表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
39/46

第35話 保険請求 その1

「ふにゃあ~」

何とも気の抜けるような声でキサラちゃんが鳴いた。まあ、今は暖かい昼すぎなので、眠いのかもしれない。普段ぴんっと立っている耳も少し折れかかってるし、目もなんだかトロンとしてるし…。なんだか私も少しねむく…。


「葵ちゃん、眠くなるのは分かるけど、もう少し頑張ろうね~。」


「えっ!全然寝てないですよ!」

私は慌ててパソコンの画面に目を戻した。あぶないあぶない。集中しないと。せっかく先生が貴重なこと教えてくれてるのに。


「まあ、さすがにぶっ続けにやると疲れるだろうから、ちょっと休憩しよっか。ちょっと待っててね。」

そう言うと美夜先生は薬局の奥から取ってきたスティックコーヒーを入れ始めた。


「葵ちゃんって砂糖どれくらい入れようか?」


「あ、自分で入れるんで大丈夫です!」

あぶないあぶない。先生は目の前で、砂糖のスティックをまとめて10本ほど入れていた。あれを飲んだら逆に眠く…いや、気持ち悪くなりそう。


私は砂糖を少し入れ、スプーンでかき混ぜながらさっき習ったことを思い返していた。今日はお金の、

保険についての話だった。


②❾〇


普段私たちは医療費を全額払っていない。払うのは3割だ。まあ70歳以上の老人だったら1割、生活保護の人に至ってはタダだけど。じゃあ残りの7割以上は誰が払ってるの?ってなるけど、これは毎月2か所にそれぞれ請求してもらっている。その2か所とは、社会保険診療報酬支払基金と国保連合会だ。この2つのどちらに請求するかは、社会保険か国民健康保険(国民保険)のどちらに加入しているかによって決まる。名前から何となく想像がつくけど、社会保険なら社会保険診療報酬支払基金へ、国民保険なら国保連合会へそれぞれ請求する。請求すると、だいたい3か月後に振り込まれるという仕組みだ。

ちなみに私は社会保険と国民保険がそれぞれ何なのかよくわかっていなかった。

美夜先生にそれを聞くと、「まあ、普通興味持たないわよね…」となんだか残念そうな顔をしていた。

資料をもらって勉強しておいてね!と言われたが、量はA4の紙3枚分くらいだった。

2つの違いは簡単に言ってしまうと、何の仕事をしているかだ。社会保険は企業勤めのサラリーマンや公務員が加入し、国民保険は個人事業主が加入する。

ちなみに処方箋、というか保険証を見ると、その人が何の保険に加入をしているかわかる。番号と記号が書いてあるが、一番左端の番号を見ると何の保険課が分かるようになっている、。例えば01なら中小企業、31なら国家公務員といった感じだ。昔は医療事務の人がまず保険証を受け取ってこの番号をカルテに登録して会計をしていたが、今では医療ネットワークのおかげで全情報をネット上で閲覧できるのでその必要はない。これがな勝ったころは、毎回保険証を提出してもらい、問診票に名前や住所を記載するという手間がかかっていた。短気な人はこれをやらずに怒っていたらしい…。まあ、病院でやったことを薬局でもやらされたらめんどくさいなあと思っちゃうけど。


「そういえばこれって普通は薬剤師じゃなくて医療事務の人?がやるんですよね?」


「まあ、確かにそうだけど、私みたいに一人でなんでもやらないといけないときがあるかもしれないしね。誰かがやってくれる、って思ってると大失敗する時があるからね…」


美夜先生は遠い目をしながら言った。昔それで失敗とかしたのかな。


「先生…」


「葵ちゃんも気を付けた方がいいわよ。人を頼りにしすぎると、その人が予想以上にできなかったらいらいらするから…。」


「え…」

もしかして、私があんまりうまくできてないから少し怒ってる?


