〈2-11〉天球魔法と傀儡魔法
天球魔法にはとある法則がある。
そこはかとない違和感から生まれた疑念が、リゼットの思考を巡らせる。
彼女は人形を動かし続けた。
炎魔法、風魔法、光魔法、水魔法。
多方面からの攻撃が届かないのなら、全人形同時に光魔法を一点集中させ、特大の一撃を放つ。
「無駄よ。火力を上げたところで私には届かないわ」
しかし、スピカの言う通り全て彼女の前で軌道を逸らしてしまう。
「もう決まりじゃね?」
「あの金髪の子、無闇やたらに撃ってるけど一発も当たらないじゃないか」
観客席にいる他生徒も、リゼットの戦いに不安を感じ始めていた。
しかし
「リゼット、なんか変だよ!!」
シキは言う。彼女は一度、ごく短い時間ではあったがリゼットの戦闘を目にしている。
それ故、シキはリゼットの戦闘の違和感に気付いていた。
「で、でも……スピカの魔法は無敵すぎるよ」
不安気な顔でヴェーターは返す。
シキとは逆に、ヴェーターはスピカの魔法をこの目で見たことがあるために、彼女の魔法がどれほどのものかを知っていた。
そして別の場所では……
「押されてんじゃねぇよ、とっとと上がってこいや無表情女……」
アルケーが拳を強く握りしめ、呟く。
あの魔法能力テストの時から彼はリゼットをライバル視していた。だからこそ、彼にとってリゼットの敗北は彼の夢を一つ途絶えさせる結末となるのだ。
──────────────
場面は戻り、戦場へ。
スピカはリゼットを観察する。
「時間差、同時攻撃、高火力、接近、そしてカウンター。あなたに打つ手はもう無いはずよ」
スピカの表情は勝利を確信していた。
それは、リゼットの打つ手がもう無くなったからではなく、全く別の、勝利を確定させる理由で。
「そういうことね」
スピカが静かに笑う。
「リゼット、あなたの傀儡魔法の弱点はもう見えたわ」
リゼットはただ沈黙の表情を貫く。
そんな彼女に、スピカは淡々と傀儡魔法の弱点を告げる。
「傀儡魔法の弱点、それは人形を操る代わりに自身は魔法を撃てない。それどころか、大きく動くことも出来ないのよね。じゃなきゃ護衛用に自分の周りに人形を置くわけないし、あなたさっきから一歩も動いてないもの」
それを聞いたリゼットの瞳が微かに揺れる。
事実、スピカの推測は全て的中していた。
これまでリゼットが自ら前線に立つことはほとんど無かった。
迷宮探索の際も、リゼットは人形の風魔法を利用して長距離移動をしていた。つまり彼女自身の足で歩いてはいなかった。
人形の一体をスピカとヴェーターの元へ送る為、リゼットは魔法を使わざるを得なかったのだ。
スピカがゆっくり近付く。
「本体を狙えば終わり。さて、そろそろかしらね」
リゼットは動かない。
いや、動けない。
リゼットは前に出ていた人形三体を自身の前へ配置し、迎撃の準備をする。
「無駄よ」
しかし、その全てがスピカの天球魔法によって捕らえられてしまう。
リゼットの前まで接近したスピカは勝利を確信し、氷の刃をリゼットの前に向ける。
「私の勝ちね」
リゼットにもう打ては無い。
スピカだけでは無い、観客席の誰もがそう思っていた。
そして、リゼットへと向けられた氷魔法が放たれるその瞬間
「っ!!!!!」
突如、スピカの体が前に倒れた。
「うそ…でしょ………」
先程まで勝利を確信していたスピカの表情は一転し、何が起こったのかわからないと言わんばかりの表情をしていた。
スピカが初めて驚く。
「今の……どこから?」
今まで当たるはずも無かった攻撃が、ついにスピカの背後を直撃した。
この瞬間に、会場の空気すらも一変していた。
そしてただ一人、リゼットは静かに答える。
「…………見つけた」
静かに開かれた彼女の口から告げられたのは、天球魔法の法則だった。
「…………天球魔法、それは、軌道を作り出す、魔法」
スピカの表情が変わる。
今まで誰も見つけられなかった天球魔法の法則。それをついに見破られたスピカは、彼女からは想像もできない焦りの表情を見せていた。
「…………………攻撃の軌道が逸れる時、捕まってた人形が傾いていた。そして、ずっと同じ場所を回ってた」
「一体いつから気づいてたの…」
スピカはリゼットに問う。
「………………人形が、取られた後の、攻撃」
「あれだけで天球魔法の法則に気付けたというの…」
その答えにスピカが目を見開く。
ここで初めて気が付いた。リゼット色んな攻撃を検証していたのではない、天球魔法の解析を確実なものにする為の攻撃だったのだと。
傀儡魔法の弱点を見抜いた自身の勝利は、一瞬にして崩れ落ちた。
彼女が初めて予測に失敗した瞬間だった。
「なら、さっきの攻撃はどうやって………」
「……………人形、一体だけ、後ろに回してた。スピカが攻撃する時、その場所に天球魔法の軌道は、入らない。だからその隙間を狙った」
リゼットは残った四体の人形を再び動かす。
「───────解析完了。」
リゼットはスピカを見つめ、言い放つ。
彼女の勝利宣言とも取れるその発言に、スピカは咄嗟に背後へ下がった。
その姿を見た観客席の誰もがどよめく。
「スピカが下がった……」
「大逆転来たんじゃないかこれ」
お互いに弱点と法則を知った二人。
そして、リゼットの反撃がここから始まろうとしていた。




