〈10-9〉一人じゃない
勝利の余韻と共に、それは訪れた。
それぞれがリゼットに声をかけようとするが、声が詰まるように言葉が出てこない。
彼女に伸ばそうとしたその手が、なかなか前に出ていかない。
「遅かったか……」
「エメリア!?」
静寂の中、後ろからエメリアが駆けつける。
その光景を目にしたエメリアは、蹲るリゼットへと視線を落とした。
「みんな、大丈夫……では、無いようだね…………」
それと同時にその場へ辿り着いたリベリオもまた、表情を曇らせてリゼットを見つめた。
「いや、まだだ」
その空気を切り裂くように、エメリアが声を発する。
「ボクの魔法を使う。幸いにも、ボクは彼女が胸を貫かれている瞬間を目撃している。ボクの魔法は記憶に干渉する魔法。自分で見たものであれば、その一連の記憶を世界から消して無かったことにできる」
エメリアはそれしか方法は無いと考えた。
もしこのまま彼女が暴走してしまったら、それこそ再びあの未来が起こってしまう。
それだけは、何としてでも阻止しなければならなかった。
エメリアが追憶魔法を唱えようとした、その時
「待って!!!」
突然、それを阻止するようにシキが叫ぶ。
「え……」
そんな彼女をエメリアは見つめる。シキの視線は、まるで記憶を消すことを許さないとでも言うかのように真剣にエメリアの瞳を見つめていた。
それは、シキだけでは無かった。
「私も拒否するわ」
シキの声に続くように、スピカも声を発する。
「だって誓ったもの、彼女が何者であろうと、私はずっと支えるって」
「ぼ、僕も。リゼットのこと、ちゃんと知りたい」
「リゼットさんは友達なんです。だから、私はリゼットさんのことを何も知らないままなんて嫌なんです」
「俺もだ。記憶を消す?んなもん逃げてんのと同じだろ、俺は決めてんだよ。逃げて後悔する人生はしねぇって」
「だから記憶を消すなんて絶対ダメ!!そんなの、うちが友達として絶対に許さない!!」
一人一人、その気持ちをエメリアに伝えた。
「……………………」
その声は、ぽっかりと空いたリゼットの心に微かに届いていた。
「………………………………」
知られたくなかった。
自分の正体を知られるのが、何よりも怖かった。
それなのに、何故だろう。
今はどこか、それを受け入れて欲しい自分がいる。
「……………………」
あの時もそうだった。
どうしてだろう、あんなに怖かった事なのに、どうして受け止めて欲しいんだろう。
こんな気持ち、知らない。
けど、不思議と悪い気持ちじゃない。
「……………」
少女の瞳に、微かに光が戻り始める。
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声が聞こえる。
ずっと一緒にいた。毎日その声を聞いてきた。
大切な友達の、大切な声。
「リゼット!!」
一人だった私を連れ出してくれた少女の、元気の声。
「リゼット」
私をずっと支えてきてくれた少女の、優しい声。
「り、リゼット……」
私が初めて勇気を出した少年の、震える声。
「リゼットさん」
私と同じ孤独を過ごしてきた少女の、小さな声。
「おいリゼット」
本気で私を真っ直ぐ見てくれた、力強い声。
「…………………………」
みんなが呼んでいる。
みんなが、私を見てくれている。
怖いのに、伝えたい。
大切な友達に、私の本当のことを伝えたい。
「…………………………」
それでも、言葉が出てこない。
もう少しなのに、もうそこまで来てるのに、まるで声を消されたかのようにその一言が言えない。
その一歩を踏み出す勇気を、恐怖という感情が押し殺している。
「……………………あ…」
リゼットは弱々しい声で小さく声を発する。
それでも、その先の一歩が踏み出せない。
怖くて、怖くて、ただ怖くて。
ずっと私を見てくれた大切な友達を失いたくなくて。
「……………………」
ただ小さく蹲り、下を見続ける彼女の視界に五つの影が伸びる。
その影はゆっくりと、自分の方へと向かった。
「………………え」
その影の先を追うように、リゼットは静かに顔をあげる。
その視線の先は、大切な五人がリゼットを見つめていた。
その顔に、恐怖も嫌悪感も、哀れみの表情も無い。
そこにあるのは、ただ真っ直ぐな瞳が彼女へと向けられていた。
「リゼットさんは言ってくれました。もう、一人じゃないって。それはリゼットさんも同じですよ。私がいます。シキさんも、スピカさんも、ヴェーターさんも、アルケーさんも。みんながずっと傍にいます」
ラミアがリゼットの手を優しく握る。
「うちも!!リゼットはずっとずっと友達だから、離れたりしない!絶対の絶対に!!!だってうちらは同じ異常組なんだから!!!リゼットがいなくなったらうち、異常組解散するから!!!」
ラミアに続くように、シキの手がリゼットの手を握る。
「リゼットは僕を孤独から連れ出してくれたよね。あの時ね、すごく嬉しかった。一人じゃないって、人が怖かった僕に誰かと一緒にいる楽しさを教えてくれたから。だから僕はそれを返すんだ。君が孤独になろうとしてるなら、次は僕が連れ出してあげるんだ」
そこにヴェーターの手が乗る。
「私はね、あなたのことずっと見てきた。あなたが他の人とは違う、何か特別なものを持っているってわかってた。けれどそれが例え何であろうと、私は支え続けるって決めた。私は誰かを支える人になる事が夢。リゼット、それはあなたも同じなのよ」
スピカの手も、その上に乗る。
「先に言っとくが、俺は特別なんか言いてぇ事とか出てこねぇし、こういうの言うの苦手だ。でもこれだけは言える。俺が超えたいと思ったのはリゼット、お前なんだよ。秘密がどうとか、身体がどうとか、そんなもん関係ねぇ。お前がお前で居続ける限り、俺はお前を追い続ける。追い続けて、超えて、そして一番になる」
最後にアルケーの手が、その上に乗った。
五人の手が、優しく包み込むかのようにリゼットの手を握っていた。
「…………………………」
温かい。
怖いはずなのに、ずっと恐れていたことのはずなのに、誰にも知られたくない秘密だったはずなのに。
それなのに、胸が苦しいほどに感情が溢れ出てくる。
「……………………わた…しは………」
小さく、弱々しく、震えた声。
それでも彼女は、心の奥底にある勇気を振り絞ろうとした。
こんな姿を見られたのに、それでも一歩を踏み出してくれた。
誰も逃げなかった。
みんな、まだ私のことを見てくれている。
応えたい。
みんなの気持ちに、みんなのその手に。
「……………………話したい、ことが、あるの……」
リゼットは小さくそう伝えた。
その手はまだ小さく震えている。
けれど、それでもみんなが踏み出してくれた一歩から逃げたくなかった。
リゼットは静かに立ち上がり、五人を見つめた。
ぽっかりと空いた胸に手を添えながら、彼女は言葉を続ける。
「………………私の、こと……」
その言葉に、五人は小さく微笑み、頷いた。




