〈2-8〉無慈悲な結末
迷宮に取り残されたアルケーは焦っていた。
鍵の入手方法も、出口の場所も、何もかもが分からない。
どうすれば勝てるのか、彼には何一つ分からない。
だが、だからといって立ち止まる理由にはならなかった。
「だったら…………!」
考えた末、苦渋の決断をするかのようにアルケーは拳を握る。
「全部潰せばいいだろ!」
吐き捨てるように呟いたそれが、彼の決断であり答えだった。
他チームを先に潰し、合格圏内のチーム数まで減らして安全策を取るつもりだ。
正面から勝ちたかった。しかし、アルケーの中には敗北の二文字だけが巡っていた。リゼットとメルティの顔が脳裏を過ぎる。
怖い。彼は震えるこの感情を必死に押し殺し、決断した。
この決断が、彼にとって皮肉な結末になるとも知らずに。
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アルケーは迷宮を走り、敵チームを見つける度に魔法を放つ。
一つ、また一つと脱落チームが増える。
目の前の敵を見つけては潰す。ただそれだけを繰り返していた。
「炎魔法!!」
灼熱の炎が、敵チームを襲う。
「こんなもん……勝てるわけないだろおぉぉぉ!!!」
アルケーの魔法は凄まじく、何人もの生徒が倒れていく。
しかし、彼は倒れた相手を見ることすらない。生き急ぐかのようにただひたすら次のチームを探しに走り去っていった。
だが、本当は違った。
これは作戦なんかじゃない、八つ当たりにすぎない。そんなことは自分自身が一番理解していた。
悔しかった。
リゼットに、メルティに、先を越された。
負けた。それは、彼にとって決して認めたくない現実だった。
「クソ……」
歯を食いしばり、震える拳を握る。
「まだだ…まだ足りねぇ……!!」
アルケーは行き場のない感情を、ただ魔法に変えて吐き出していただけだった。
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魔法大祭会場では、観客席がざわついていた。
「一体何が起きてるんだ?」
「チーム狩りか?怖いやつだな……」
女性教師が視線を向けるモニターの先。
そこに映っていたのは、一人で迷宮を暴れ回るアルケーだった。
「なるほど、そう来たか」
彼女は小さく笑う。
「今年ちょっと厳しすぎない?」
アルケーの行動をみる彼女の隣から少年のような声がした。メルティだ。
彼は既に迷宮を突破し、会場に戻っていた。
「もうちょっと優しくしてくれたっていいのに」
メルティの発言に、女性教師は鼻で笑う。
「ふっ、ほざけ二位。むしろ君なら一位を取ると思っていたんだが……?私の目が腐ってたのかしら?」
「相変わらずうるさいなババァだね」
メルティは肩を竦める。
「本番は午後のトーナメントだろ?そこで見せてあげるよ」
メルティは目付きを変え、彼女を見る。
そして
「実力差ってやつを……」
そう言い残し、歩き去って行った。
女性教師は再びモニターを見つめた。
映るのは誰よりも必死に、そして強引に走る少年。
「惜しいな。才能だけなら、君はセフィラに届く。だが、まだ足りない」
彼女は鋭く、静かな声で呟く。
「君は壁しか見えていない。超えることしか考えていない。だから周囲が見えない。アルケー……今のままじゃ、私達には届かないよ」
彼女はただ、鋭い表情でアルケーを見つめていた。
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迷宮内。
アルケーは既に限界だった。
呼吸は荒く、身体は重い。メルティとの戦いで負った負傷が大きかった。
それでも彼は止まらずに走り続ける。
「やべぇ!!アルケーだ!!」
前方のチームが叫ぶと、直ぐさま逃げ出す。
しかし、気づいた時にはもう遅かった。
「逃がすかよ!!」
アルケーが直ぐさま魔法を放つ。
「炎魔法!」
「炎魔法!!」
「炎魔法!!!」
連続して放たれた魔法が、無慈悲に襲いかかる。
「うあぁぁぁぁ!」
「モンスターかよこいつ!!」
爆炎で洞窟が赤く染まり、生徒達がまた倒れていく。
脱落。また脱落。
迷宮内には、既に脱落したチームの数が残りチーム数を大きく上回っていた。
彼はそのまま今にも倒れそうな身体を必死に支え、走る。
もう何チーム倒しただろう。ただひたすら敵チームを潰して回っていた彼は、ここでようやくモニターを確認する。
「はぁ…はぁ………。残りあと二チーム…………。これで……これで合格チーム入りは確定だ…………」
彼は既に、自分のチームともう一つのチーム以外を全員脱落させていた。
先程までの凶暴な猛獣のような目付きが、次第に安堵したかのように落ち着きを取り戻す。
ようやく追いつける。これで鍵を見つけて出口を見つければ合格は確実。
「後は鍵を……」
彼は少しだけ、希望が見えたような気がした。
その時だった。
突然、アルケーの身体が光に包まれる。
「は?なんだよこれ!!?」
そして、迷宮全体へアナウンスが響いた。
〈チーム残数が合格規定に達したため、試験を終了します。残存しているチームは合格となります〉
「…………は?」
アルケーの思考が止まる。
「ふざっけんな!!俺ぁまだクリアしてねぇぞ!!!」
アルケーの叫ぶ声も虚しく、光が強くなり、身体が消えていく。
「出口も見つけてねぇ!鍵も取ってねぇ!!こんなのクリアじゃねぇだろうが!!」
無慈悲に彼を包む光の中で、彼はただ声を荒らげることしかできなかった。
彼は気付いていなかった。
自分で全員を潰した結果、合格条件を満たしてしまったことに。
事実だけ見ればこれは勝利と言えるだろう。しかし、アルケーにとっては勝利とは言えなかった。
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そして会場。中央は光に包まれた最後の合格チームが姿を現していた。
「さあ来ました!!!第一試合最後の突破者だああぁぁ!!」
観客席が沸く。
だが、そんな歓声を遮るようにアルケーが叫んだ。
「ふざけんじゃねぇ!!」
必死の形相で女性教師を睨む。
「俺はクリアしてねぇ!!こんなの認めねぇぞ!!」
彼の声で会場が静まると、女性教師は一歩前へと出る。
そして、その口から冷たい声を放った。
「何を言う、君の招いた結果じゃないか」
静かで冷たく、鋭い声。
その一言に、アルケーは言葉を失う。
何も反論ができない。彼女の言う通り、これは自分が招いた結果だ。
アルケーはただ黙って地面を睨みつけるしかなかった。
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第一試合終了。次はトーナメント戦が待ち構えている。
アルケーは顔を上げ、睨む。倒すべき相手を。
リゼット、シキ、スピカ、ヴェーター、そしてメルティ。
「勝たなきゃ…ここで勝たなきゃダメなんだ……!」
そして、その執念に満ちた視線にリゼットが気付く。
彼女は何も言わず、ただ静かに、沈黙の瞳でアルケーを見つめ返していた。




