〈1-1〉エウケー魔法学園
「楽しみだなぁ!どんな人がいるんだろうね!」
「ぅぅ……人が多い……やっぱ学校って苦手だ……」
「この空気、予測通りって感じね」
「どけ。そこは俺が通る道だ」
春の朝。
エウケー魔法学園へと続く道を、 多くの新入生達が歩いていた。
見えない誰かへ話しかける、華奢な文学少女。
人混みを避けるように、気配を消して歩く陰気な少年。
全てを見透かしたような瞳で学園を眺める、美しい少女。
そして、人波を割るように堂々と進む高圧的な少年。
彼らは皆、 今日からエウケー魔法学園へ通う魔術士の卵達だ。
リゼットもまた、その中を歩いていた。
淡い金髪を風に揺らしながら、ただ静かに学園を見つめる。
彼女は何も語らず、ただ沈黙の中で運命の先へ導かれるように、 静かに歩みを進めていく。
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入学式。
巨大な講堂には、 数十名の新入生達が並んでいた。
静まり返る空間。
その最前列で、一人の女性教師が新入生達を見渡している。
「エウケー魔法学園へようこそ。まずは、ここへ辿り着いた君達を賞賛しよう」
教師は静かに拍手を送る。
しかし、やがてその口元に不敵な笑みが浮かんだ。
「さて、本題だ」
その瞬間。
講堂の空気が、僅かに張り詰める。
「ここはエウケー魔法学園。魔法を学び、魔法を極め、魔法で生きる場所だ」
「魔法世界の卵達よ――学べ、励め、そして魔法に生きろ!」
教師は叫ぶ。そして、新入生達の未来を煽るように。
「君達は、この世界に“生きた証”を残していけ」
と強く叫んだ。
そして最後に、その女性教師は先程までの声とは打って変わって静かに告げる。
「――君達の“果て”を、楽しみにしている」
その言葉だけを残し、 彼女は壇上を去っていった。
その後はクラス発表や担当教師等の説明が淡々とされ、流れるように入学式を終えた。
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一年B組。
リゼットが教室の扉を開けた瞬間。
ざわり、と空気が揺れる。
「見て、あの子……めちゃくちゃ綺麗……」
「いいなぁ……あんな顔に生まれたかった……」
「……あまりにも美しい顔。俺でなきゃ惚れちゃうね」
教室のあちこちから、 小さなざわめきが漏れる。
校門をくぐった時から、 既に彼女は目立っていた。
透き通るような白い肌。
淡い金髪。
そして、 ガラス細工みたいに儚いコバルトブルーの瞳。
その姿は、他の生徒達にとっては強く印象に残っていたようだった。
リゼットは周囲の視線を気にすることもなく、静かに自分の席へ腰を下ろした。
その隣には、一人の少年が小さく身体を縮こませるように座っている。
「こ、こんな綺麗な人が僕の隣だなんて……あぁ、もう穴があったら入りたい……」
弱々しく声が漏れる。
薄い灰色の髪には、直しきれていない寝癖が残っており、鋭い三白眼に、うっすらと浮かぶ目の下の隈。
近寄り難いような雰囲気を纏っている反面、その姿はどこか小動物のように怯えて見えた。
少年は俯いたまま、自分の足元を見つめている。
リゼットは無表情のまま、不思議な生き物でも見るように彼を見つめた。
――その時。
勢いよく教室の扉が開かれた。
「全員いるかー!?」
瞬間、 騒がしかった教室が静まり返る。
現れたのは、一人の男性教師だ。
教師は教室を見渡しながら、生徒達の顔を確認する。
「よし。じゃあまずは自己紹介から始めようか」
そう言うと、教師は小さな杖を軽く振った。
空中に黒板が浮かび上がり、白い文字が刻まれていく。
「今日からこのクラスの担当教師になったウィンヴェルだ。よろしく頼む」
簡潔な挨拶をし、そのまま続ける。
「入学式でも言ったが、ここは魔法に生きる場所だ。魔法を学び、魔法を極め、そして――魔法で自由になる場所でもある。つまり………………」
そこまで話したところで、ウィンヴェルはふと口を止めた。
「……いや、長話はやめておくか。退屈されるし」
と、ウィンヴェルはボソッと呟く。
生徒達の間から、小さな笑いが漏れる。
しかし次の瞬間、ウィンヴェルの表情が僅かに鋭く変わった。
「さて。授業は明日からだが、その前にやってもらうことがある」
教室の空気が軽くざわつく。
そしてウィンヴェルは、口元を吊り上げながら生徒たちに告げた。
「――魔法能力テストだ」
その瞬間。
教室が一気に騒がしくなる。
期待、不安、興奮。
様々な感情が入り混じる中、ウィンヴェルが軽く手を叩いた。
パンッ!
その音だけで、生徒達はぴたりと静まる。
「話を続けるぞ」
教師はゆっくりと教室を見渡した。
「君達には、自分の魔法を見せてもらう。そして、その力を五人の教師達が直々に評価する」
静かな緊張感が、教室を包み込む。
「つまり、君達の“今の実力”を見せてもらうってことだ」
ウィンヴェルは不敵に笑う
「全員ついてこい!」
そう言い残すと、ウィンヴェルは教室を後にした。
生徒達もまた、その背中を追うように席を立つ。
期待に目を輝かせる者。
不安げに俯く者。
静かに闘志を燃やす者。
それぞれが、ウィンヴェルの背中を追うように歩み始める。
そしてリゼットもまた、何も語らぬまま静かに、沈黙の表情で歩き出した。




