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WitchDoll〜傀儡人形は夢を見る〜  作者: うつろ
Chapter-2【魔法大祭編】
12/16

〈2-2〉獄炎の魔術師

──魔法大祭、開幕前。

「はぁ…はぁ…………」

室内演習場に、荒い呼吸が響く。

空気を裂く程の凄まじい魔力。それを何度も繰り返す一人の少年。

アルケーはただ黙々と魔法を放ち続けていた。

強くならなければならない。誰よりも。何よりも。

その執念だけが、彼を動かしていた。

「こんにちは、一年生君」

不意に、背後から声が聞こえた。

少し幼いような声。けれど、どこか妙に落ち着いた不思議な響き。

「……ぁあ?」

アルケーが眉を寄せ振り返る。

そこに立っていたのは、小柄な生徒だった。

仮面で顔を隠したその姿は細く、弱々しい。 少し押しただけで倒れてしまいそうだ。

そのせいか、アルケーは一瞬相手を少年だと思った。

「こんなところで一人で特訓だなんて、努力家なんだね。上を目指すのは良いことだよ」

「誰だテメェ。ここはガキの来る場所じゃねぇぞ」

邪魔をされた苛立ちを隠そうともせず、アルケーがそう吐き捨てる。

すると仮面の生徒は、少し困ったように笑った。

「嫌だなぁ。こう見えて僕は三年生だよ?」

「……は?」

予想外の言葉に、アルケーの眉が動く。

自分より年上。しかも、学年が二つも上。

そんなアルケーを見ながら、仮面の生徒は静かに名乗った。

「僕の名前はメルティ。セフィラの魔術師の第三席。獄炎の魔術師さ」

「セフィラ……だと……?」

空気が静寂へと変わる。

アルケーの瞳が見開いた。

セフィラの魔術師。

世界最強クラスの魔術師。自分が目指し、超えるべき存在。

その一人が今、目の前にいる。

アルケーは無意識に拳を握り締めた。

胸の奥で何かが燃え上がる。

だが、そんな彼を見透かしたように、メルティは軽く肩を竦めた。

「今戦うつもりは無いよ。気になって見に来ただけさ」

そう言って、背を向ける。

そのまま出口へ歩き出した彼は、途中でふと立ち止まり。

「君も魔法大祭に出るんだろう?」

と、静かに振り返る。

「楽しみにしてるよ」

それだけを残し、姿を消した。

「………………」

アルケーは何も言えなかった。

あの小さな背中。少し突き飛ばせば壊れてしまいそうなほど細い身体。

それなのに、追いつける未来が、全く想像できなかった。



────────────



時は戻り、魔法大祭会場。

「これより、魔法大祭をはじめる!!」

女性教師の声が、会場全体へ響き渡る。

同時に、生徒達の歓声が爆発した。

「第一部はチーム戦! エントリーした全三十六チームによって行われる!」

教師が手を振ると、背後の巨大画面へ映像が映し出される。

そこに広がっていたのは、巨大な迷宮だった。

入り組んだ通路、薄暗い空間。

「ぉおーー!!迷宮だ!! スピカスピカ!迷宮だよ!!」

「静かにしなさい」

興奮するシキの額へ、スピカのデコピンが飛ぶ。

「いたっ!」

額を押さえながら、シキはまた画面を見つめ直す。

「今回のチーム戦内容は迷宮探索!」

教師の声と共に、画面が切り替わる。

そこに映し出されたのは、一つの鍵。

「君達は迷宮内へランダムに転送される。そして、この鍵を入手し、出口を見つけ脱出する。それが今回のルールだ!」

歓声が上がる。

しかし

「いいえ。そんな簡単な話ではなさそうね」

スピカだけは、静かに画面を見つめていた。

隣でリゼットもまた、無言のまま視線を細める。

二人は既に気付いていた。

このゲームの、本当の意味に。

そして、二人の心を見透かすかのように女性教師が口角を上げる。

「だが、そう簡単にはいかないのが魔法大祭だ」

「鍵を手にした者の位置は、全チームへ共有される。つまり、奪い合っても良し! 逃げ続けても良し! 邪魔なチームを叩き潰しても良し!!」

教師が大きく腕を広げた。

「己のやり方で、勝利を掴め!!」

歓声が更に大きくなる。

「四チームが脱出した時点でゲーム終了! 脱出できなかったチーム、または全滅したチームはその時点で失格となる!!」

その宣言に、生徒達の空気が一気に変わった。

探索だけでは終わらない。

これは奪い合いだ。

「己の実力を示せ、若人達よ!!」

教師の声が響く。

シキは楽しそうに笑っていた。

ヴェーターは緊張で肩を縮こませる。

スピカは既に思考を巡らせ。

リゼットは静かに、その心に熱を灯す。

それぞれが、それぞれの想いを胸に戦いへ挑もうとしていた。

「それでは転送を開始する。さぁ、試合開始だ」

光が溢れる。

次の瞬間、生徒達の姿が一斉に掻き消えた。



───────────────



「わっ……!?」

景色が変わった瞬間、ヴェーターが小さく声を漏らす。

薄暗い石造りの通路。 壁に灯る淡い魔法灯。

そこは既に迷宮の中だった。

「ぉおおおおーーー!!すごい!!ここが迷宮かぁーー!!」

シキが目を輝かせながら走り回る。

「暗い!!でもちょっと明るい!!!」

「シキ、落ち着いて」

スピカが冷静に呼び止める。

そして、少し考え込むように目を閉じた後。

静かに口を開いた。

「私達、別行動をしましょう」

「べ、別行動……?」

ヴェーターが不安そうに声を漏らす。

「私達は全員、固有魔法持ちよ」

スピカは静かに続けた。

「魔法能力テストで一度見られてはいる。でも、それは魔法の一部だけ。本質を理解している人間は誰もいないわ」

「えー!?でもみんな見てたじゃん!!」

「”見た”と”理解した”は違うの」

スピカの瞳が細くなる。

「現に私の魔法ですら、”重力操作”とか”宇宙空間”とか好き勝手言われてるもの」

その推測は正しかった。

彼女達の魔法は、誰も理解していない。

だからこそ情報が少ない私達は有利に立ち回れる。そうスピカは考えていた。

ヴェーターが小さく呟く。

「つまり……何も知られてない僕達の方が、有利ってこと……?」

「ええ」

スピカは頷く。

そして、観測者の瞳で三人を見渡した。

「シキ、リゼット」

「はーーい!!」

「………………ん」

「あなた達二人に探索を任せるわ」

スピカは迷いなく告げた。

「二人の魔法は集団戦向き。数で押し切れるあなた達が、一番探索に向いている」

「探索係!!やったぁあああーーー!!!」

シキが飛び跳ねる。

その横で、リゼットは静かにアンティークドールを抱きしめた。

「リゼット。シキのことをよろしくね」

「……………………うん」

小さく、でも不思議と頼りになる返事。

そしてスピカは続ける。

「私とヴェーターはここに残るわ」

「ええええええ!?なんでなんで!!!」

「それはね…………」



──────────



四人だけの、小さな作戦会議を終えると

「じゃあ行ってくるね!!リゼット、一緒に頑張ろーーー!!」

「……………………うん。よろしく」

シキが元気に大きく手を振る。

リゼットも小さく手を振り返した。

そして二人は、迷宮の奥へと歩き出す。

その姿は次第に、二人は暗闇の中へと消えていった。

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