〈10-7〉託された役割
一方リゼット達
リベリオがオルドと戦っている中、それぞれが数万を超える国民の魔術士達と戦闘を繰り広げていた。
「くそ!あまりにも数が多すぎる」
「キリが無いわね。実力だけなら負けてないけれど、数の差が圧倒的すぎるわ」
「あーーもう!めんどくさいわね!!全員まとめてぶっ殺してもいいかしら!!」
「メルゴ落ち着いて。僕達なら可能かもしれないけど、流石にそれは心が痛むよ」
「……………………面倒」
次々と襲いかかってくる多数の魔法。それを防ぎ切るのが精一杯だった。
ただでさえ大規模な国である上に、その国民全員が敵という状況に、ただ防戦を繰り広げる一方だった。
「殺さない程度には吹き飛ばしているが、何度も立ち上がってくる。まるでゾンビみたいだな」
テンペスの巨大な竜巻が人々をまとめて薙ぎ払い、地面を転がしながら吹き飛ばしていく。
しかし、倒れた者達はすぐに立ち上がり、再び魔法を繰り出そうとしていた。
「ど、どうしよう……」
迫り来る数の暴力に、ヴェーターが戸惑う。
拒絶魔法で自身を守るのに精一杯で、攻撃のしようがない。
それは他の者達も同じだった。
「オラァァァ!!」
アルケーが炎を纏った拳を振り抜き、正面から迫る数人をまとめて吹き飛ばす。
だが、その背後からすぐに別の者達が押し寄せてくる。
「ちっ、次から次へと……!!」
横から飛来した水の槍を避けると、今度は足元から岩の刃が突き出した。
「アルケー!!危ないよ!!!」
シキの声と同時に幽霊が飛び込み、アルケーに迫ってきた魔法を受ける。
「余所見してる暇ないよ!!」
「してねぇよ!数が多すぎんだよ!!」
しかし、そう叫んだシキ自身にも別方向から炎が迫る。
「きゃあっ!?」
「天球魔法・権限付与」
瞬間、スピカが天球魔法の軸をシキへと移動させ、彼女を襲った炎は軌道を逸らす。
「まったく……人の心配をしている場合じゃないでしょう」
「スピカ!!ありがとう!!!」
しかし、倒しても倒してもその向こうにはまだ人がいる。
十人を退ければ、二十人が押し寄せる。
二十人を退ければ、その後ろからさらに大勢が魔法を放つ。
「……………………キリがない」
リゼットの周囲では、複数の人形が休む間もなく魔法を撃ち続けていた。
一人一人の実力ならば決して負けてはいない。
むしろ、大規模な魔法を放てば例え相手が数万人を超える大人数だとしても簡単に終わらせることはできる。
しかし、相手はただの一般国民。
その命を奪わぬよう手加減しながら戦うことこそがこの戦いに苦戦を強いられている原因でもあった。
「……………………」
リゼットは思考する。
どうすればこの状況を打破できるか。どうすれば殺さずに全員を止めることができるのか。
メルティやスピカも、今は目の前の戦況を捌くので精一杯だ。
二人に判断を委ねる余裕はない。
小さく指を動かし、人形を操りながら周囲を見渡す。
大人数の敵。それぞれの魔法。
そして、殺さずに止める方法。
「……………………あっ」
そんな中、彼女はとある少女に視線を向けた。
この状況でただ一人、戦力を大きく上げている者がいる。
その存在に気付いたリゼットが、視線の先の彼女に向けて口を開いた。
「………………ラミア」
「はい」
「……………血で拘束、できる?」
その瞬間、ラミアがハッとした表情を浮かべた。
「なるほど。わかりました」
ラミアは血の刃を解除し、更に周囲に散った血を掻き集める。
そして、それは大きな縄のような形状となり、一人一人を縛り上げて血を硬化させる。
身動きの取れなくなった者達は全員その場に倒れ、立つことすら許されなかった。
「私の魔法は、外に出た血であれば他人のものでも操れます。皆さん、このまま殺さない程度に血を流させてください」
