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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】
15/34

〈2-5〉観測者の推測

────────時は少し遡る。


迷宮転送直後。

リゼット達が転送された迷宮の初期地点。ここでは、四人の小さな作戦会議が開いていた。


「私とヴェーターはここに残るわ」

「えええええええ!?なんでなんで!!!」

スピカの言葉に、真っ先に反応したのはシキだった。

目を丸くしながら勢いよくスピカへと詰め寄る。

「まずは鍵を見つける必要がある。けれど、この広大な迷宮の中で鍵を探すとなれば、普通に考えてかなり苦戦するはずよ」

そんな彼女とは対照的に、スピカは落ち着いた声で言葉を続けた。

そして、その視線がシキとリゼットへと向けられる。

「だからこそ必要なの。シキの直感とリゼットの分析。この二つがね」

「おおおーーー!!なるほど!!!」

シキが表情を明るくし、納得の様子を見せる。

「つまり!!うちとリゼットが探索しに行けばいいんだね!!!!」

「……さっきも同じこと言ったわよ」

「え?」

「え?じゃないのよ……」

スピカが額へ手を当てる。

シキに悪意は無い。単純に勢いで話を聞いていたせいで、只々忘れていただけなのだろう。


そんなシキに呆れながらも、スピカは再び真剣な眼差しへと戻す。

「それとリゼット」

「……………………?」

「あなたの魔法で、鍵を人形に持たせてほしいの」

「……………………どうして」

リゼットが疑問を持った瞳でスピカを見つめる。

「私達のところへ届けるためよ」

スピカはそんな彼女を真っ直ぐ見つめ返した。

「鍵を入手した瞬間、その位置情報は全チームへ共有される。二手に分かれて行動すれば、どちらが鍵を持っているかで他のチームを惑わすことは出来るはず。でも、それも長くは持たない」

「どうしてー?」

「動いている方が本物だと判断されるからよ」

その瞬間。スピカの瞳が、まるで全てを見透かすような静かな眼差しへと変わる。

「だからリゼット。あなたの魔法を利用する」

「……………………」


「以前見た限りだと、あなたの魔法は人形を自由に操ることができる。ならば、本物の鍵を人形へ持たせることで、人形が倒されない限りほぼ確実に私たちの元へ届けられるはずよ」

