〈2-13〉矛と盾
魔法大祭第二回戦、トーナメント戦の一戦目が終わり、勝ち進んだ者たちの名が画面に映し出される。
「私はこれで終わりになっちゃったけど、三人とも頑張ってね」
惜しくも一回戦にて敗退してしまったスピカが三人の背中を押すように声をかける。
「…………………うん」
「もちろん!!うち、絶対勝つよ!!!」
「か、勝てるかな……」
三人はそれぞれの思いを胸に、トーナメント第二回戦へと足を踏み入れる。
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「次の試合はヴェーターだね!!!相手はあのアルケーかぁ…。でもでもでも、ヴェーターならなんとかなるでしょ!!!」
まるで説得力の欠片も無いシキの言葉。だが、その言葉がヴェーターに些細な勇気をくれた。
「うん。い、行ってくるね……!」
「お待たせしました!魔法大祭第二回戦!トーナメント戦、次の試合はぁぁあ!この二人だ!!!」
ゲラーテの声が会場へと響く。
そしてお互いの入場口から現れる二人。
拳を強く握りしめ、炎のように燃える瞳を宿し、隠し切れない殺気を放つアルケー。
対するはアルケーとは正反対に、体を丸め、縮こまるように怯えながら登場したヴェーター。
歓声の中、二人が静かに会場へと歩み出る。
観客席ではシキが身を乗り出していた。
「ヴェーター!!!!アルケーなんてボコンボコンのけちょんけちょんにしちゃえぇえええええ!!!!!」
「シキ、静かに」
バシッ
「いたっ!!」
シキの騒音にスピカのデコピンが飛ぶ。
しかし、スピカはすぐにその視線を会場の二人へと向ける。
「アルケー。まるで猛獣のような魔術士ね、けれど今回の相手はヴェーター。おそらく彼にとっては相性最悪だと思うわ」
ヴェーターの魔法をこの目で見たスピカは、この試合で優勢なのは彼の方だと予測する。
その隣で静かに二人を見つめるリゼットの意見は違った。
「………………わからない。アルケーも、強い」
リゼットは否定する。彼女はアルケーの魔法をこの目で見ており、彼の執念と魔法の強大さを知る彼女は、二人がどう戦うのかを分析する。
アルケーは拳を鳴らし、ヴェーターを睨みつける。
「とっとと終わらしてやるよ猫背野郎…!!」
ヴェーターは少しだけ肩を落とし、構える。
「やっぱ苦手だこの人……。で、でも、ここで負けるわけにはいかないよね」
気弱なヴェーターはあまり戦闘を好まない。しかし、三人に背中を押してもらった今、ここで逃げ出す訳にはいかない。
「始めっ!!」
「ぶち殺す!!!炎魔法・獄ノ劫火!!」
開始の合図と同時に、アルケーは炎魔法を放つ。
まるで会場全てを焼き尽くすかのような巨大な炎が、一直線にヴェーターへ襲い掛かる。
しかし…
「拒絶魔法」
ヴェーターが静かに呟いた。
その瞬間、ヴェーターへと向けられた巨大な炎は、彼の数センチ手前で防がれた。
まるで見えない壁でもあるかのように、巨大な炎は何も無い空間に直撃し、ヴェーターには届かなかった。
「……は!?」
アルケーが目を見開く。
「何だ今の、防御魔法かよ!?」
一撃で終わらせようとしていたアルケーの巨大な炎は完璧に防がれた。
その光景にアルケーの目は大きく開かれる。
しかし、アルケーはこのまま立ち止まる男では無い。
「なら!」
アルケーは思いっきり地面を蹴り、ヴェーターの元へと直進する。
「直接ぶん殴る!!」
拳へ炎を纏わせ、一気に距離を詰める。
しかし
「うがっ!!」
ヴェーターに近づいた途端、見えない何かに激突する。
「なっ!…んだ、これ!!」
拳はヴェーターへ届かない。いや、彼の元へたどり着くことすら出来ない。
あと少しで手が届きそうなのに、それ以上近づくことが出来ない。
まるで透明な壁があるかのように。
「クソッ!どきやがれクソが!!!」
アルケーはその拳に炎魔法を宿し、見えない壁を殴り続ける。
「無駄だよ。僕の魔法は絶対防御。どんなに強い攻撃も受け付けない……」
「っるせぇ!!んなもんぶち壊してやるって言ってんだよ!!!!」
壊れるはずのない壁に、アルケーはひたすら拳を叩き込み続ける。
その光景に観客席がざわつく。
