〈10-6〉英雄vs国王
再びオルドの懐へと接近したリベリオが、その拳に力を込め、殴る。
だが、オルドもただ一方的にやられるだけでは無かった。
「土魔法・断崖ノ盾」
「っ!?」
オルドは即座に土魔法で盾を作り出す。
盾はリベリオの一撃によって亀裂が入り、粉々に砕け散る。
それでも、オルドが言葉を発するには充分な時間があった。
「リベリオは我に攻撃することを禁ずる!」
「しまった!!」
オルドが秩序魔法でルールを設定。
これにより、リベリオは直接オルドを攻撃することができなくなってしまった。
「ふふ、ふふははは。英雄よ、これが我の魔法ですよ」
形勢が逆転する。
リベリオはその魔法の厄介さにめを細めた。
リベリオの本領が、たった一言の宣言によって封じられた。
「本当に厄介な魔法だ……」
リベリオは近くにあった瓦礫の破片を手に握り、それを勢いよくオルドへと投げ飛ばす。
「小癪な」
しかしそれは、オルドの前で突然軌道を逸らす。
その直後、一瞬で接近して蹴り飛ばそうとしたが、見えない盾のようなものに阻まれてオルドの身体に届くことはなかった。
「攻撃が当たらない……」
「当たらないんじゃない、当てられないんですよ!」
高々と笑うオルドを、リベリオは睨みつける。
秩序魔法によって固定されたルールは絶対だ。
単純な魔法であれば腰に携えた剣で切り裂くことはできる。だが、ルールという概念を切り裂くことはできない。
ましてや、リベリオの剣は既に秩序魔法によって抜くことを禁じられている。
「では、こちらの番ですね。土魔法・岩山ノ剣!」
オルドは土魔法で剣を形成し、それをリベリオへと向けて放たれる。
リベリオはそれを蹴り飛ばし、粉々に粉砕。
しかし、その隙に更に複数の土の剣がリベリオを襲った。
「複数か。なら、一つ借りるよ」
そう言うとリベリオは自身に向けられて放たれた土の剣を一つ手に取り、一撃を振るう。
その一撃の風圧で、彼に向けられた無数の剣は勢いを失い地面へと転がり落ちた。
「流石は英雄。まぁ、この程度の魔法が突破できないようじゃあその名も面汚しになりますからね」
「嫌味なことを言う人だ。これでも結構必死なんだ、黙っていてくれないか」
「いいえ、逆です。私はどんどん喋りますよ!!」
そう言うとオルドは、次はリベリオの頭上に巨大な岩を作り出す。
「土魔法・轟ノ巨岩!」
巨大な岩はリベリオに向かって降下する。
「そうか、ならばこれも利用させてもらうよ」
リベリオは軽く腰を落とすと、そのまま勢いよく上空へと飛び上がり、拳ひと振りで巨大な岩を粉砕。
更にその破片をオルドに向かって蹴り飛ばす。
リベリオは直接攻撃を加えることはできない。しかし、オルドが作り出した魔法であればルールの外側にあると判断した。
「いい線は付いてましたが、だが惜しい」
オルドは不敵な笑みを浮かべる。
リベリオが蹴り飛ばした岩の破片は、全てオルドの軌道から逸れてしまい、ただの一つも当たらなかった。
「これもダメか……ならば」
リベリオは周囲に残った岩の破片を足場に、オルドの頭上へ。
そしてそのまま落下する。
しかしそれも見えない壁によって防がれてしまう。
「なるほど、落下するだけなら我に攻撃できると読んだわけですか」
「あぁ。攻撃する意思さえ無ければ通じると思ったが、どうやら本当にオレの攻撃は無意味になるようだね」
まるで突破口が見当たらない。
ルールを宣言されてしまった以上、それに逆らうことは出来ない。
「顔が引きつってますよ英雄さん。まさか、我に勝てないと諦めてしまったのですかな?」
オルドが再びニヤリと笑みを浮かべる。
それはまるで、慢心に満ちた表情だった。
「さて、そろそろ終わらせるとしましょう。リベリオはここから……」
「っ!?」
オルドが秩序魔法でルールを宣言しようとしたその刹那、リベリオは後方から放たれる魔法の気配を察知し、迎え撃つ。
激しい炎魔法が轟音と共に接近するが、リベリオはそれを蹴り飛ばし、跳ね返す。
「流れ弾か……。あっちもかなり激戦のようだね」
リゼット達が戦っている方向を軽く見つめると、再びオルドへと視線を向ける。
「で、さっき何か言っていたようだが?」
「ちっ、聞いてなかったですか。ならばもう一度言いましょう」
その言葉が、オルドの魔法を突破する鍵となった。
(もう一度……?)