「ラミアちゃん凄い!!!!」
ラミアの魔法にシキが感心し、目を輝かせる。
「いや、まだだよ。確かに拘束することは出来るけれど、それだけじゃ魔法をどうにかすることは出来ない」
メルティの言う通り、基礎的な魔法は頭の中で想像と詠唱を重ねることによって発現する。
拘束しただけでは、戦況を完全に覆すまでには至らない。
しかし、その状況を見たスピカが更にこの戦況を変える。
「ラミアは拘束に専念して。リゼット、シキ、アルケー、メルティ、メルゴはこのまま攻撃を続けて。テンペスは風魔法で拘束した人をなるべくまとめてちょうだい。援護は私がするわ」
スピカの指示に全員が頷き、それぞれ行動へと移る。
「ぼ、僕はどうしたら……」
その名を呼ばれなかったヴェーターがスピカに問いかける。
「あなたには最後に大きな役目を果たしてもらうわ。それまでは防御に徹してちょうだい」
「さ、最後?が、がんばるよ……」
そう言われたヴェーターは拒絶魔法で自身の身を守りつつ、隙をついて水魔法を放つ。
五人が攻撃し、ラミアがその血を利用して拘束。そしてテンペスが風で拘束された人達をまとめる。
山積みとなった国民達は、それでも次々と魔法を放つ。
無数の魔法が四方八方へ飛び散った。
しかし
「………………傀儡魔法・闇ノ呑穴」
「霊魂魔法・幽霊防御!!」
リゼットが前方から迫る魔法を闇へと呑み込み、そこから漏れた攻撃をシキの幽霊が受け止める。
「今のうちよ!水魔法・濁水ノ天泣!!」
メルゴがその隙をついてまだ拘束されてない人々に向けて無数の水刃を放つ。
「無限魔法・炎拳ノ連撃!!」
「炎魔法・獄炎ノ銃弾」
アルケーが炎を宿した拳の連撃を繰り出し、メルティが炎の銃弾を撃ち続ける。
それぞれの攻撃で人々の身体に傷がつき、そこから血が流れ出す。
一滴、また一滴と。
それらは地面へ落ちるよりも先に、まるで意思でも持っているかのように宙へと浮かび始め、その形を変えていく。
「操血魔法・紅ノ拘縛」
ラミアの操る血の量は戦況が進むと共に大きくなる。
気が付けば、彼女は周囲を覆い尽くす程の大量の血を操っていた。
何人もの人々が次々とラミアの魔法によって拘束されていく。
しかし
「はぁ…はぁ…………」
大量の血を操りながら、一人一人を確実に縛りつける。
それには膨大な集中力を必要とし、ラミアの体力は急速に削られていた。
ラミアの手は小さく震えており、段々と表情が引き攣る。
「ら、ラミア…無理しないで………」
「大丈夫です。まだ…まだ、やれます」
その姿を見たヴェーターが心配し声をかけるが、ラミアは魔法を止めない。
震える手で再び魔法を繰り出す。
一人、また一人と血の縄が人々を拘束し、テンペスが風魔法で集める。
(ま、まだ…………)
ラミアの視界がふらつき始める。
(ここで倒れちゃ…………)
しかし、彼女の意志とは裏腹に、体は既に限界を迎えていた。
彼女の視界が段々と白く染まっていく。
(まだ…ダメ…………)
それでも尚、血を操り続けようとしたその途端、彼女は全身から力が抜けていく。
それと同時に、宙に浮かんでいた血が一斉に地に落ちた。
(ダメだ……身体が言うことを)
そしてラミアの身体が後ろに倒れそうになった時、その身体を風魔法が静かに受け止めた。
「………………ありがとう、ラミア。ゆっくり休んで」
「り、リゼットさん…」
ラミアの背後では、一体の人形が小さな風魔法を放つ。
それはラミアを優しく包み込み、背後へと連れていく。
「…………もう、大丈夫だから」
そう言うと、リゼットは静かに指を前に出す。
「──────解析完了」
その言葉と共に、リゼットは再び人形を動かした。




