〈10-10〉人形の魔法
話したい。
恐怖はあった。けれど、それがリゼットが今抱いている本当の気持ちだった。
「それじゃあ、ここの後片付けは僕たちに任せて。少し離れた場所に聖堂がある。君たちはそこへ行くといいよ。その方が落ち着けると思うから」
「………………………うん」
メルティがオルド大国の後処理を引き受け、リゼット達はそのまま大国の外へと出た。
「ちょっと、何勝手に決めてんのよ。アタシだって知りたいわよ」
「たしかに僕も知りたいさ。けれど、それは僕たちの役割じゃない。きっとこれから話すことはリゼットにとっては誰にも知られたくなかった秘密だから、それを聞くのは彼女と共に過ごしてきたあの五人じゃないとダメなんだよ。自分の秘密を話すっていうのは、心から信頼している証拠だから」
メルティは遠ざかっていくリゼット達の背中を見つめる。
隣を歩き、そして同じ方向へと向かっていく六人の姿を、彼はただ応援するかのように真っ直ぐに視線を追いかけた。
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歩いて数分くらいだろうか。
リゼット達は小さな聖堂の中に来ていた。
ステンドグラスから微かに陽の光が差し込む。
人こそいなかったものの、中は綺麗に整備されており、神聖な場所であることを感じさせられる。
正面にある天使の像。
そこでリゼットは立ち止まり、五人へと振り返った。
「……………………」
リゼットは再び胸を抑え、そして小さく息を吐く。
目を瞑り、呼吸を整え、そして目を開いた。
「……………………あのね…」
静寂の中、リゼットが淡々と言葉を放つ。
誰もが真剣に彼女を見つめていた。
リゼットはみんなの視線に一瞬言葉を詰まらせるが、それでも声を振り絞り、そして小さく伝えた。
「………………私、もう、死んでるの」
誰一人、言葉を発さなかった。
いや、発することが出来なかった。
再び静寂が聖堂の中を包み込む。
突如として発されたリゼットの言葉に、それぞれがただ目を丸くし、小さく口を開くだけだった。
「………………これから話すのは、私の、過去」
そして、彼女の口から自分に起こった出来事の全てを話す。
彼女が、人間では無くなってしまった日のことを。
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十年前。
小さな村に、一人の少女がいた。
太陽のように眩しい朱色の髪と瞳。ひとつにまとめたポニーテールをふわふわと跳ねさせながら、今日も庭を歩く。
そして、その手には小さな人形の姿。
彼女の名前はリゼット。
後に、傀儡の魔術師となる少女だ。
彼女は決して裕福とは言えなかったものの、父フィンゲルと母レイチェルと共に平凡な暮らをしていた。
「メリィちゃん見ててね!えいっ!!」
リゼットは魔法と人形が大好きな明るい子であり、外に出ては魔導書と人形を持ち出して魔法の練習を続けていた。
そんな彼女には夢があった。
それは、大好きな人形と一緒に魔術師になること。
人形も魔法も大好きな彼女は、人形と一緒に戦うことを何よりも望んでいた。
「パパ!どうしたらお人形さんと魔法を使えるかな!!」
「人形が魔法って……。難しいんじゃないか?」
リゼットは父親に問うが、フィンゲルは苦笑いしながら言葉を返す。
「リゼット」
その話に入り込むかのように、レイチェルが声をかけた。
「人形と一緒に戦うんじゃなくて、人形を操る魔法を作ればいいんじゃないかしら」
「ちょ、つまり固有魔法を作るってことか?でもリゼットはまだ六歳だぞ、さすがにそれは無理なんじゃ……」
「やってみないとわからないでしょ。それに、この子がそれを望むのなら、応援するのが親の役目よ」
母親は優しくリゼットを見つめる。
「うん!やってみる!!」
その視線を受けた彼女は、目を輝かせて大きく頷いた。
「はぁ……」
そんなリゼットの瞳を見たフィンゲルは、その顔にやられたかのように額に手を当てた。
それからリゼットは、人形を動かす魔法の練習を始めた。
「うーん!うーーーん!!」
固有魔法を習得するのは簡単なことでは無い。
ましてや彼女は六歳である上に、魔法は全て独学で学んでいる。
そのため、どれだけ力を込めても人形はなかなか動かない。
「どうしたら動くんだろ……」
リゼットは試行錯誤を重ねた。
「えっと、魔法はー……」
魔導書を何冊も何冊も読み返したり
「おぉおお!すごい!」
他の人の魔法を見て学んだり
「この魔法はこういう原理なんだ!」
自分が使える光魔法を更に突き詰めて分析したり。
彼女は人形を動かす魔法を実現させるため、ひたすら魔法を研究した。
何日も何日も、魔法と人形の二つに向き合う日々だった。
その積み重ねは少しずつではあるが、確実に彼女を成長させていった。
そして、ついにその日は訪れた。
「えっと……イメージして、魔力を繋げる感じで、そのまま……うーーーん…………!」
ギュッと目を瞑り、全身に力を込める。
指先から魔力を少しずつ流し、それを人形に接続するイメージをしながら、流した魔力を集中させる。
そして
「んっ…………」
ゆっくりとその目を開けた瞬間、目の前の人形が浮かんでいる姿が目に映る。
その光景にリゼットは大きく目を開け、その瞳を輝かせた。
あまりの興奮に集中力が切れ、無造作に人形が地面に落ちる。
「やった!できた!できたできたできた!!」
それは、一体の人形をただ浮かせるだけの小さな魔法ではあったが、それでも目に見えた進歩に彼女は庭を跳ね回る。
「ママ!見てて!!」
「ど、どうしたの?」
リゼットは家の中にいたレイチェルを外へと引っ張り出す。
「いくよ!見ててね!!」
リゼットが再び魔法を繰り出すと、地に落ちていた人形がゆっくりと浮かび上がった。
レイチェルはリゼットの魔法を見た途端
「凄いじゃない、リゼット!!」
そう言って、リゼットの頭を大きく撫でた。
それからは更に人形を動かしたり、動かせる数を増やしたりと、徐々にその魔法の精度を上げていった。
「リゼット」
「はーい!」
レイチェルに呼ばれ、返事を返すリゼット。
「この魔法、なんて名前にするの?」
「魔法の名前??」
「ええ。この魔法はあなたが作り出したあなただけの魔法。だからリゼット、あなたがこの魔法に名前を付けてあげなきゃなのよ」
そう言われると、リゼットは少し考え
「人形魔法!!」
と、元気よく返事を返した。
「人形魔法……ね。ふふっ、かわいい名前」
まるで子供の考えそうな名前に、レイチェルはくすりと笑みを浮かべる。
それはただ、人形を動かすだけの小さな魔法。
それでも、幼いリゼットにとっては夢への大きな一歩となった。




