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水平線を超えて渡る青い空と海  作者: 破魔 七歌 


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9.大樹の実家の神社に行くことに






「えぇ? 神社……。美世ちゃん本当に行くんですか? いくら大樹君のご実家と言えども……」

「嫌なら家に居れば? 私は行くよ? 大樹や皆と遊べる滅多にないチャンスなんだし?」

「仕方がないですね……。美世ちゃんを一人で放って置く訳には行かないし」

「い、いや、無理してついて来なくて良いんやで? 私は地味にミサキの方が心配やけど?」


 私は、昨日の大樹や皆との約束で、珍しくお出かけ用の私服に着替えてる。朝早くから。オシャレして出掛けるのなんて、いつぶりだろう。姿見の鏡の前に立ってメイクとかしてると、後ろでウロウロと落ち着きのないミサキの姿が映り込む。やっぱり、そう言う霊的な存在って、どうなんだろ? 間違えて、神様に祓われちゃったりしないのかな?

 そう思いながらも、昨日の教室での出来事を思い出していた。


(〝ザ・音大ズ〟……って。ふふ。なんか面白い)


 一通り着替え終えて髪に触れていると、沖野君が言った言葉が頭に響く。顔に似合わず、意外にも天然。まぁ、私も大樹も、進路をどうするのか明確には決めてなかったけど。


(大樹や皆を支えるマネージャーねぇ……。思ってもみなかったな……)


 沖野君のおかげで、思いがけない選択肢が一つ増えた。実家の民宿旅館の跡取り娘一択のみで、憂鬱だった私には……希望の光みたいに想えた。


「よし! 気合い充分っ!! さ、行きますよ、美世ちゃん!! 大樹君のご実家の神社へ!!」


 私の後ろでウロウロしながらも、時々、姿見の鏡を見ていたミサキ。神社に行く決心がついたのか、少しだけ前髪に触った後……ミサキの瞳の色が急に変わった。


(うーん。午前中の明るい時間帯に、ユーレイのミサキが神社に行くだなんて……。やっぱり、よっぽど覚悟して行かなアカンのんやろな……。ミサキ、だいぶ無理してない?)


 まぁ、大樹ん家の神社の敷地内に結界とかが張られてるとか、そんなんは知らんけど……。私や皆とは距離を取って歩くようにしていれば良いのかな? 特に、祈願のご祈祷とかする流れになったら、ヤバそうやし。


「じゃ、行く? ミサキ……大樹ん家の神社。それと、岬さくら祭り」

「もちろんです! いざとなったら逃げますからっ!! その辺は準備バンタンです!!」


 に、逃げるって……。そっか。ミサキって、ユーレイやのに足速いんやっけ。それも、すっごく。じゃあ、心配いらない?

 本当は、大樹と二人で行くはずだった岬さくら祭り。けど、皆で行くんも悪くないんかなって想える。土日は、実家の民宿旅館が忙しくなるけど……。お母さんが、パートさんやアルバイトの人を雇ったからって言ってたし。大樹や学校の皆と楽しんで遊びに行ってきぃよって、言ってくれてたし。

 私は──、ようやく皆よりも遅れた青春を……取り戻せそうな気がしていた。





「なんだか恥ずかしいな……。実家の神社に皆が本当に集まって来ちゃうなんて……」


(ドン……ドン……)


 ご祈祷のための太鼓の音が聴こえる。私とミサキが大樹ん家の神社に行くと、皆がもう既に境内に集合していた。それに大きなリュックみたいなのを背負ってる。なんなんだろう。楽器かな?

 大樹を囲む陽菜と凪と沖野君の私服姿が凄かった。学校よりもキラキラ感が更に増している。それに比べて大樹の恰好はと言うと、洒落っ気の無い簡素な……いつもどおりの服装って感じだった。髪型もいつもと変わらない。ベートーヴェンみたいだし。いや、ちょっとはオシャレしろよ大樹……。


 そう想いながら、少し離れた場所から遠目に立ち止まっていると、大樹と大樹を囲む陽菜と凪と沖野君の声が聞こえて来た。


「大樹ん家の神社って、けっこう大きいよね? けど、なんて言うのかな。森と海の神社って感じで素敵! なんか大樹みたいだね?」

「いや、照れるよ……藤堂さん。そんな、ウチの神社って規模が大きい訳じゃ無いし……」


 なに? 遠回しな陽菜のアプローチ? 陽菜の言葉に、まんざらでもない様子の大樹。なんなん? その笑顔……。


「大樹君、私服姿も大樹君って感じで素敵だね。いつもどおり飾らないところが……」


 凪が大樹にそっと近づいて、大樹の私服のヨレていた襟に触れた。ちょ、ちょっと何っ?! そ、その近しい間柄ですよ的な距離感っ!!


