〈11-4〉冥淵の魔術師
冥淵の魔術師アビス。
その名はかつてから聞いており、メルティと同じで以前からのセフィラの魔術師でもある。
しかし、その実態をリゼット達はまだ知らない。
「アビス……」
その名をスピカが小さく復唱する。
そして何かを思い出したように目を丸くした。
「待って。彼女ってたしか、セフィラの魔術師であると同時にアーカーシャ教団の創設者だったわよね」
「エメリアの言うことが正しければ、たしかにそうだったな」
アルケーはスピカと目を合わせると、それを確認するかのようにエメリアへと視線を向ける。
「うん、その記憶で間違いない。けれど彼女はアーカーシャ教団からは脱退していて、今は世界中を旅している」
「た、旅ってことは……どうやって呼んだの?」
アビスの所在もわからぬ状態で彼女と連絡を取ったことに疑問を持つヴェーター。
そんな彼に、エメリアはもう一つの魔道具を取り出す。
その形は、半月のような形状をしていた。
「これだよ」
「あ?んだこれ」
アルケーがまじまじとその魔道具を見つめた。
「これは通信魔石と言ってね、元々は丸い石みたいなものだったんだ。これを二人で片方ずつ持って半分で割ると、遠くにいてもその人を呼ぶことができる」
「へぇ……。便利なものがあるんですね」
その魔道具の効果に、ラミアが目を輝かせた。
「それだけじゃないよ。君達がワクスから貰った首飾りや、この通信魔石も、全てアビスが作り出したものなんだ」
エメリアの言葉に、リゼット達六人が驚愕の表情を向けた。
魔道具。それは今では複数の人が一つは持っていると言っても過言では無い必需品。
大都市の魔道具店なら、それなりに価値の高いものが売られていることも珍しくは無い。
そんな魔道具を開発した人。
その人こそがアビスなのだ。
セフィラの魔術師第八席、アーカーシャ教団設立者、そして魔道具の開発した第一人者。
「……………………アビス、何者なんだろ」
色んな考えが浮かび、リゼットがアビスを想像する。
肩書きだけ見ればこれ以上無い程に重要な人物だ。
しかしその実態はというと……
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少し前。
「これくださーい!!あとこれと、これと、これも一緒に!!!!」
「えっと……ちょ、ちょっとまってください。これと、これと、あと……えっと……」
とある場所の店にて、一人の女性が身体を乗り出しながら商品を見つめ、欲しい欲しいと懇願する。
そのあまりの注文の連続に店員は困った様子を見せていた。
「えっと、これとこれとこれでしょうか?」
「うん!!あとあそこのでっかいのもお願い!!!」
彼女は更に注文をする。
その時
『アビス!アービースー!!』
「あれ?この声はエメリアちゃんかな??もしもーし!」
先程まで店員を困らせていた女性、アビスが付けている半月状の耳飾りが光りだし、エメリアの声が響く。
「はーい!!エメリアちゃんひっさしぶり!!アビスでぇ〜す!!!」
『相変わらずだね……』
アビスは大きく右手を上げ、返事をした。
突然誰かに話しかけている様子を見た店員は、何が起きているのか分からないという表情を彼女へと向ける。
「エメリアちゃんから通信だなんて久しぶりじゃない!?ウチちょっと嬉しいな!!」
『嬉しいとかじゃなくて、今すぐ頼みたいことがあるから君に連絡したんだよ。てか、今どこにいるの』
「今?ロドモンテにいるよー!!」
『ロドモンテ!?君って人はほんっっとに大事な時に限って遠い場所にいるんだから……』
「ごめんごめん!!だって急に連絡くるなんて思わないじゃん!!!」
『はぁ。まぁ、とりあえず今からマンブリーノまで来れるかな。それと、オリヴィエに行くアレを六つほど持ってきてもらいたいんだ』
「オリヴィエって、あの結界を解く魔石ってことね。でもどうして?」
『実はね……』
エメリアはこれまでの経緯を話した。
リゼットを世界最高戦力の一人として迎えること、そしてオリヴィエにいるエデンの騎士団やノエルに合わせること。
そして、その為にはオリヴィエの結界を突破するための魔石が必要だということ。
「ふぅん、なるほどね。わかった!!今からそっち向かうよ
!!」
『助かるよ。で、どのくらいかかりそうかな』
「ロドモンテからだと……」
アビスは地図を見ながら、行き先を確認する。
「大体ギリギリ明日には到着するかも!遅れたごめんってことで!!」
『わかった、皆にもそう伝えとくよ。じゃあまた明日』
「はーい!!」
そう言うと、半月状の魔石から出ていた光は消えた。
そしてアビスはふと店員の方を向くと、彼の困った姿に少し慌てる。
「ごめんごめん!急に通信来るなんて思わなくてさ……。えっと、あとお会計だよね!」
「あ、は、はい…。お会計は……」
アビスは言われた金額を支払うと、大量の荷物を持ってその場を去った。
「たしかあっちに設置しておいたはず……。そこからシャルルマーニュまではファストトラベル出来るように設定してあるから、後は全力疾走だな!よーし!ウチ、頑張るぞ!!」
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場面はリゼット達へと戻る。
「まぁ、とりあえず明日を待とう」
リベリオがそう言葉を発すると、それぞれがうんと頷く。
そしてエメリアとリベリオの二人は別の部屋へと行き、リゼット達はそれぞれのベッドに座った。
そんな中、シキがなにか考えるような表情をしていた。
「シキ?」
それを見たスピカが彼女に声をかける。
「なにか浮かばない顔をしているけれど、何かあったの?」
「うーんとね、なんかね、アビスって名前にすっごく聞き覚えがあるような無いような、なんかそんな感じがするの!!なんでだろう!!!」
シキはアビスについて何か知っているような感じだった。
しかし、何故かそれを思い出せない。
「まぁ、名前は何回か聞いてるからね」
と、ヴェーターが言う。
「なにか知ってるじゃなくて、名前だけ知ってるとかの間違いだろ。どうせ明日には出会うことになるんだ。お前もとっとと寝ろ」
アルケーは大したことでは無いだろうと、シキにそう言うとそのまま横になった。
冥淵の魔術師アビス。
リゼット達は明日、彼女と出会うことになる。
それが一体どんな人なのか、六人はただ想像するだけだった。