その言葉に、リベリオはなにか引っかかるものがあった。
記憶の中の世界での出来事、オルドとの直接対決。
その二つで共通するものがあった。
それに、ルールが設定されているのであれば、それを教えるのはむしろオルドにとって不都合なはずだ。
「リベリオは……」
オルドがそう言いかけた瞬間、リベリオは咄嗟に耳を塞いだ。
その姿を見たオルドは突如として表情を変え、リベリオの元へ接近する。
「人の話を聞きなさいっ!!」
そう言いながら、耳を塞いでいたリベリオの腕を掴み上げる。
「さぁこれで逃げられませんよ!次こそ……」
「いいや、もうわかった」
リベリオは地面を強く踏む。
轟音とともに、王室の床に亀裂が入った。
「君の魔法の弱点。それは、聞いてなければ意味を成さないということだ」
「ぐぬぬぬぬぬ!!」
オルドの顔が引き攣る。
「なるほど。その顔を見る限り、正解のようだね」
オルドの秩序魔法の条件、それは宣言を聞くこと。
偶然にも飛んできた後方からの流れ弾が、彼の魔法の弱点を見抜く部品となった。
そして、それを理解したリベリオの表情が戻っていく。
「ならば宣言を聞かなければいい。君の声よりも大きな音を出すことくらい、オレには訳無いことだからね」
「くそっ!しかし、設定されたルールは絶対です。例えこれ以上のルールが設定できなくとも、お前は我を攻撃することは……」
「出来ない。けれど、今君は僕の腕を掴んでいる。自分からは触れないのが厄介だったが、君の方から触ってくれるのなら話は別だ」
リベリオは、オルドに掴まれたままの腕を勢いよく振り上げる。
「なっ!?」
咄嗟に手を離したオルドの身体は、その勢いのまま上空へと放り出された。
「くそっ!こんな形で突破されるとは思っていませんでしたよ。だが!これで終わる我ではありません!」
オルドは上空で複数の土魔法を唱える。
彼の周りに弾丸のような土の塊が複数形成された。
「土魔法・巨岩ノ砲弾」
複数の土の砲弾はリベリオに向けられると同時に、更にオルドが秩序魔法を発動。
「この魔法は全て、破壊されることを禁ずる!」
と、ルールを設定。
複数の岩の砲弾が容赦なくリベリオを襲う。
リベリオはそのまま迎え撃ち、拳で粉砕しようとする。
だが、ルールが設定されてしまった以上それを壊すことは出来ない。
「なにっ!?」
岩の砲弾は壊れることなくリベリオをそのまま押し込み、潰そうとした。
その勢いで地面に着地したリベリオは、逆にその砲弾を次々とオルドへと投げ返す。
「無駄ですよ!」
しかしそれはオルドには一発も当たらなかった。
「いいや、これでいいんだ」
「はい?」
「オレは攻撃を君に跳ね返したんじゃない。あえて上空に投げ飛ばしたんだ」
オルドにはその意味がわからなかった。
なぜ上空に投げる必要があるのか。
壊れないというルールがある以上、リベリオほどの身体能力をもってしてもこの攻撃を壊すことはできない。
だが、避けるだけなら簡単だ。
しかしそれを、彼はあえて上空へと投げ飛ばした。
「何を意味のわからぬことを。しかし、もうヘマはしませんよ。さぁ、終わりなさい!」
オルドが土魔法を形成しようとしたその瞬間
「ふごっ!!!!」
上空から巨大岩が降り注ぎ、オルドへと直撃した。
リベリオが行ったのは、ただ岩を上空へと放り投げることだけ。
オルドへ向けた攻撃ではない。
その後、岩がどこへ落ちるのか。それはリベリオにも予想はできない上に、既にリベリオの攻撃から外れている。
「くそ……が…………っ!!」
まるで流星群のように降り注いだ巨大な岩は、いくつかがオルドを押し潰す。
彼は死の間際、最後に巨大な土の刃を形成する。
「この魔法は……」
咄嗟に耳を塞ぐリベリオ。
しかし、最後の秩序魔法はリベリオに向けたものではなく、オルドの魔法そのものに向けられたものだった。
「この魔法は…あいつに向けて進み続ける!」
その言葉と共に、オルドは大量の血を吐き出して死亡した。
最後に放たれた土の刃は、リベリオの頬を掠っただけでそのまま遠くへと飛ばされた。
「やっと、終わったか…………」
オルドを倒して安堵したリベリオは、そのままリゼット達の方へと向かう。
しかし、リベリオが気付くことはなかった。
最後に放たれた土魔法は、リベリオに向けられたものではないということに。