「ハハ……なんか何着て良いか分からなくて。斉明寺さんも、いつにも増して綺麗だね」


 うおぉっ! た、大樹っ?! な、なに、サラッと凪の私服姿……褒めちゃってんの?! そ、そんな気の利いたこと言えるとこ、あったっけ? ……大樹。


 流石の陽菜も大樹の隣で、笑顔を引き攣らせていた。凪って本当マイペース、天然だな……。

 

「まぁ、今日が晴れて良かったよね? 良い天気に恵まれて。後は……」

「うん。美世だね。そろそろ来るはずだと思うんだけど」


 あっという間に大樹と大樹を取り巻く、皆。……いつもどおりの構図になる。置いてけぼりを喰らってる私。たぶん、この後も……私だけが一人になる状況が予想される。

 遠目から大樹と皆の様子を見ていたけど。足が止まる。なんだか近寄り難い。私って、やっぱり皆とは違う。私は場違いな存在なのかな……。


「さ、さぁっ! い、行きますよ、美世ちゃん!! 大樹君の神社……。い、いざ足を踏み入れたけど、あ、案外いけそうな気が」

「ねぇ、ミサキ? 私……帰ろっかな」

「え?」


 私の後ろでビクビクしながらも背後霊みたいにくっついてたミサキ。そのミサキが、大樹の神社を前にして、オドオドしながらも私より一歩前に出てた。震えてるミサキ……。ミサキって、ユーレイなのに何だかんだで健気で。ほっとけない。その存在に助けられる。もしかしたら私は、ミサキが居なかったら……ここには来れて居なかったのかも知れない。でも……。


「あ! 新浜さん!! 来てくれたんだねっ!!」

「お、沖野君……?」


 ──一瞬、チラッと振り向いた沖野君と目が合った。沖野君が、大樹と陽菜と凪から離れて私に駆け寄って来る。

 ……え? な、なんかドキッとさせられる。


「いやぁ! 早く新浜さん来ないかなって、皆で待ってたんだ! 僕なんて、一番乗りで。ハハ……笑っちゃうよね?」

「あ、な、なんか遅れて……ごめん。わ、私なんかが場違いじゃないのかなって。皆は音楽やってる訳だし」

「そんなことないよ! 僕らは〝ザ・音大ズ〟……って、いや、あの。新浜さんも一緒に居てくれたらなって、想ってたんだ……。やっぱり、その、欠かせないっていうか。いつも大樹と居る訳だし」


 そんなに? ううん。私だって、大樹とずっと一緒に居る訳じゃない。たぶん、これからも……陽菜や凪や沖野君の方が、ずっと。音楽をともにする仲間だから。

 

 けど──、嬉しかった。沖野君には大樹と私が、そんな風に見えてるのかなって思ったけど。そんなじゃないし……。それよりも、欠かせないとか、一緒に居てくれたらなって、想っててくれたのが……嬉しかった。


「ハァ……。やっぱり良い人ですよね。沖野君って」

「そうだね。ミサキのお気に入りだもんね?」

「ん? ミサキ? お気に入り?」

「い、いやぁ! な、何でもない、なんでもないんだから……沖野君」

「?」


 沖野君がミサキのお気に入りなのは、間違いない。けど、会話が噛み合わずに不思議そうな顔してる沖野君に……なんだか申し訳ない。


「あ! 来た来た! 美世っ! こっち、こっち!」


 微妙な空気感──。金色の陽菜のポニーテールが、揺れてる。なんだか空元気? カリスマ女子って思ってたけど。凪よりも陽菜の方に壁を感じる。意外にもストレートな凪と、手の内を見せない陽菜。ちょっと掴めない距離感が陽菜にはある。私の考え過ぎなんかな。


