〈2-9〉闘争の予兆
「相変わらず容赦ないね」
とある教室内。
不意に中性的な声が掛かる。
「君こそ相変わらず甘いな。だから三のままなんじゃないのか?メルティ」
そう振り返ると、女性教師はため息を吐き言う。
「君こそ相変わらずうるさいおばさんだね。だから人気でないんじゃないの?ゲラーレ」
「下等魔術師如きが、あまり舐めた口を聞くもんじゃないよ。そういうのは私に一度でも勝ってから言いな」
そう言うとゲラーレはメルティの周囲に複数の氷の刃を向ける。
「はいはい。おっかない魔術師だよほんと、こんなのがセフィラにいるなんて生きた心地がしないや」
メルティは炎で周囲の氷の刃を全て溶かした。
「今は教師として接してくれないかクソガキ」
女性教師ゲラーレ。
その正体は、セフィラの魔術師第二席。
またの名を『氷晶の魔術師』
彼女は冷たい視線をメルティへ向ける。
まるで聞いていない。昔から変わらない。
その態度にゲラーレは呆れたように眉を寄せた。
「それで?」
ゲラーレは表情を変え、冷たい視線を放つ。
「午後のトーナメントのことでしょ?」
メルティは微笑む。
「僕を誰だと思ってるんだい?厄介なアルケーとリゼットの実力も大体把握できた。この二人さえ潰せば後はもう抜け殻を潰すようなものさ」
ゲラーレの視線とは対照的に、穏やかな余裕の笑みを浮かべる。
まるで熱すら灯さない瞳。彼にとって他生徒達は足元にも及ばない存在という認識なのだろう。
そんな彼にゲラーレは鼻で笑う。
「大口だけは一人前だな。言っておくが、今年の一年は豊作だぞ」
「そっか、期待だけしておくよ」
そう言ってメルティは去っていく。
その背中を見送りながらゲラーレは小さく呟いた。
「そう言って、私に勝てたことなんて無いくせにね」
誰にも聞こえないほど小さな声だった。
一方リゼット達。
彼女達は控え室で会話を弾んでいた。
「ねえねえ!!凄かったね!!!リゼット!!!あの炎のさ!ぶわぁあああ!って!!!!」
シキが椅子に座りながら思いっきり足をぶらぶらさせる。
二人が出会った炎の魔術師、メルティの話だ。
「……………うん」
リゼットも小さく頷く。
「あの人なんて言うのかな!!でもでもでも、多分うちらより強いと思う!!!うち、この試合終わったらヤバスギーズに歓迎してみよっかな!!!!」
「やめなさい」
バシッ
「いたっ!」
「あと、そんなチーム名にした覚えはありません」
後先考え無いシキの発言にスピカのデコピンが飛ぶ。
「とは言え、二人がそう言うのなら相当な実力者ってことになるわね」
スピカは唇に指を当て、二人の言う生徒の実力を推測する。
「そ、そんな人がいるなんて……」
ヴェーターはいつもの如く動揺を隠せずにいた。
スピカとヴェーターはメルティに出会っていない。そのため、彼の実力も魔法も何一つ不明だった。
ただ、少なくとも同じ実力を持つリゼットとシキが半ば興奮しながら言うのだから、自分達よりも遥かに強いのだろうと推測するのが妥当だ。
「あまり相手にしたくないわね………」
スピカがそう呟くと、突然それぞれの目の前にモニターが表示される
「うわっ」
ヴェーターが顔を上げる。
「あ!!みんな出たよ!!!トーナメント表!!!」
「声が大きい。ちゃんと見てるわよ」
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[第二試合 トーナメント第一戦]
Aブロック:アルケーvsイゾルデ
Bブロック:レクターvsヴェーター
Cブロック:シキvsラミアン
Dブロック:メザイアvsメルティ
Eブロック:ロータスvsヒイロ
Fブロック:レオライトvsフラン
Gブロック:リゼットvsスピカ
Hブロック:アルバートvsヴァイト
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「あ!スピカとリゼットが一回戦目じゃん!!!」
「…………うん」