「……………………うん」

リゼットが軽く頷く。


だが、そこでシキが勢いよく手を挙げた。

「でもでもでもでもでも!!!!」

再びスピカに疑問を持ったシキが前のめりになり、声を上げる。

「どうしてスピカとヴェーターのところに届けるの!?そのままうちらが出口探して、みんなで合流すればいいじゃん!!!」

その言葉に、スピカは小さく笑った。

「思い出してみて、説明の時の映像」

「えーぞー……??」

「ええ。あの時、迷宮と鍵の映像は映されていた。でも、”出口”だけは映っていなかった」

それを聞いていたヴェーターが、はっとしたように顔を上げた。

「そうだっけ!?迷宮と鍵は覚えてるけど、他はよく覚えてない!!!」

「あなたって人は本当に………」

大事な説明での映像ことすら覚えていないシキに、スピカはまた呆れた表情で額に手を当てる。

二人にとってはこれが日常茶飯事ではあるのだが。


そんな彼女に気を取られながらも、スピカはそのまま話を続ける。

「普通なら、出口と言われれば扉を想像するはず。でも、それ自体が間違いなのよ」

「と、扉じゃない……?」

そう返すヴェーターに、スピカはゆっくりと自分達の足元を指差して言う。

「出口は、おそらくここ」

「えっ…こ、ここって……今いる場所……?」

ヴェーターが戸惑った小さな声を漏らす。

その声に、スピカは小さく頷いた。

「出口とは、帰るための場所でもある。つまりこの試験は、鍵を見つけて元の位置へ戻ることが、本当のクリア条件なんだと思うわ」

「……………………それなら、人形……必要ない」

ここでリゼットがぽつりと呟く。

「……………………私達も…戻らなきゃいけない…」


リゼットの言うことは確かにその通りだった。

例え鍵を人形へ持たせたとしても、最後に合流するなら意味が無い。むしろ、敵をここへ連れて来てしまう危険すらある。

例えスピカとヴェーターの二人でも、複数のチームに囲まれたら数で押し切られる可能性も十分に有り得る。

それがアルケーのような強者のいるチームなら尚更のことだ。


だが、そんなリゼットに対しスピカは迷いなく口を開いた。

「失格条件、覚えてる?」

「……………………失格条件……?」

スピカの唇に薄い笑みが浮かぶ。

「失格の条件は、四チームが脱出する前に脱出できなかったチーム。それと、”全滅”したチーム。そう言っていたはずよ」

「……………………なるほど」

ここでリゼットがスピカの推測を理解し、その瞳が静かに見開く。

そして、スピカは軽く口角を上げながら口を開く。

「つまり”全滅”しなければいい。チーム全員が脱出する必要なんて無く、誰か一人でも条件を満たせばそれでクリア扱いになる。私はそう推測するわ」

「おおおおおおぉぉぉぉ!!!」

シキが感動したように、大きく開かれたその目を輝かせてスピカを見つめる。

「やっぱスピカ頭いい!!!!!天才!!!!!!」

「声が大きいのよ……」

スピカは苦笑しながら、その視線を少し逸らす。


リゼットとシキが鍵を見つける。

次に、リゼットがその鍵を人形に持たせて二人の元へ届ける。

その間、スピカとヴェーターは初期位置ここを死守する。

そして鍵が届いた瞬間、二人が脱出してクリア。


スピカは既に、この試合の構造そのものを読み切っていた。

「だから二人とも、鍵の方はお願いね」

スピカは、まるで背中を押すような瞳で二人を見つめる。

「うん!!!行ってくるね!!!!」

「……………………うん」

二人が迷宮の奥へ進もうとした、その時。


「あ、ちょっと待って二人とも」

何かを思い出したような声で、スピカが呼び止める。

「………………?」

「戦闘は、なるべく避けて」

その言葉に、シキが首を傾げた。

「なんでー?」

スピカは静かに目を伏せる。そして、ほんの少し微笑みながら

「これからの、勝利のためよ」

と、柔らかく告げた。

「んー!!よくわかんないけど、わかったーーー!!!」

シキは元気よく頷いた。

リゼットもまた、沈黙の表情で小さく頷く。


「……………………行ってくる」

そして二人は、迷宮の奥へと足を踏み入れた。




────────────────




〈鍵の入手が確認されました〉


アナウンスが迷宮内へ響くと同時に、各チームの前へ地図が展開される。

「もう見つけたチームがいる………だと…」

それを見たアルケーが舌打ち混じりに呟く。

彼の頬に、一滴の冷や汗が流れていた。

地図には鍵を入手したチームメンバーの位置を示す赤いマーク。

片方の二つは停止し、もう片方の2つは高速で移動していた。

(十中八九、あの無表情女かセフィラ野郎だな……)

アルケーの口元が歪む。しかし、自分の感情を押し殺すように拳を握りしめ、その目つきを変えた。

それはまるで、獲物を狩る捕食者の瞳だ。

「つまり、そいつをぶっ潰して鍵を奪えば、このまま俺が出口見っけて一番ってわけだ。なら戦う以外に選択肢は存在しねぇ!」

そう強く呟くと、彼のチームメンバーの方を向いた。

「行くぞテメェら!!こいつらぶっ潰して、俺が一番にこの試合をクリアしてやるぁ!!」

背後の仲間へ叫ぶ。だが

「待ってアルケー!!位置が二つある!!」

「あぁ?」

そう言われたアルケーは、即座に返した。

「んなもん、動いてる方が本物に決まってんだろうが!!」

野生の勘。だが、その判断は正しかった。


次の瞬間、アルケーはリゼットのいる方向を目掛けて駆け出した。

まるで逃げ回る獲物を追いかける虎のように。

拳を握りしめ、歯を向き出し、強く地を蹴り飛ばす。

その速度は、もはや暴風のような勢いだった。




────────────────




「へぇ〜、もう見つけた人いるんだ。すごいや」

別の場所では、メルティが表示された地図を眺めながら小さく笑う。

その声に焦りは微塵も無い。むしろ、アルケーとは対照的に余裕すら感じられるほどだ。

「じゃ、みんな鍵探しお願いね」

そう言い残すと、メルティは静かに右手を掲げ指を鳴らす。

その瞬間、彼の身体から炎が噴き上がる。

〈獄炎の魔術師〉の名に相応しきその業火に、迷宮内の空気が歪む。

「んじゃ、行ってこよっと」

軽い声で軽く地を蹴る。

その直後、爆発的な熱噴射と共にメルティの身体が一気に前へと押し出された。

炎を尾のように引きながら、彼もまたリゼット達の元へ向かって飛翔した。

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