〈10-4〉最悪の未来
空へと登っていく壊れた少女の姿。
その姿はオルドにとって、ただ恐怖でしか無かった。
「くそっ!ならもう一度命じる!!国民以外の魔法の使用を…………」
その瞬間、光の一閃がオルドの喉を貫いた。
「がっ!」
声が出せない。
オルドは冷や汗を大量に流しながら喉元を抑える。
「………………………もう、全部、無くなった」
リゼットは全員の亡骸を見て、ただ言葉を漏らした。
「………………もう、普通には、なれないんだ」
光を失った瞳の奥。
そこに映るのは、かつて共に過ごしてきた時間。
シキも、スピカも、ヴェーターも、アルケーも、ラミアも。
ずっと、一緒だった。
けど、それはもう終わってしまった。
『………………街が壊れても、人がいなくなっても、全部が無くなるわけじゃなかった』
ふと、時計塔の中で自分が放った言葉を思い出す。
けれどそれが、今はただ間違った選択だったとしか思えなかった。
今ならわかる。ホラが永遠の時間を求めた気持ちが。
彼女は後悔した。
「………………自分で、伝えたかった……」
リゼットはポッカリと開いたその胸に手を当て、呟く。
「撃て!!!」
「奴を撃ち落とせ!!」
「化け物め!!!」
そんなリゼットに、大多数の魔法が容赦なく放たれる。
オルド大国の国民が全員、ただリゼットにトドメを刺そうとひたすらに魔法を打ち続けた。
「……………………もう、終わらせよう」
リゼットは静かに人形を複製する。
五十体を超える人形が大国を覆い尽くすように展開された。
「………………傀儡魔法・空間ノ歪」
放たれた大量の魔法は、まるで別の空間へと誘われるように消えていく。
そして
「………………ごめんね、みんな」
上空から放たれる巨大な光線。
五十体を超える人形から放たれる、美しくも無慈悲な魔法。
それは一瞬にしてオルド大国を次々と崩壊させていく。
国民はただの一言も発せず、光に飲み込まれていく。
光は残酷なほどに全てを壊し
そしてその日、オルド大国は跡形もなく消滅した。
その光景を、ただ静かに見つめるリゼット。
彼女の心にはもう何も残っていなかった。
その少し後。
「遅かった………みたいだね…………」
エメリアがオルド大国に到着する。
しかし、その時はもう既に大国は更地と化しており、見えるのは空に浮かぶ壊れた少女と周囲に展開された人形だけ。
リゼットはエメリアの存在に気付き、静かに視線を合わせる。
「…………どうして」
エメリアはリゼットの身体を見て驚愕した。
なぜ、この身体で生きている。
なぜ、血の一滴も流れていない。
いや、それ以前に
彼女は一体、何者なんだ。
「………………どうして、私は、死ねないの…………」
その言葉を聞いた途端、全てを察した。
リゼット。
彼女は、普通の人間では無い。
あまりの恐怖からか。
それとも、この状況をやり直す方法を知っていたからなのか。
エメリアはただ、走り出した。
まるで、その場から逃げるように。
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「これが、オルド大国で起きた出来事さ」
エメリアの記憶の世界の一部始終を見たメルティ達は、ただ呆然と立ち尽くしていた。
「そんな事が……」
リベリオはただあまりの恐ろしさに声を漏らす。
「うっ……うっ…………うおえぇええ」
メルゴは自分の死とその惨劇に耐えきれず、嘔吐する。
「くそ!絶対に許さんぞ……!!」
テンペスは怒りに震え、拳を握らせる。
だが、問題はもう一つある。
それは、リゼットという少女についてだ。
「リゼットについて知ってることはあるかい?」
あの光景を目にした後でも、メルティは一人冷静になっていた。
本当は恐怖で全身が震えている。
けれど、自分の知る師匠ならこんな時でも冷静でいるはずだと強く思った。
恩師の意志を受け継いだ者として、ただ冷静を装った。
しかし
「わからない。彼女が何者なのか、何があったのか、直接会って記憶を見ないと分からないんだ。ボクもあの日、この状況をやり直すために必死だったから」
エメリアは四人を見つめ、そして言葉を続ける。
「ただ一つ、彼女は人間では無い何かだということだけは確かだ」
それは、あの記憶の映像を見た全員が認知していた。
「けれど、今はそのことは置いておこう」
と、エメリアが口を挟む。
「まずは直ぐにオルド大国に向かうことだよ。リゼット達も直ぐに到着するだろうから、なるべく急いだ方がいい」
「でも、今行ったところで結果は変わらないんじゃないの?どうせアタシ達死ぬなら行きたくなんてないわよ」
そう言うエメリアに、メルゴは反対する。
そんな彼女にエメリアは静かに微笑み、そしてリベリオの方を見つめた。
「だからこそ、君が必要なんだ」
「なるほど、そういう事か」
リベリオは既に、一つの可能性に気付いていた。
オルドが言葉を発した直後、全員の魔法が使えなくなった。
そしてリゼットが起き上がった後も、再び同じ言葉を発しようとしていた。
魔法の詳細までは分からない。
けれど、少なくともあの言葉になにか意味があるはずだと。
仮にそれが外れていたとしても、魔法無しで魔法に対抗できるのは、英雄リベリオただ一人。
「君ならその剣だけでなんとかなるでしょ」
「あまり自分の力を過信したくは無いけれど、でもまぁオレならどうにか出来ると思う。とりあえず善処だけはしておくよ」
リベリオがそう言うと、エメリアは安心したような表情で笑みを返した。
そして、彼は追憶魔法を解除し元の世界へと戻る。
「おお!戻って来たぞ!」
見覚えのある場所に戻ってきたテンペスが思わず声を発した。
「じゃあ僕達はすぐオルド大国に向かうとするよ」
「行こうぜ!ダチのためにも!!」
「あんたはほんっっとそればっかね!いいから行くわよ!」
そう言うとメルティ達は真っ直ぐにオルド大国へと向かおうとした時
「あ、それともう一つ」
エメリアが三人を引き止めるように声を発する。
「リゼットのことについては、何一つ触れないようにしてほしいんだ。あの時、たしかに彼女は自分から伝えたかったと言っていた。だからボク達の方から詮索するのは彼女にとっても不都合だと思うんだ」
「わかった。これは僕たちだけの秘密ということにしておこう」
エメリアの発言を聞いたあと、三人は再び背を向きオルド大国へと向かって行った。
その場に残されたリベリオはただ一つ、エメリアに問う。
「一つ気になるんだが、どうやって時間を巻き戻したんだ?君の追憶魔法で世界の記憶を消せるのは、自分で見た記憶だけのはずだが」
その問に、エメリアは真剣な顔付きで返した。
「ノエルを頼ったんだ」
「の、ノエルを……?」
その名を聞いた途端、リベリオの目が見開かれる。
「ノエルの魔法を…………いや、その話はまた後だ」
リベリオは直ぐに切り替え、エメリアに背を向け走り出した。
「さて、変えようじゃないか。最悪の未来を……」
エメリアは空を見上げ、呟く。
五人だけが知っている最悪の未来。
その未来を変えるために、世界は再び動き始めた。




