〈10-3〉惨劇
「やっと着いたーーー!!」
「ここがオルド大国か、ロドモンテ以上の規模はありそうだな」
リゼット達はオルド大国の入口へと足を踏み入れていた。
流石は大国と呼ばれることもあり、その広さに六人が周囲を見渡す。
「で、でもここって敵の本拠地みたいなものだよね。なんかみんなの視線が怖い気がする……」
「ヴェーターの言う通りね、まるで歓迎されているという雰囲気を微塵も感じないわ。それどころか……」
スピカは自分達を見つめる人達と視線を交わす。
人々の視線はまるで、見知らぬ人を追い払おうとするかのような鋭い目つきだった。
「とりあえず、辺りを見て回りますか?もしかしたらワクスに関する情報が得られるかもしれませんし……」
「いや、まだよ」
ラミアの提案に、スピカが口を挟む。
彼女はただ地図を眺めていた。
動く四つの光点。そのうちの三つがオルド大国の付近へと近づいていく。
「もうそろそろね」
「……………………メルティ達?」
「ええ。彼らと合流し、作戦を練る。ワクスの捜索もそうだけど、まず先に国王を潰す必要もあるからね」
スピカが待っていたもの、それはメルティ達との合流。
下手に動くより、まず全員が揃ってから行動を開始するのが一番だと考える。
そしてしばらく経った後
「おーーーーーい!!!我がダチとその愉快な仲間達よーーーーー!!!!!」
「うっさい!!叫ばなくても聞こえるわよ!!!」
上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
リゼット達の前に、懐かしいとも感じる三人が一斉に地に足を下ろす。
「久しぶり。元気だったかい?」
「メルティだ!!!!」
「アタシ達もいるわよ!無視しないでちょうだい!!!」
メルティ達との再会を無事に果たし、それぞれが安堵の表情を浮かべる。
「とにかく、全員集まれたわね。それじゃあ……」
と、スピカがこれからの案を伝えようとする。
しかし
「やぁこんにちは、ようこそオルド大国へ。セフィラの魔術師様方がこんな国に来ていただけるだなんて、光栄ですなぁ」
一人の男が、リゼット達の前に現れた。
「初めまして、我の名はオルド。この国の国王でございます」
「っ!?」
その瞬間、全員が身構える。
オルド。
この国に来た理由の一つであり、倒すべき相手。
その相手が今、突然目の前に現れた。
「観光なり食事なり、なんなりと楽しんでいってください」
オルドは他の人々とは違い、満面の笑みを浮かべてリゼット達を歓迎した。
「ただし…………」
その瞬間、オルドの表情が変わる。
ニヤリと鋭い笑みを浮かべ、言葉を続けた。
「国民以外の魔法の使用は、一切禁じます」
その瞬間、周囲の空気が変わる。
ある者はリゼット達を睨みつけ、ある者はその手に魔法を繰り出そうとしている。
その雰囲気だけで伝わる。
最初から歓迎なんてされていないどころか、まるで来ることを悟っていたかのように本気で殺しにくるつもりだと。
「なるほど、歓迎ムードじゃ無さそうだね。でもまぁ、この程度の魔術師なら余裕じゃないかな」
「お?戦闘か?いいじゃねぇか!!我がダチよ、共に戦おうぞ!!」
「誰がテメェと戦うか!俺は俺で殺るから、テメェは勝手に殺ってろ!!」
「皆さん、油断はしないでください。何が来るかわかりません」
と、それぞれが対抗するように戦闘態勢に入る。
「……………………行くよ。傀儡魔法」
と、リゼットが人形を複製しようとする。
だが、人形は手に持った一体のまま増えることはなかった。
「………………え」
魔法が失敗した。いや、使えていない。
それは、リゼットだけでは無かった。
「な、なんで!?ゴーストちゃん見えてないの!?」
「血が……操れない?」
「炎も氷も出せない。これはもしや…………」
シキも、ラミアも、メルティも。全員が魔法を出せずにいた。
理由は分からない。けれど、何かしらの力によって魔法を封じられていることだけは分かる。
「魔法が封じられている……」
スピカが思考を巡らせる。
オルド大国で起きたこの短時間で、何故魔法が使えなくなったのかを。
考えて、考えて、そして……
「まさか!」
スピカはオルドを見つめると、まるで正解だとでも言わんばかりの顔でオルドが不敵に笑った。
気付いた時には、もう遅かった。
「……………………えっ」