「何やってんだアルケーのやつ…」
「届いてすらいねぇぞ、試し打ちか?何やってんだよ…」
アルケーからしたらそこには見えない壁がある。しかし、観客席から見たら、ただ彼が無駄に拳を空振りしているようにしか見えなかった。
「やはり相性最悪ね…」
「……………でも、ヴェーターまだ攻撃してない」
リゼットとスピカの二人は二人を分析する。
アルケーの行動を、ヴェーターの魔法を。スピカは観察し、リゼットは解析する。
ヴェーターは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「何百回叩いても壊れないよ。自分自身もよく分かってないけど、僕の拒絶魔法は盾とか壁とか、そういうのじゃないんだ…」
拒絶魔法。 その本質は、ヴェーター自身にも分からない。 生まれた時から使えたわけでもなく、誰かに教わったわけでもない。 気が付けば使えていただけの魔法。
けれど、一つだけ確信していることがある。
──この魔法は、誰にも破れない。
何度叩き込んでも壊せない壁に、アルケーは一度退く。
「だったら!!一気に叩き込む!!!」
そこからは猛攻だった。
「炎魔法!」
アルケーは十個の火球を出現させる。
「見せてやるよ、俺様の魔法を!!無限魔法!!!」
アルケーは自身の魔法に無限を付与する。
そして、無限の力が付与された炎が一気にヴェーターへと襲いかかる。
だが、その攻撃も全て見えない壁に防がれた。
「なっ……!!」
無限が付与された彼の炎魔法は、見えない壁に永遠にぶつかり続けるだけだった。
「僕の魔法は誰にも突破できない……。これが、拒絶魔法」
「うるせぇええええええ!!!!」
アルケーはがむしゃらに炎魔法を打ち続ける。
数え切れないほどに放たれた炎も、やはりヴェーターには届かない。
アルケーは肩で息をしていた。
「くそっ……!」
汗が滴る。
対するヴェーターはほとんど動いていない。
「もう限界みたいだね。じゃあ、次は僕から行くよ」
ヴェーターが初めて攻撃態勢へ移る。
右手を掲げる。
「水魔法」
数本の水の槍がヴェーターの前に現れる。
「炎魔法!!」
一斉に放たれた水の槍に、アルケーは炎魔法で相殺する。
その瞬間、微かにヴェーターの頬に飛沫が当たる。
「ちっ…」
アルケーは強く舌打ちをし、もう一度ヴェーターを見る。
そこで少しだけの変化に気づく。
ヴェーターの頬に、水飛沫が付着していることに。
「まだまだ行くよ」
しかし、アルケーに今考えている暇は無い。
ヴェーターは再び右手を前に出し、水魔法を形成する。
「水魔法」
「させるかよ!無限魔法!!!」
その瞬間、ヴェーターの水魔法が動きを止めた。
無限魔法の能力により、彼の魔法そのものに有限が付与されたのだ。
「えっ……」
ここで初めて、ヴェーターが動揺する。
その隙をついたアルケーの炎魔法が、停止した水魔法を打ち消した。
そして、アルケーはその一瞬を見逃さなかった。
炎魔法で打ち消した水魔法。その飛沫が再びヴェーターの頬をかすっていた事に。
(やっぱり今…当たったよな…………)
アルケーは思考する。ヴェーターの拒絶魔法、一見無敵の防御魔法のように見えるが、もしかしたら弱点があるのかもしれない。
アルケーはゆっくりとヴェーターに接近する。
対するヴェーターは再び水魔法を繰り出そうとしていた。
「……見えてんだよ、テメェの魔法はよ!!!!」
瞬間、アルケーが拳に炎魔法を宿し、思い切り走り出す。
ヴェーターは咄嗟に水魔法を打ち消し、即座に拒絶魔法を展開した。
この行動が、拒絶魔法の攻略の決定打となった。
「やっぱりな。テメェ、その無敵の魔法使ってる間は攻撃できねぇんだろ!!!」
「う、うそ……なんで………」
拒絶魔法の弱点を見破られたヴェーターが動揺する。
そして、その表情を見たアルケーは拳を鳴らし、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべる。
「その顔見りゃ充分だ。さて、こっからは俺様の番だぜ猫背野郎!!!」
そして、アルケーは再び炎魔法を、ヴェーターは拒絶魔法を展開。
二人の魔法が、再び衝突を始めようとしていた。




