〈10-11〉少女の最後
それからリゼットは、自分の編み出した人形魔法をどんどんと進化させていった。
魔法で人形を動かすことは出来ても、彼女が目指しているのは人形と一緒に魔術士になること。
人形を動かせただけでは、まだ夢は遠い先にあった。
「うーーん……」
リゼットは頭を悩ませる。
どうやったら人形に魔法を使わせることができるのか、その答えが見つからない。
イメージし、心の中で詠唱し、魔法として放つ。
その一連の工程を、そのまま人形へと接続する。
一見簡単なように見えるが、実はそうではない。
むしろ、この工程を全て人形に移すとなると、それは自分の思考そのものを人形に接続させないといけない。
魔力そのものを人形に移すのは可能ではあったが、思考そのものを移すのはほぼ不可能な領域だ。
「どうやったらできるんだろう……」
リゼットは何度も何度も試した。
人形を浮かせ、その状態で光魔法を放とうとするが、出てこない。
魔力を人形に集中させてしまうため、他の魔法が出せなくなっていた。
逆に光魔法を出すことに集中させると、人形に接続していた魔力が分散し、人形が落ちてしまう。
「うーん……もっかい!」
それでもリゼットは諦めない。
いつか自分の夢が叶うと信じて。
しかし
ある日、事件は起きた。
「人形魔法!」
それは、リゼットが十歳の誕生日を迎える頃。
彼女がいつものように庭で魔法の練習をしていた時のことだった。
「うーーん!!」
彼女は人形に魔力を接続させ、そして思考をそのまま移そうとする。
でも、出来ない。
「むぅ……もうちょっと……!」
リゼットは更に魔力を込める。
人形へと繋がった魔力を途切れさせないように、少しずつ、少しずつその量を増やしていく。
それでも人形が魔法を使う気配はない。
「まだ足りないのかな……」
もう少しだけ。
そう思い、リゼットは再び魔力を流し込んだ。
その時だった。
「…………え?」
人形へと繋いでいた魔力が、突然大きく揺らいだ。
いつもとは違う。リゼットがそう感じた瞬間、人形へ向かっていたはずの魔力が行き場を失ったかのように周囲へと溢れ出す。
「な、なに……これ……」
慌てて魔法を止めようとするが、止まらない。
「なんで!どうして!!止まってよ!!」
人形との接続を切ろうとしても、流れ出した魔力はリゼットの意思を無視するように膨れ上がっていく。
足元の草木が大きく揺れる。
人形に繋がるはずの光魔法が、彼女の意志とは反対に周囲に放たれる。
「止まって……!」
リゼットの声が震える。
それでも魔法は止まらない。
むしろ止めようとすればするほど、その力は大きくなっていった。
「リゼット!?」
異変に気付いたレイチェルが家の中から飛び出してくる。
「ママ……!」
リゼットは助けを求めるように母親へと顔を向けた。
「わ、わかんない。魔法が……止まらないの……!!」
リゼットは幼少期から度重なる魔法の訓練をしてきた。
それに比例するように彼女の魔力は大きくなっていった。
それは、人間という器にはあまりにも大きすぎる程に。
「リゼット落ち着いて!まず魔力を……」
レイチェルが娘へ近づこうとする。
「やだ!ママ助けて!!」
リゼットが叫んだ。
「なんか、変なの!!私、止められない……!」
リゼットの周囲を漂っていた魔力が、目に見えるほどの光となって渦を巻き始める。
苦しい。
身体の奥から、何かが無理矢理引きずり出されているような感覚だった。
「やだよ!ママ……怖いよ……!助けて……!!」
その言葉を聞いた瞬間、レイチェルは走り出した。
荒れ狂う魔力に身体を傷つけられながらも、レイチェルは真っ直ぐにリゼットへと駆け寄る。
そして、小さな身体を強く抱きしめた。
「大丈夫よ、リゼット。落ち着いて」
「ママ…………」
「大丈夫よ。ママがいるから」
その声を聞いた瞬間、リゼットの瞳から涙が溢れた。
「ごめんなさい……」
「謝らなくていいの」
リゼットから暴発した光魔法をまともに受け、その身体にはいくつもの深い傷が刻まれていた。
もう、助からないほどに。
それでも、愛する我が子をただ優しく抱きしめた。
「あなたは何も悪くないわ」
「でも……私の魔法が……」
「大丈夫」
もう一度、レイチェルはそう言った。
止まらない魔法の中、レイチェルはリゼットの魔法をただ受け続けた。
「リゼット……」
微かな声でリゼットへと言葉を告げる。
「ママ…?」
リゼットもまた、小さな声で返した。
「愛してるわ」
もう助からない。
そんな彼女が最後に告げた言葉。それは、最後の最後でリゼットの心を包み込んだ。
「ママ……」
意識が薄れていく。
暴発した光の魔法に包まれながら、二人は最後まで抱き合っていた。
魔力暴走。
通常の人間が大きすぎる魔法をはなとうとした際に起こるとされる魔法の暴走。
皮肉にも、大好きな魔法が引き起こした事故。
それが、二人の最後を告げた。
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一方その頃。
「リゼットももう十歳かぁ。これ、喜ぶだろうなぁ、リゼットにはちょっと大きすぎるけど、でも等身大の超高級人形だなんて知ったら大はしゃぎなんじゃないか?」
十歳の誕生日プレゼントを買いに村の外へ出ていたフィンゲルは、リゼットの喜ぶ姿を想像しながら我が家へと向かっていた。
しかし
「なんだよ……これ…………」
家へと帰ってきたフィンゲルが目にしたのは、庭で血まみれになって倒れるレイチェルとリゼットの姿だった。
フィンゲルは投げ捨てるように等身大の人形が入った箱を地面に置き、二人の元へと駆けつける。
「リゼット!レイチェル!!おい、何してんだよ!!起きろ!起きろって!!」
フィンゲルは必死にふたりの体を揺すり、起こそうとする。
けれど、その身体にもう体温は残っていなかった。
冷たい。
その感触に、フィンゲルは青ざめた。
「うそ、だよな……。なぁおい、嘘だと言ってくれよ!本当は生きてんだろ!!なぁ!!!」
ただそれが信じられないフィンゲルは、ただ二人に大きな声をかける。
返事なんて返ってくるはずがない。そうわかっていても、彼にはそれしかできなかった。
現実を受け入れられなかった。
大粒の涙を流しながら、もう目を覚ますことのない二人をひたすらに呼び続けた。




