〈10-8〉変えられぬ未来
突然落ちてきた大量の血に、全員がラミアが既に戦えない状態になっていたことを感じ取っていた。
しかし、彼女を心配する暇を与えぬかのように、次々と魔法が飛んでくる。
もう何人拘束しただろうか。
その数は既に数え切れない程に達していた。
「あと半分くらいはいそうだね…。ラミアが戦えないとなると、拘束する手段は難しいよ」
「ええ。氷魔法で凍らせることだけなら出来るけど、それだとその場に固定させてしまう事になるわ。氷魔法はラミアの操血魔法のように液体化させて操ることは出来ないし、メルゴの水魔法は液体だからすぐに突破されてしまう。一旦半分だけでも封じ込めて、後は凍らせるしか……」
メルティとスピカが対策を練る。
中心になっていたラミアがいない以上、この作戦を続ける方法が思いつかない。
「もう!せっかくここまで来たのに、どうしろって言うのよ!!」
「全くだ!ボケ共がこれほど厄介とはな!!」
メルゴとテンペスも、再び戦況が不利になったこの状況に声を荒らげる。
もう手段が無い。
まるで動く屍のように次々と襲いかかる敵を前に、落ち着いて思考する暇すら無い。
ラミアが回復するまでこの場を凌ぐしか方法が無い。
そう、誰もが思っていた。
「………………傀儡魔法」
静かに放たれたリゼットの魔法。
人形が二体、敵の一人へと向けられる。
「リゼット?」
突然行動を変えたリゼットにスピカが視線を向ける。
「……………大丈夫。方法は、あるから」
「方法って…」
リゼットが指差すと、スピカはその方向へと振り向く。
そこには、氷で身体を包まれた者が地面に倒れていた。
その光景を目にしたスピカが目を見開く。
「氷魔法で拘束?しかもこんな正確に……」
「いや、違う」
スピカの言葉に、それを見ていたメルティが口を挟む。
「水魔法と氷魔法、それを同時に使ってるんだ」
「同時にって、まさか」
「うん。水魔法で身体を包みながら、それを氷魔法で凍らせる」
水魔法と氷魔法、その二つの魔法を二体の人形に同時にさせることで、ラミアの操血魔法と同じ仕組みで拘束していた。
リゼットは彼女の魔法を解析し、それを別の魔法を用いることで再現していた。
「……………………まだ、いけるよ」
リゼットは次々と人形を動かし、水魔法と氷魔法の同時詠唱で人々を拘束していく。
その姿に鼓舞されたかのように、スピカ達も再び前を向いた。
「リゼットは拘束に集中して。他は僕たちが相手するから」
「………………わかった」
メルティの指示とともに、リゼットは次々と人形を動かしていく。
一人、また一人と、人々はその動きを封じられていく。
「うちもやる!!ゴーストちゃん、おねがい!!」
シキもまた、見様見真似でリゼットの魔法を実践する。
今度は一人じゃない。
リゼットとシキ。方法は違えど複数の魔法を扱える二人が、ラミアの役割を継いだ。
「私達は防衛に集中よ」
「集めるのは任せろ!!」
「テンペス!俺が気絶させた奴も全員まとめろ!!」
それぞれが再び、自分の役割を果たしていく。
そして
「はぁ…はぁ……」
長い戦いの末、遂に全員を無力化させることに成功した。
「ヴェーター」
「な、なに?」
スピカに呼ばれ、振り向くヴェーター。
「最後の仕上げよ。拒絶魔法で全員を囲んでちょうだい」
「わ、わかった。拒絶魔法」
そう言われ、ヴェーターは集められた国民を拒絶空間で囲む。
まだ意識のある者が魔法を放つが、彼らはもう既に拒絶された空間の中。
その攻撃がリゼット達に届くことは無かった。
「やっと終わったぁああああ!!!」
「なんでそんな元気が有り余ってんだよ、手抜いてたんじゃねぇだろうな」
「全然!本気だったよ!!」
両手を広げて叫ぶシキに、アルケーが呆れた顔で口を挟む。
「けどまぁ、何とかなって良かったよ」
「う、うん」
それぞれが戦いを終え、安堵の声を漏らす。
それと同時に
「皆さん、ご無事でよかったです」
ラミアが起き上がり、リゼット達の元へと歩みを寄せる。
その身体はまだ軽くふらついてはいたが、それでもある程度は回復している様子だった。
「ラミア、大丈夫?」
「はい。心配かけてすみませんでした」
ラミアは途中で倒れてしまったことに罪悪感を抱き、深く頭を下げる。
「………………そんな事、無い」
そんな彼女の傍へ寄り、リゼットは静かに腰を下ろした。
「………………ラミアは、凄く頑張った。ありがとう」
「リゼットさん……。ありがとうございます」
ラミアを見つめ、小さく微笑むリゼット。
そんな彼女の言葉に、まるで救われたかのようにラミアは顔を上げた。
大きな戦いを終え、安堵する空気が辺りを包み込む中
「……………………えっ」
突然、それは起こった。
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一方エメリアは──
(みんな、無事だといいけれど……)
一人、駆け抜けるようにオルド大国へと向かっていた。
魔法による移動手段もなければリベリオのように並外れた身体能力もない彼は、ただ走って向かう以外に方法は無い。
だが、幸いにも目的地はもう目前まで迫っている。
「頼むから、無事でいてくれ……」
そう呟きながら、彼は駆り立てられるように走った。
どれくらい走っただろうか。
息を切らし、徐々に速度を落としていくと同時に、気が付けば目の前には大国が広がっていた。
彼が到着した頃には戦いは既に終わっており、全員がその余韻に浸っている様子だった。
「良かった。今回は成功したみたいだ」
彼もその光景に安心し、静かに目を閉じて小さく息を吐く。
そしてそのまま再び歩みを進め、リゼット達の元へと向かった。
しかし
「……………………えっ」
小さく発せられた、少女の声。
それは、刹那の間に行われた一瞬の出来事だった。
「嘘……でしょ…………」
その一瞬の出来事に、エメリアは目を疑った。
戦いを終え、完全に警戒を解いていたリゼットの背後から突然、巨大な土の刃が彼女の胸を貫いた。
「リゼットさん!今すぐ私の魔法で治療……を…………」
一番近くにいたラミアが操血魔法で血を戻し、治療しようとする。
しかし、彼女の胸に開いた穴を見ると同時に、言葉を失った。
ラミアだけでは無い。
彼女の元へと駆けつけたシキ達も、ただそれを見つめることしかできなかった。
もはや誰もが言葉を失っていた。
「……………………見、ないで……」
リゼットは膝を着き、そして震える手で傷を隠しながら声を漏らす。
血が流れていない。
そこにあるのは、ただの空洞だけだった。
リゼットの体が大きく震え、静かに蹲る。
「………………やめて…見ないで……いや…私は…………」
リゼットの視界が歪んでいく。
だんだんと音が消えていく。
知られた。自分の、正体を。
見られた。自分の、本当の姿。
自分が、普通の人間じゃないということを。
「……………………」
リゼットの瞳から光が消える。
そんな彼女を、皆はただ呆然と見つめることしかできなかった。




