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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】
18/32

〈2-8〉無慈悲な結末

迷宮に取り残されたアルケーは焦っていた。

鍵の入手方法も、出口の場所も、何もかもが分からない。

どうすれば勝てるのか、彼には何一つ分からない。

だが、だからといって立ち止まる理由にはならなかった。

「だったら…………!」

考えた末、苦渋の決断をするかのようにアルケーは拳を握る。

「全部潰せばいいだろ!」

吐き捨てるように呟いたそれが、彼の決断であり答えだった。

他チームを先に潰し、合格圏内のチーム数まで減らして安全策を取るつもりだ。

正面から勝ちたかった。しかし、アルケーの中には敗北の二文字だけが巡っていた。リゼットとメルティの顔が脳裏を過ぎる。

怖い。彼は震えるこの感情を必死に押し殺し、決断した。


この決断が、彼にとって皮肉な結末になるとも知らずに。


──────────────────


アルケーは迷宮を走り、敵チームを見つける度に魔法を放つ。

一つ、また一つと脱落チームが増える。

目の前の敵を見つけては潰す。ただそれだけを繰り返していた。

炎魔法イグニス!!」

灼熱の炎が、敵チームを襲う。

「こんなもん……勝てるわけないだろおぉぉぉ!!!」

アルケーの魔法は凄まじく、何人もの生徒が倒れていく。

しかし、彼は倒れた相手を見ることすらない。生き急ぐかのようにただひたすら次のチームを探しに走り去っていった。




だが、本当は違った。

これは作戦なんかじゃない、八つ当たりにすぎない。そんなことは自分自身が一番理解していた。

悔しかった。

リゼットに、メルティに、先を越された。

負けた。それは、彼にとって決して認めたくない現実だった。

「クソ……」

歯を食いしばり、震える拳を握る。

「まだだ…まだ足りねぇ……!!」

アルケーは行き場のない感情を、ただ魔法に変えて吐き出していただけだった。





──────────────────





魔法大祭会場では、観客席がざわついていた。

「一体何が起きてるんだ?」

「チーム狩りか?怖いやつだな……」

女性教師が視線を向けるモニターの先。

そこに映っていたのは、一人で迷宮を暴れ回るアルケーだった。

「なるほど、そう来たか」

彼女は小さく笑う。


「今年ちょっと厳しすぎない?」

アルケーの行動をみる彼女の隣から少年のような声がした。メルティだ。

彼は既に迷宮を突破し、会場に戻っていた。

「もうちょっと優しくしてくれたっていいのに」

メルティの発言に、女性教師は鼻で笑う。

「ふっ、ほざけ二位。むしろ君なら一位を取ると思っていたんだが……?私の目が腐ってたのかしら?」

「相変わらずうるさいなババァだね」

メルティは肩を竦める。

「本番は午後のトーナメントだろ?そこで見せてあげるよ」

メルティは目付きを変え、彼女を見る。

そして

「実力差ってやつを……」

そう言い残し、歩き去って行った。


女性教師は再びモニターを見つめた。

映るのは誰よりも必死に、そして強引に走る少年。

「惜しいな。才能だけなら、君はセフィラに届く。だが、まだ足りない」

彼女は鋭く、静かな声で呟く。

「君は壁しか見えていない。超えることしか考えていない。だから周囲が見えない。アルケー……今のままじゃ、私達には届かないよ」

彼女はただ、鋭い表情でアルケーを見つめていた。





──────────────────





迷宮内。

アルケーは既に限界だった。

呼吸は荒く、身体は重い。メルティとの戦いで負った負傷が大きかった。

それでも彼は止まらずに走り続ける。


「やべぇ!!アルケーだ!!」

前方のチームが叫ぶと、直ぐさま逃げ出す。

しかし、気づいた時にはもう遅かった。

「逃がすかよ!!」

アルケーが直ぐさま魔法を放つ。

炎魔法イグニス!」

炎魔法イグニス!!」

炎魔法イグニス!!!」

連続して放たれた魔法が、無慈悲に襲いかかる。

「うあぁぁぁぁ!」

「モンスターかよこいつ!!」

爆炎で洞窟が赤く染まり、生徒達がまた倒れていく。

脱落。また脱落。

迷宮内には、既に脱落したチームの数が残りチーム数を大きく上回っていた。

彼はそのまま今にも倒れそうな身体を必死に支え、走る。

もう何チーム倒しただろう。ただひたすら敵チームを潰して回っていた彼は、ここでようやくモニターを確認する。


「はぁ…はぁ………。残りあと二チーム…………。これで……これで合格チーム入りは確定だ…………」

彼は既に、自分のチームともう一つのチーム以外を全員脱落させていた。

先程までの凶暴な猛獣のような目付きが、次第に安堵したかのように落ち着きを取り戻す。

ようやく追いつける。これで鍵を見つけて出口を見つければ合格は確実。

「後は鍵を……」

彼は少しだけ、希望が見えたような気がした。


その時だった。

突然、アルケーの身体が光に包まれる。

「は?なんだよこれ!!?」

そして、迷宮全体へアナウンスが響いた。



〈チーム残数が合格規定に達したため、試験を終了します。残存しているチームは合格となります〉



「…………は?」

アルケーの思考が止まる。

「ふざっけんな!!俺ぁまだクリアしてねぇぞ!!!」

アルケーの叫ぶ声も虚しく、光が強くなり、身体が消えていく。

「出口も見つけてねぇ!鍵も取ってねぇ!!こんなのクリアじゃねぇだろうが!!」

無慈悲に彼を包む光の中で、彼はただ声を荒らげることしかできなかった。


彼は気付いていなかった。

自分で全員を潰した結果、合格条件を満たしてしまったことに。

事実だけ見ればこれは勝利と言えるだろう。しかし、アルケーにとっては勝利とは言えなかった。




─────────────────




そして会場。中央は光に包まれた最後の合格チームが姿を現していた。

「さあ来ました!!!第一試合最後の突破者だああぁぁ!!」

観客席が沸く。

だが、そんな歓声を遮るようにアルケーが叫んだ。

「ふざけんじゃねぇ!!」

必死の形相で女性教師を睨む。

「俺はクリアしてねぇ!!こんなの認めねぇぞ!!」

彼の声で会場が静まると、女性教師は一歩前へと出る。

そして、その口から冷たい声を放った。

「何を言う、君の招いた結果じゃないか」

静かで冷たく、鋭い声。

その一言に、アルケーは言葉を失う。

何も反論ができない。彼女の言う通り、これは自分が招いた結果だ。

アルケーはただ黙って地面を睨みつけるしかなかった。


──────────────────


第一試合終了。次はトーナメント戦が待ち構えている。

アルケーは顔を上げ、睨む。倒すべき相手を。

リゼット、シキ、スピカ、ヴェーター、そしてメルティ。

「勝たなきゃ…ここで勝たなきゃダメなんだ……!」


そして、その執念に満ちた視線にリゼットが気付く。

彼女は何も言わず、ただ静かに、沈黙の瞳でアルケーを見つめ返していた。

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