魔法が使えず困惑する瞬間をつき、複数の土魔法がリゼットの胸を貫通させた。
それだけでは無い。
次は水の刃が両足を切り裂き、氷魔法がその顔面の半分を抉る。
「………………………………」
「リゼット!!」
最初に攻撃を受けたリゼットは、ただその場に倒れる。
全員がリゼットの元に駆けつこうとするが、次々と襲い来る魔法を避けるのに精一杯で、もはやリゼットを気にしている暇など無かった。
「ちっ!魔法封印とかふざけやがって……!!」
アルケーがあまりの不利な状況に舌打ちする。
「ダチよ、拳で勝負だ!!」
「脳筋かよ!だがまぁ、それしかねぇ!!!!」
まず前に出たのはアルケーとテンペスだ。
力のある二人が前線に立ち、魔法を交わしながらその拳を叩き込んでいく。
「全員固まらないで!アルケーとテンペスはそのまま前を張って、私たちはなるべく攻撃を避け続けることを優先よ!」
後方でスピカが全員に指示を出す。
この状況でも最善の手を取るために、ただひたすらに思考を巡らせた。
しかし、魔法相手に魔術師が魔法無しで勝てるはずも無かった。
「っ!?」
「危ねぇぞ!!!」
アルケーを襲う氷の刃を、テンペスがその身体で受け止める。
「ぐはっ!」
テンペスは氷を引き抜き、その身体に空いた大穴から血を流しながらでも再び前へと出ようとする。
だが、テンペスの足元は既に氷で覆われており、身動きのひとつも取れなかった。
「けっ、魔法無しじゃ分が悪いな……。ダチよ、後は頼んだぜ」
その言葉を最後に、テンペスの顔を再び氷が貫いた。
「嘘……だろ…………」
目の前で起きた光景に、アルケーは足を怯ませる。
「アルケー!!上!!」
「っ!?」
スピカの叫ぶ声と共に我に返り、上空を見つめる。
底には巨大な岩形成されており、アルケーを目掛けて降下していった。
「うおぉおおおおおお!!!!!」
逃げるのはもう手遅れ。ならばとその巨大な岩をその身で受け止める。
しかし、どんなに力が強くても魔法に叶うはずがない。
アルケーは最後まで耐え切ることができず、そのまま岩に押しつぶされた。
その戦いを見つめていたオルドが、再び口を開く。
「厄介な者から片付けなさい。まずはそこの女、こいつは頭が回るみたいだから、先に殺しておいて損は無いですよ」
そう言い、オルドが指差したのはスピカだった。
「ダメぇえええええ!!!!」
スピカに矛先が向いた。
それを感じ取ったシキがスピカの元へと駆けつける。
「来ちゃダメ!!!」
そんなシキに、スピカは叫び返した。
それは、もう手遅れであると分かっていたからだった。
スピカの足元から徐々に氷が彼女の身を包み込み、そしてスピカは氷の像のように固まる。
そして
「うそ……うそだよ…………」
スピカを包み込んでいた氷は、彼女ごと粉々に砕け散った。
「スピカ……なんで…………なんで………………!」
それからはもう、ただ悲惨な光景が続くだけだった。
「やだ!まだ、まだ死にたくない……!!」
ラミアの身体は灼熱の炎に燃やし尽くされ
「ごめん、ゲラーテ。氷魔法、ちゃんと扱えなかったよ……」
メルティの身体を光の刃が貫き
「危ないわよバカ!!!」
ヴェーターを庇おうとしたメルゴの身体を闇魔法が飲み込み
「や、やだよ……もう、やめてよ…………」
あまりの怖さに足がすくみ、動けなくなったヴェーターを水魔法で窒息させる。
そして最後に
「みんな、なんで、どうして……どうしてこうなったの………………」
ただその場に座り込み、泣き崩れるシキ。
「セフィラの魔術師、全滅ですね。さぁ、終わらせなさい」
不敵に笑うオルドの無慈悲な指示により、泣き崩れるシキの首が雷の刃によって切り裂かれる。
首から上の無くしたシキの身体が、力無くその場に倒れた。
そして全員の死を見たオルドは、掛けていた魔法を解いた。
「私の魔法も知らずに来るだなんて、バカの集まりでしたね。さて、我は戻ると…………」
オルドが王室へと戻ろうとした瞬間、後方から異常な程の魔力を感じ取り、後ろを振り向く。
「な、なんなんだお前は……」
異常な魔力を放つそれは、どう見ても身体は完全に壊れていた。
身体には無数の穴が空き、足は切り裂かれ、顔半分は抉られている。
それなのに、動いている。
それどころか血の一滴も流してなかった。
「………………………………」
オルドを見つめる彼女の瞳に、もう光は無かった。




