〈10-13〉光に照らされて
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「……………………」
全てを話し終えたリゼットは、ゆっくりと顔を伏せた。
聖堂の中を、静寂が包み込んでいた。
ステンドグラスから差し込む淡い光。
それが六人を照らしている。
誰も、何も言わなかった。
シキも、スピカも、ヴェーターも、アルケーも、ラミアも。
ただ黙って、リゼットを見つめていた。
「……………………これが、私の、全部」
小さな声が聖堂に響く。
「…………私はもう、人間じゃない。魂を移されただけの、ただの人形」
リゼットは自分の胸元へと手を置く。
そこに心臓もなければ、血も流れていない。
あるのは空っぽの空洞だけ。
リゼットの指が微かに震える。
「…………………………」
誰も、何も言わない。
言わなければよかった。勇気を出したのに、それでも心に残るのは恐怖だけ。
人形だって知られるのが、ただ怖かった。
だから、誰にも知られないように、誰にも気付かれないように、ただ普通の女の子として振舞った。
けど、その夢ももう終わり。
普通に生きることはもう、自分には叶わない。
「…………ごめん、なさい。こんな私……もう…………」
そう、リゼットが言った時だった。
「そんなことないです!」
そう言ったのはラミアだった。
「リゼットさんが人形だってことも、一度死んでしまっていることも、全部初めて知りました。でも、一つだけ変わらないことがあります!」
「………………変わらない、こと?」
「はい。それは、これからもずっと友達だってことです。リゼットさんが友達になってくれたように、私もこれからもずっとリゼットさんの友達だって言い続けます。誰になんて言われようと、私はずっとずっと言い続けます!」
それは、小さな星のように輝いて見えた。
何よりも心強い光が一つ。
「うちも!!リゼットは学園にいた時からずっとずっと友達だから!!だからその気持ちは変わらないよ!!人形も人間も、うちにとってはそんなのどうでもいい!!ただ友達でいたいから!!!」
何よりも眩い光一つ。
「僕も。正直リゼットのことを聞いてびっくりしたって言われたら嘘じゃない。けれど……それでも僕はリゼットと一緒にいる。君があの日、手を差し伸べてくれたのなら、僕はその手を取り続けたい」
何よりも勇気のある光が一つ。
「人形……か、そりゃどうりで強ぇわけだ。でもなリゼット、これだけは言っておく。お前が何者で、どういう存在であろうと、俺の夢は変わらねぇ。俺は自分の夢を叶えて一番になる。だからリゼット、お前も勝手に諦めてんじゃねぇ。俺が超えるまで立ち続けろ!」
何よりも力強い光が一つ。
「リゼット、あなたは確かに人形かもしれない。けれど、それを話してくれたことが、あなたの事を知れたことが何よりも嬉しいの。それに素敵なことじゃない。もしあなたがこのままいないままだったら、私達はあなたと友達になれなかった。だから今、幸せよ。あなたと一緒にいられることが」
何よりも優しい光が一つ。
それは、光を失った少女という星を、淡く照らしていた。
「………………………………」
リゼットは何も言えなかった。
ただ、五人の顔を一人ずつ見つめる。
誰一人、自分から目を逸らしてはいなかった。
怖がる者もいない。 気味悪がる者もいない。
そこにいたのは、今までと何も変わらない五人だった。
「…………私……」
声が震える。
普通に生きたかった。ずっと、そう願っていた。
そしてそれは、もう叶わぬ夢だと思っていた。
けどもしかしたら、自分が思っていた普通は、もうここにあるのかもしれない。
「………………これからも、一緒にいて、いいの?」
リゼットが小さく問いかけると
「もちろんです!」
「当たり前じゃん!!」
と、シキとラミアの声がほとんど同時に重なった。
「一緒にいましょ。これからもずっと」
「僕達は君から離れないから」
「だから勝手に一人になってんじゃねぇよ」
スピカも、ヴェーターも、アルケーも。
それぞれがリゼットに言葉をかけた。
十年前、一度消えてしまった少女の光。
それが再び灯ったのかは、まだ誰にも分からない。
それでも今、彼女という小さな星の隣には、五つの光があった。
「……………………ありがとう」
その声は、静かな聖堂の中へと溶けていった。
「行こ!皆のところへ!!」
シキがリゼットの手を取り、立ち上がる。
リゼットはその手の温もりが、今までで一番暖かく感じた。
「……………………」
一人じゃない。
ずっと恐れていたこの感情は、五つの光が打ち消していた。
光を失った星は、五つの小さな輝きに照らされて光を戻していく。
「行きましょ、リゼット」
「一緒に行こう」
「私もずっと隣にいます」
「さっさと行くぞ、あいつらが待ってる」
その声に答えるように、リゼットが静かに立ち上がった。
その時。
「みんな!!!!!」
と、勢いよく聖堂の扉が開かれた。
入口の前では、切羽詰まった様子のメルティが息を切らしながらリゼットたちを見つめていた。
「め、メルティ!?どうしたの?」
その様子に、驚いた表情でスピカが問う。
「大変なことが起きた。今すぐ来て欲しいんだ!」
それは、いつものメルティからは想像もつかないほどの焦りが顔に現れていた。
その表情に、一刻を争う事態であることを察した六人はすぐに向かおうとする。
「なんかわかんないけど、やばそうだよ!!早く行かなきゃ!!!!」
「ええ。あんなメルティ、初めて見るわ、つまりそれほど大変な状況ってことね」
「何が何だか知らねぇが、行くっきゃねぇだろ!」
「僕も行くよ。みんなが大変なら、僕たちも行かないと」
「私も行きます。私も、皆さんの力になりたいので」
そう言うと、五人はメルティの元へと駆け出していく。
そんな中、ただ一人だけその足を動かせずにいた。
「リゼット!?早く行くよ!!!」
「……………………」
「り、リゼット?」
どこか様子のおかしいリゼットに、スピカが声をかける。
しかし、リゼットは
「…………大丈夫。後で行くから」
と、どこか押し殺したように小さく微笑んだ。
みんなが人形であることを受け入れてくれた。
みんなが一人じゃないと、ずっと友達だと言ってくれた。
けれど、何故か体が言うことを聞かない。
「……………………どうして…」
みんなが受け入れてくれた、そのはずなのに
リゼットだけが受け入れることができなかった。
自分という存在を、まだ受け入れられなかった。