「これで全員、揃った訳だね。あ、美世……。今日は大丈夫?」


 あ、マズい。凪姉さんには、ミサキのこと……悟られないようにしないと。今度こそ、ミサキのこと祓うとか言い出したりしたら、ヤバそうやし。


 ──なんか、ご祈祷の太鼓の音が鳴り止んでる。微妙な凪との距離感。気まずい静寂……。


「美世……?」

「あ、あぁ、大丈夫、大丈夫。ハハ……」


 皆と合流した私は、何となく居心地の悪さを感じていた。

 まだ掴めてない距離感──。

 チラッと大樹が私を見た。何て声かければ良いんだろうか。大樹と二人きりだったら、いつもどおり……話せたのにな。





「いやぁ、皆さん、なんだか待たせちゃって悪いね? 今日は有り難いことに、朝からご祈祷のご依頼が何件かあってね? あ、いつも大樹がお世話になっております。大樹の父です。美世ちゃんもお久しぶりだね〜? すっかり綺麗になっちゃって」


 大樹の神社──。皆で境内を歩いていると、神社の本殿の奥の方から……大樹のお父さんがやって来た。烏帽子に白衣に袴……。実家の民宿旅館のお祓いの時以来かな。それにしても、いつもながらノリが軽い。大樹のお父さんって、大樹とは正反対な気がする。


「あ、ど、どうも……美世です。お、お久しぶりです」

「や、やめてよ、父さん……。恥ずかしいよ……」

「いやいや、こんな良いお友だちに巡り会えて、大樹は幸せ者だ。あ、後ろの子は……」


 大樹のお父さんが、チラッと大樹と私──皆を見てから、後ろで離れて居たミサキを見た。視えているのかな……。大樹のお父さんには、幽霊のミサキのことが。


「うんうん。皆さん、とっても素晴らしいオーラをお持ちだ。じゃ、早速、ご祈祷させて頂こうかな? いやいや! 初穂料なんて、そんなそんな! 日頃から大樹がとってもお世話になっている訳だからね~。今日は特別! あ、こちらへどうぞ? 大樹のお友だちの皆さん、ついて来てくれるかな?」


 なんだか……。お詣りと御守り購入だけのはずだったのが──。いつの間にやら、ご祈祷をしてもらう流れになってしまっていた。

 

 神主の大樹のお父さんに続いて、皆がゾロゾロと本殿へと続く石段を昇る。最後尾で歩く私。ミサキが緊張した面持ちで俯いていた。振り向くと、ちょっとだけミサキと目が合う。ミサキの笑顔が引き攣っていた。本殿の入り口まで辿り着くと、魔除けとか浄霊で有名な白檀のお香の香りがした──。


(うーん。ミサキに声掛けたいけど、凪と陽菜に怪しまれるしな……。それに、どうも大樹のお父さんは、ユーレイのミサキのことが視えてるっぽいし……。だいぶ無理してるよね。ミサキ……)


 そう想いながら、学校のとは違う履き慣れていない新しいローファアを脱いだ。靴を揃える。広々とした本殿の木の床が、ツヤツヤとしていて……うっかり歩くと靴下が滑りそうになる。目の前には、綺麗に並べられた古びたパイプ椅子が置かれてあった。

 ──大樹は神社の跡継ぎともあってか、流石と言うべきか……一番前の真ん中の椅子にストンと腰掛けた。

 大樹の両脇を挟むようにして、凪と陽菜が座る。

 うん。間違いないな、コレは。私は早くも大樹争奪戦から押し出されている。い、いや、大樹とは……そ、そんなじゃないし? わ、私には大樹と幼馴染みって言うアドバンテージが……あるし。


 そう想いながらも私は、大樹の背中が見える真後ろの席へとチョコンと腰掛けた。なんだか、昔……中学の時かな。大樹が出た最後のコンクールの時のことを想い出す。あの時は──。


「──隣。座って良いかな? 新浜さん……」

「え?」


 なんだろう。どうして? 沖野君、てっきり最前列で大樹とか凪や陽菜と座るのかと思ってたのに……。

 

 後ろを振り返ると──。ミサキが物凄く離れた場所で、最後列の角っこの誰も座って居ないパイプ椅子にチョコンと腰掛けていた。

 午前中のキラキラとした陽射しが、ミサキを照らしてる。目を閉じ手を合わせ……必死で祈るミサキ。私は、ドキドキとしながらも、ミサキや大樹──、凪と陽菜と沖野君の姿をキョロキョロとしながら見渡していた。

 なんだろう。とっても不安で……落ち着きが無かった。私以外の皆が、前を向いて静かに座って居た。遠くには、瀬戸内に広がる海と空と──、青い水平線が見えていた。

 


 




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