「あ!別に今はそんなことは思わないわよ!忙しい場所だと余裕なくなってそう思っちゃうってことよ!」


私の不安そうな顔を見て、必死にフォローし始めた。そうされると逆に不安になってくるけど…。


「葵ちゃんはそこら辺の量産型薬剤師より明らかに優秀だから気にすることないわよ!私が保証するから!ねえ、キサラもそう思うわよね!」


「にゃ~ん。」

キサラちゃんはこっちを振り向かずしっぽだけ振った。眠いだけだよね?


「…先生、大丈夫です。先生ははっきり物事は言いますけど嘘はつかないって信じてるんで。」


一瞬美夜先生は何か言いたげな顔をしたがやめたようだ。


「ま、とりあえず続きをしよっか!」


そう言いながら美夜先生はパソコンで1つのファイルを開いた。

様式を見るとなんとなく何なのかがわかってきた。

「先生これって、さっきの」


「そうそう、これが毎月提出する保険請求の様式よ。次はこの書類の作り方を勉強しよっか!」


美夜先生はそう言うと、どの欄に何を入力すればいいか簡単に教えてくれた。といってもたいがいはカルテを参照したりすれば分かるけど。ちなみに昔は保険請求には請求明細書というものを専用ソフトで作成後、印刷して郵送する必要があった。だが、今では社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険中央会作成の、「レセプト電算処理システム」というものをパソコンにダウンロードすればオンラインで提出できるので楽にはなったそうだ。ちなみにこれを利用するためには月4000円~6000円かかるそうだ。


「じゃあ、試しにこの人のを入力してみて!」


私はさっそく先生から渡された患者の情報を入力し始めた。


②❾〇


「終わりました!」

あの後、いろんなパターンを体験した方が良いと言われ、先生が厳選した患者さんのレセプトづくりを行っていた。選んだものは間違えそうなものが多いのでいい経験になったけど…、とっても疲れた…。


「疲れたら甘いものね~」

先生はそう言うと、チョコレートを渡してきた。目がぎらついている招き猫の形をしたチョコレートで裏側には「辛」の文字があった。妙に凝ったチョコレートだ。


「かわいいでしょう? この前、もらったのよ。」


先生は嬉しそうに言ってるけど…、正直食べづらい顔をしている。それに裏の文字が「辛い」って言うのも気になるんだけど…。でも、多分デザインか何かよね?


「あ、そういえば、今回は、丁寧に書いてもらったけど、実はね…」

先生は何かを思い出したようで、デスクトップ上の「保険請求」のアイコンをクリックした。そこには患者名や保険の種類など多彩な情報が記載してあった。その情報を見ると、ふと気づいた。

「もしかして、これって自動的に保険請求の時に提出する情報が記録されてるんですか?」


「ふふっ、よく気付いたわね。そう、実はこのパソコンは患者情報と連動してあるからカルテを保存すれば自動的に振り分けれるようになってるのよ。だから、私は保険請求に手間なんてかからわないわね。まあ、でもやり方わかってないといざというときに対応できないからしっかり覚えておくようにね!」


「はい…」


そんなことよりこのチョコの方が気になるんだけど…。まあ、今はとりあえず置いといて…。


「そういえば、こういうことって大学の時はほとんど勉強しませんでしたけど…。どうやって勉強したんですか?」


「まあ、私も病院で働いていたときは勉強するっていう考えがなかったけど、ここで働くことを決めたときはそれなりの覚悟を持っていこうって感じだしね。ちなみに勉強はねえ、とりあえず医療事務の本を買ったわ。だいたいこういうときに難しい専門書を買ってもやる気起きないしね。あとは自分が誰かに説明できるくらいまで勉強すれば大丈夫よ。」


「何か簡単そうに言ってますけど、かなり大変ですよね、それ。」


「まあ、死ぬ気でやればこれくらいやれるわよ!」


少し得意げな顔になっているが、別にほめたわけじゃないんだけど。まあ、嬉しそうだし、別にいいかな。


「すみませーん、我流先生、すこーし質問したいことが…」


その時、気の抜けるような声が薬局内に響いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