トーナメント表を見たシキが叫ぶ。
リセットはすぐに返事を返すが、スピカは僅かに眉を寄せていた。
トーナメント表の一点を見つめ、頭の中で全てを整理するかのようにただ真剣に見つめる。
二人の言う炎の魔術師、その規格外の強さ、そしてこの名前………。
全てが一致する。いや、一致させない方が難しい。
「はぁぁあああああああ!!!!!???」
スピカの口から、普段の彼女からは想像もできないような声が発せられる。
「ほぇあっ!びっくりした!」
「ちょ、スピカ!?どうしたの急に!!!」
あまりの声に驚き、シキとヴェーターはその拍子に椅子から転げ落ちそうになる。
「メルティって、まさか………」
そんな二人を他所に、スピカがゆっくり口を開いた。
「まずいことになったわ。いや、むしろ彼と交戦して無事に通過できたのが奇跡なくらいよ」
思い詰めた表情をするスピカに、シキが覗き込む。
「どうしたの??」
そんなシキに冷静な顔で返す。
「メルティ、またの名を獄炎の魔術師。セフィラの魔術師第3席の名よ。つまり、あなた達はあの場でセフィラと戦ったってことよ、それしか考えられないわ」
知識量の豊富なスピカはセフィラの魔術師を全員認知している。獄炎の魔術師メルティは齢十三歳にしてその才能を開花させ、史上最年少でセフィラ入りした天才。
つまり、彼がこの学園にいても何らおかしく無いことだ。
初めて見るスピカの表情に、空気が豹変する。
「…………っ!」
「ええええええ!?!?あの人、セフィラだったの!?!?!?」
あの時、退治した相手がセフィラだと判明した。シキは叫び、リゼットはただ沈黙のまま息を飲み込む。
もしあの時、アルケーが乱入していなかったら。
もしあの時、鍵を見つける前にメルティに見つかっていたら。
いや、そもそもあの時彼は本気を出していなかった。もしアルケーのように本気でぶつかってくるような相手だったら間違い無く自分達はここまで到達できていなかった。
あの一回戦目、一位通過できたのは紛れもない奇跡の積み重なりだとしか言いようが無い。
そのもしもの結果が脳裏を埋め尽くす。
「じゃあ、うちらセフィラと戦えるかもしれないってことだよね!!!!」
一変した空気を切り裂くように、シキの声が皆の心を起き上がらせる。
「なんか楽しみだね!!」
この状況でただ一人笑うシキ。そんな彼女に呆れつつも、その変わらない姿にスピカは微笑む。
「ほんと、バカな子ね」
「あー!!スピカ今バカって言った!!!いけないんだーーー!!人の悪口はいけないんだよーーーー!!!!」
「事実を言って悪いことなんてありません」
二人のやりとりに、リゼットとヴェーターは顔を合わせる。
こんな状況でも笑っていられる今は、きっと幸せなのだろう。
奇跡が生み出した結果は何も悪いことじゃない。もしもの考えが脳裏を埋め尽くすなら、笑える今を大切にしたい。
「が、頑張ろうね」
ヴェーターはリゼットの顔を見つめ、声をかける。
「……………うん」
リゼットもまた、不器用な笑みで返した。
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会場に聞きなれた声が響き渡る。
「お待たせしました!魔法大祭、第二回戦を開催する!!!!」
女性教師、ゲラーテの声で会場が歓声に包み込まれた。
「では、第二回戦参加者の登場だ!!!」
その声に反応するかのように、会場入口の門が開く。
そこに立つのは、このトーナメント戦に出場する魔術士達。
静かに目を閉じるリゼット。
興奮して瞳を輝かせるシキ。
震えながら前を向くヴェーター。
冷静に他の出場者を観察するスピカ。
拳を強く握りしめるアルケー。
そして、勝ちを確信したかのように笑みを浮かべるメルティ。
各々がこの会場に足を踏み入れた。
そして会場に全員が揃うと、ゲラーテは静かに口を開く。
「さぁ……」
この場にいる全員の瞳が闘志を宿す。
「始めようか」
─────魔法大祭第二回戦、開幕




