を変え、相殺。
瞬間、アルケーはヴェーターへと接近する。
「まだまだぁぁあ!!!炎魔法・獄ノ放射」
至近距離から放たれるアルケーの火炎放射。
「ま、まって!!」
「待つわけねぇだろ雑魚カスがぁ!!!!!」
アルケーの容赦無い攻撃に、咄嗟に拒絶魔法を発動する。
間一髪で防ぎきったかのように思われた攻撃だったが、ヴェーターの服に少しだけ焼けた跡が残っていた。
つまり、ほんの僅かではあるがアルケーの攻撃が命中したのだ。
「うっ………」
絶対に破られるはずの無い魔法。それなのに今、たしかにヴェーターの体にはアルケーの攻撃を受けた痕跡があった。
「う、嘘だ…拒絶魔法で防げなかった………」
信じられないこの状況にヴェーターが戸惑う。
「防げてねぇんじゃねぇ、間に合ってねぇんだよ。テメェの拒絶魔法はたしかにクソ硬ぇしクソうぜぇ。でもな、攻略法さえわかっちまえば後はこっちのもんなんだよ」
戸惑い、うずくまるヴェーターを前に、アルケーはそう言うと即座に攻撃の準備を整える。
「ヴェーターの魔法が破られた…。アルケー、まさかここまでやる男だなんて…」
観客席ではスピカがその瞳を大きく開きながら会場を見つめる。
「ヴェーターーー!!!!負けるなぁぁあああ!!!!頑張れぇえええええええええ!!!!!」
その隣でいつもの如く大声で叫ぶシキ。
いつもなら「うるさい」とスピカのデコピンが飛ぶところだが、流石のスピカもこの状況にシキに目を向ける暇など無かった。
「………………見つけた」
そこで放たれるリゼットの一言に、二人は一斉にリゼットへと顔を向ける。
「見つけた?どうしたの!!なんか見つけたの!?」
「……………アルケーの、魔法の法則」
「法則?あの無限魔法の…??」
リゼットは既に解析していた。アルケーの魔法の法則を。
会場で戦っているヴェーターよりも、いや、今この場にいる誰よりも早くアルケーの無限魔法の法則の解析を既に完了させていた。
「……………魔法が止まる数、見てて」
スピカとシキはリゼットを見つめた後、再び会場へと目を向ける。
三人が視線を向けた先では、既にアルケーの攻撃が開始されていた。
「炎魔法・無双ノ業火!!!」
「水魔法・無垢ノ天泣」
再び放たれる無数の炎。しかし、ヴェーターも水魔法で相殺を狙う。
衝突し合うお互いの魔法。しかし、アルケーは同時に無限魔法を使用しヴェーターの魔法をいくつか停止させていた。
その数は十発。
ヴェーターはその違和感に気付いていた。
本来であれば、全て停止させれば直撃はせずとも余波でヴェーターに攻撃を届かせることは可能なはずだ。
しかし、全て停止させなかったのには理由がある。
(無限魔法の…制限……?)
この瞬間、ずっと逸らされていたヴェーターの視線が再びアルケーへと向けられる。
「や、やってみるしかない!水魔法!!」
ヴェーターは水魔法を連続で放つ。
そのうちの十発は魔法が放たれる前にその場に停止したが、それ以外の攻撃は全てアルケーに向け一直線に進んでいく。
「炎魔法!」
アルケーもまた、炎魔法で再び相殺。
攻撃は全て防がれた。だが、それで充分だった。
無限魔法。その制限を確認する為には、この攻撃だけで充分だった。
「見つけたよ、君の魔法の弱点」
「は?」
「無限魔法、対象に制限を与えたり無制限にしたりする魔法。でも、その数は十個まで。だから君はずっと魔法を全て停止させればいいものを、いくつかは炎魔法で相殺していたんだ」
瞬間、アルケーが唇を噛み締める。
「無限魔法に制限があるのなら、数で押せば勝ち筋はある!」
勝利への鍵を手にしたヴェーターに、もはや拒絶魔法を使う手は存在していなかった。
両手を前に出し、水魔法を再び形成する。
幾つも、幾つも、無限魔法を攻略して数で押し切るために。
「チッ、だからどうした。数で押す?だったら答えてやるよ、俺様の殺り方でよぉお!!」
アルケーもまた、両手を前に出し、炎魔法を形成する。
互いに互いを見つめ合い、そして最後の魔法を繰り出そうとしていた。
「水魔法・破滅ノ豪雨!」
「炎魔法・獄ノ劫火!!!」
ヴェーターから放たれたのは、数え切れない程の鋭い水の刃。
そして、対するアルケーは巨大な火球で対抗する。
圧倒的な数と圧倒的な火力。二つの魔法の衝突が会場の中心で相殺され爆発を巻き起こした。
「うわぁあああ!!!風凄いよ!!台風みたい!!!!」
「………………冷たい…」
「炎も飛んでくるわ。防御壁くらい用意して欲しいわよほんと」
衝突により勃発した爆発の余波が観客席にまで飛び散る。
爆風が、火の粉が、水飛沫が、会場全体へと飛び交っていた。
そして中央では…
「……………っ!!う、そ……」
衝突する魔法の中で、既にアルケーはヴェーターに接近していた。
彼は相殺によって引き起こされた爆発の中を掻い潜り、ヴェーターの元へと一直線に走っていたのだ。
そして、その拳には燃え盛る炎が宿っている。
「言っただろ、俺様の殺り方で答えてやるってな」
ヴェーターは拒絶魔法を展開しようとする。が、気付いた時には既に遅かった。
「オぉぉおおラァぁああああああああ!!!!!!!!!」
アルケーの拳が、ヴェーターの腹部へと直撃する。
「うぐぉえ!!」
本気の拳で殴られたヴェーターは、そのまま会場端の壁へと叩きつけられた。
そして…………
「も、もう…無理………」
壁に叩きつけられ、倒れた彼は震える手を上げ、もう立ち上がれないと合図を送る。
「勝負あり!!!第二回戦Aブロック、勝者はぁぁああ!!アルケーぇええええ!!!!」
ゲラーテの声と共に、アルケーは強く握りしめた拳を空へと掲げる。
会場もまた、歓声に包み込まれていた。
「惜しかったわね……」
緊迫した試合が終わり、スピカがそっと肩を下ろす。
ヴェーターの敗北。しかし、彼もアルケー相手に善戦したのは紛れもない事実だ。
「でも!ヴェーターかっこよかった!!!なんか、いつもと違うって感じした!!!!」
「……………………うん」
シキとリゼットもまた、ヴェーターの戦いに賞賛を送った。
ヴェーターは今にも倒れそうな身体を無理矢理起こすと、すぐさま三人のいる方を見る。
そして、三人が微笑み、喝采を送る姿を見て、彼は心の底から温かい気持ちになった。
負けたという事実よりも、三人が自分を見ていてくれたことが何より嬉しかった。
「………ありがとう、みんな」
そう言うとヴェーターはゆっくりと会場を後にした。




