〈10-17〉それでも少女は儚くて
上空に出現した巨大な扉から顔を出す、複数の人形たち。
その腕が終焉の悪魔を捉える。
彼はそれを壊そうと試みるが、その人形の腕は壊しても壊しても再生を繰り返し、そして掴んだその腕は決して離すことは無い。
徐々に扉の中へと引きずり込まれていく終焉の悪魔。
彼は再びあの巨大な闇魔法で扉を破壊しようとする。
しかし
「………………演算反転」
その魔法はリゼットによって掻き消されてしまう。
破壊することもできない。
逃げることもできない。
自分を攻撃して再生しても、その腕は決して彼を離さない。
ただ、引きずり込まれていくだけ。
巨大な扉の奥、その先の真っ黒な世界に。
人形達の遊び場に。
「……………………」
その光景を、リゼットはただ見つめていた。
リゼットだけでは無い。他の誰もが、ただ見ることしか出来なかった。
終焉の悪魔は扉の奥へと引きずり込まれると、その巨大な扉はゆっくりと閉じた。
そして、その扉が消滅すると、もうそこに終焉の悪魔の姿は無くなっていた。
「………………ふぅ」
リゼットは小さく息を吐くと、みんなの方へと視線を向ける。
自分の本気を見せた。
本当の力を見せた。
その反応が、友達の言葉が、どうしても気になって仕方がない。
なんて思われるのだろう。期待と不安が入り交じった感情を抱え、リゼットはみんなの元へと降りた。
「……………………」
リゼットが五人へ視線を向けると、まずシキがリゼットに飛びついてきた。
「リゼット!!!なに今の!!!凄い!凄いじゃん!!こんな魔法隠してたの!!??」
「学園にいた頃からあなたは何かを隠してると思っていたけれど、まさか正体に続いてこんな力までだなんて」
「でも、僕は嬉しいよ。それに、何より誇らしい。僕の友達はこんなに強いんだってことが、凄く」
「あぁ。だから恐怖もしねぇし、離れたりもしねぇ。俺はただお前を超える。それだけだ」
「はい、私もこれからもリゼットさんの隣にいます。リゼットさんが倒れそうな時、私が力になります」
五人の反応と言葉を聞いて、リゼットは安心した様子で小さく微笑んだ。
その表情は、微笑むというには相変わらず乏しいものであったが、それでも彼女の心は充分五人に伝わった。
「………………ありがとう」
そう言って、一歩を踏み出した時だった。
「………………………………あ」
突然、リゼットの体がふらつき始める。
「り、リゼット!?」
「どうしたんですか!?」
スピカとラミアが慌てて倒れるリゼットを受け止めた。
「……………………眠い…」
リゼットは既に膨大な魔力を酷使していた。
彼女は人形の身体であり、生命活動をするにも微量な魔力を消費し続けながら生きている。
その上で今回の戦いは複数の魔法を同時作用し続けており、加えてあれほどの巨大な魔法まで使用していた。
リゼットの魔力はもう、既に限界に近かった。
「…………………………ちょっと、寝る…」
そう言うと、リゼットはスピカの腕の中で静かに目を閉じた。
「あんなに強い子なのに、今はこんなに弱く見える。私達の知ってるあなたへの気持ちは、ずっと変わることなんて無いのよ」
そんなリゼットを見て、スピカはそう呟いた。
「リゼット!!お疲れ様!!!!」
「起こそうとしてんじゃねぇ!静かにしろ!!」
ゴツンっ!
「いだっ!!」
リゼットに向けて大きな声を出すシキの頭上に、アルケーの拳が落ちる。
「綺麗ですね、リゼットさん」
「うん、なんだか守りたくなるな……」
ラミアとヴェーターもまた、彼女の姿を見てただ小さく微笑んだ。
リゼットによって終焉の悪魔はこの世界から消えた。
静寂の中、彼女達を包み込む空気はどこか心地よく感じた。
「さて、ここで寝るのもあれだし。どこか宿に行こっか」
そんな五人の姿を見ていたメルティが提案する。
「勝手に借りちゃうのは心に痛むものがあるけれど、仕方ないわね。そうしましょ」
「はい。私はメルゴさんとテンペスさんの傷を治療したら向かいます」
「わかった!!ラミアちゃん、また後でね!!!」
大きな戦いを終えた皆は、その身体を癒すために大国にあるホテルへと向かった。
スピカの背中では、リゼットは静かに目を瞑っている。
彼女の表情は、とても安らかに見えた。
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「六人とも寝たようだね」
「うん。メルゴとテンペスもそのまま寝かせておいてあげよう」
リゼット達とは別の一室。そこではリベリオ、エメリア、メルティの三人が卓を囲んでいた。
「さて、話があるんだ」
そう、先に声を出したのはエメリアだ。
三人は既にエメリアから話があると呼び出されており、別室で集まる事にしていた。
「話?」
リベリオが問う。
「うん。リベリオはわかってると思うけど、この世界には最高戦力と呼ばれる者が存在する」
「それなら僕も知ってるよ。てか、目の前に二人もいるしね……。〈英雄〉リベリオ、〈黙示録〉エメリア、そして〈幻想少女〉ノエル。 この三人が、この世界における最高戦力と呼ばれている」
「その通り。で、そこに新たに四人目の戦力を加えようと思うんだ」
エメリアがそう言うと、リベリオとメルティは彼を見つめた。
小さく笑みを浮かべ、二人は頷く。
「あの子だね。まぁ、あれだけの力を見て最高戦力になりませんは無理があるよ。僕も賛成」
「オレも賛成だ。あの終焉の悪魔を倒したという実績まである。これ以上に求める条件なんて必要無いだろう」
あの時見た彼女の後ろ姿。
そして、常識の範疇を遥かに凌駕している魔法。
あの光景が、今でも鮮明に目に浮かぶ。
「じゃあ、決まりだね。あした彼女達にも伝えるとしようか」
「あぁ、そうしよう」
そう言うと、エメリアは二人にこう告げた。
「傀儡の魔術師リゼット。彼女を、四人目の最高戦力として加える」




