〈11-3〉そして英雄となる
「ルーク!ルーク!!ルーク!!!」
全身を炎に包まれるルークに駆け寄るリベリオだが、そのあまりの熱さを前に、彼の元へと辿り着くことは出来なかった。
「くそっ!!」
焼け落ちた家が崩れ落ち、だんだんと視界が狭くなる。
剣を握るその手は小さく震えていた。
それでも、灼熱をかき分けるようにルークの元へと駆けつける。
「ルーク!!おい、返事しろって!!」
リベリオの駆けつけた元にいたのは、黒焦げとなったルークだった。
魔力を持たないルークは、魔法に耐性がないのと同じこと。つまり、この炎をどうすることも出来なかった。
ルークは既に死んでいた。
いつも馬鹿みたいに笑っていた。
剣を振るうたびに勝負を挑んできては、負けると悔しそうに地面を蹴っていた。
明日も、その次の日も。
当たり前のように隣にいるはずだった。
「おい……」
リベリオは手を伸ばした。
しかし、その指先が彼に触れることはなかった。
触れてしまえば認めなければならない気がした。
目の前の光景が、夢でも幻でもないということを。
熱いはずなのに、冷たい。
「…………」
リベリオは咄嗟に抱き留めた。
軽かった。
いつも自分の背中を追いかけていた少年は、こんなにも小さな存在だっただろうか。
「ルーク……」
頬を伝うものがあった。
それが涙だと気づいた時には、もう止められなかった。
「ルーク!なぁ、おいルーク……!」
一粒、また一粒と涙が零れ落ちる。
しかし、そんなリベリオを、再び複数の魔法が容赦なく襲う。
「うぁあああああ!! 」
リベリオはその手に再び剣を取り、その魔法をたった一本の剣で断ち切った。
「なっ!?」
「魔法を、斬っただと……」
魔法を斬った。その光景に一瞬怯んだ魔術士の懐へと入り込む。
自分の弱さを知った。
友達を守れなかった。
自分だけが生き残ってしまった。
そんな想いだけが、彼の心を埋め尽くした。
ただひたすらに剣を振るった。
がむしゃらに、そして悲しみと怒りに身を任せて。
そして
大多数の魔術士を相手に、彼は立ち向かった。
どれだけ傷つこうとも、どれだけ魔法という強大な力を前にしても。
それでも彼は剣を握るその手を緩めなかった。
それは魔法を使えない者から見たら、一筋の希望だった。
魔法が無くても魔法に立ち向かう姿。
そしてそれを突破していく剣。
大多数の援護もあり、結果リベリオはこの戦いで大きな戦果を上げた。
大きな犠牲を出しつつも、彼はこの戦いで勝利を収めた。
そして、この街を襲ったアーカーシャ教団の信仰者は全滅した。
崩れ落ちた街とともに。
戦争が終結した後、人々は一人の少年へと視線を向ける。
剣一本で戦い、魔法を切り裂き、そして立ち向かうその姿。
人々は彼を〈英雄〉と呼び称えた。
しかし、英雄というその言葉は彼にとっては荷が重かった。
「ルーク………」
リベリオは何も言わず焼けこげたルークを抱えると、丘の上にその死体を埋めた。
彼が守ろうとしたこの街を、見下ろせるように。
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「あれから、何年経ったんだろうな……」
現在。
リベリオは空を見つめながら呟く。
あの戦争から幾つもの月日が流れた。
完全とは言えずとも街は復興し、平和な日々が訪れている。
たった一本の剣が、この街を守ったから。
リベリオはすっと立ち上がると、最後にルークの墓に向けて剣を差し出した。
「ちゃんと見ててくれよ」
そう言い、ルークの墓を見つめていると、後方から小さな足音が聞こえてきた。
その音にリベリオが振り向く。
「いたのか……」
「…………うん」
「はい。少し気になって、勝手に見てしまいすみません」
そこにいたのはリゼットとラミアだ。
「いや、いいんだ……」
リベリオは小さく微笑むと、再びルークの墓へと視線を移す。
「ここには、俺の親友が眠っているんだ」
リゼットとラミアもまた、リベリオの隣に立った。
そよ風が三人の髪を揺らす。
墓を見つめるリベリオの瞳は、どこか悲しそうで、後悔に溢れているようでもあった。
そしてしばらく見つめたあと
「行こう、みんなが待ってる」
と、リベリオはその場をあとにした。
「…………」
そんな彼の背中を見つめる二人もまた、ただ沈黙の表情を浮かべた。
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夜。
「楽しかったぁあああ!!!」
「た、大変だったよ……。アルケーとスピカっていつもこんなに苦労してるんだね……」
「ホントだよ、このバカのせいでな」
リゼット達は宿に集まっていた。
シキの暴走に疲れ果てたアルケーがスピカに言う。
「はぁ……」
いつも通りの感じに、スピカがため息を着いた。
「さて」
そんな中、話に割って入るようにエメリアが声を発する。
「明日にはここを出て、オリヴィエへと向かう。それは皆わかっているよね」
エメリアがそう言うと、それぞれが頷く。
「そこで、オリヴィエに向かうには海を渡る必要があるんだ」
「ええ。でもそれはリゼットの魔法で空を飛んでいけるから問題ないわ」
「いや、問題はそこじゃない」
オリヴィエは海を跨いだ先にある離島に存在する。
だが、海の移動なら問題無いと考えるスピカにエメリアは口を挟んだ。
「たしかにリゼットの魔法があれば全員で空を飛んで海を渡れる。けれど、オリヴィエに行くためには結界を解かなくてはならないんだ」
「………………結界?」
リゼットが首を傾げる。
「うん。そしてその結界を解くために必要な魔道具が存在するんだけど、それを持っている人しか入れない」
「じゃあ、その魔道具を持ってない俺らは入れないってことか?」
「そう。ボクとリベリオはそれを持ってるからなんなく入ることは出来るけど、君たちがそれを手にするまでは待機という形になるんだ」
聖地オリヴィエに入れる人間は限られている。
世界最高戦力であるエメリアとリベリオはもちろん、その他にも数人はその魔道具を持つ者は存在する。
そして、それを生み出した張本人もだ。
エメリアはポケットから小さな石のような物を取り出し、見せた。
「これがその魔道具だ」
全員の視線が魔道具へと向く。
それは黄金色に輝く綺麗な宝石のようなものだった。
「じゃあ、オリヴィエに行くって言ってたけど結局俺らは行けねぇってことじゃねぇかよ」
それを見たアルケーがエメリアに言う。
しかし、エメリアはアルケーを見つめ微笑むと、そのまま言葉を続けた。
「いや、それも大丈夫だ。多分明日には来るだろうね」
「来る?誰か呼んでるんですか?」
ラミアが首を傾げると、エメリアは真っ直ぐな瞳でその名を口にした。
「あぁ。この魔道具と結界を生み出した張本人にして、現セフィラの魔術師第八席。冥淵の魔術師アビスだ」




