第34話 ネットワークビジネス その2
そこら辺のサプリメントはいかに栄養が多く含まれているかを説明するだけだが、俺にはさらに切り札がある。まあ、ほかのサプリメントより栄養が多く含まれている点も強調するが。
「…こちらにはファイトケミカルがこのグラフのように通常の食品の数倍含まれていまして…」
「…ちなみにこのファイトケミカルって何なんです?」
学生の桜庭さんが食いついてきた。彼女は化粧品や儲かるシステムには興味ないようだが、この話には興味があるようだ。
「それは、7大栄養素の1つで、老化防止や美肌効果、さらには脳機能もアップするなど様々な効果があります。」
「7大栄養素?」
葵は首を傾げた。3大栄養素は生きるのに必須の栄養素で、たんぱく質、脂質、炭水化物の3つだ。人によってはこれに無機質とビタミン、食物繊維を入れたがるが、これでもまだ6つだ。
「ええ、薬学生なら3大栄養素はご存知ですよね?たんぱく質、脂質、炭水化物の3つです。それにミネラルとビタミン、食物繊維と先ほど言ったファイトケミカルを加えて最近では7大栄養素と呼ぶんですよ。」
「そう…なんですか。」
「葵ちゃん、これ別に学術的に認められてないから3大栄養素以外をテストで選ぶと間違いになるわよ? ちなみに何大栄養素ですか?という問題は昔国家試験で出たわね。」
美夜先生は3品目の料理を食べながら答えた。先生、食べるスピード速すぎです…。いったいその体のどこにそんなに食べ物が入るんだろうか?
「あと、ファイトケミカルのそもそもの意味は植物に存在する化合物って意味だから別に栄養とは限らないわよ?無限に種類はあるし、そのすべてに良い効果があるってのははっきりしてないわ。」
「怪しいものではありません。ここに科学的根拠があります。」
俺は数日前に発見した論文を見せた。
「ちょっと見せて…。これ以外に論文ってあるの?」
「え、ありませんけど…。科学的根拠はそれでじゅうぶ…」
「あなたねえ、こんな発展途上国の国内論文なんて1つなんて信用できるわけないでしょう?論文出せば通るようなところなのよ?ふつうは複数の国際論文が存在して、あらゆる面から分析したものが科学的根拠というのよ?」
「え、そうなんですか?」
意外な展開なので間抜けな声が出てしまった。これはまずい!
「で、ですが、それに加えてこのパンフレットにもある通り有名な医師の方が…」
このパンフレットにもある医師はファイトケミカルの健康に与える影響について何度も発表している。
テレビや雑誌でもそうだが、医師が言う健康情報は信用性がとても高い。
「は?医者が言ったから何なの? 医者は別に科学者じゃないから栄養なんてさらっとしか勉強しないし、国立大学の一部くらいしか研究してるところなんてないわよ。栄養なんて言う科学的な分野なんて医者より研究者の方が説得力があるわ。」
そう言いながら4品目、ホットケーキにハチミツを溢れるくらいかけていた。今の俺の心境と合わせて見ると吐きそうになるのをこらえるのがとてもつらい。
「それに、この医者…。検索したけど、底辺私立の出身の大学じゃない。ここじゃあ医師免許取る勉強しかやってないから何もわかんないと思うわよ。多分、この人もネットワークビジネスで稼ぎたいからこの商品買う人増やすためにやってるだけじゃない?」
「…」
どうする?何も言わないと余計怪しまれる。考えろ!今まで何度も切り抜けてきたじゃないか!ここでこんな危機を乗り越えられないはずがない!俺は、俺は優秀なな人間なんだから!
「我流さん! あの、確かに証明は不十分かもしれません! でも、彼、えい…間崎の言葉は一度だけでもいいから信じてみてください!私は彼に救われたんです。」
智栄美が美夜に向かって叫んだ。だが、美夜はそんな言葉を気にせず、5品目のパフェの上のイチゴを口に入れていた。えらく冷めて目で見ている。
「…というと?」
「私、昔から自分に自信がなかったんです。美人で周りから人気もあった我流さんには分からないかもしれませんけど…。でも、彼はそんな私に自信を持たせてくれたんです!」
「智栄美…」
気づかないうちに声が出ていた。バカかよ…。俺は、お前のことを利用しただけなんだぜ。なのに、ほんと馬鹿だよ。だからだまされるんだよ…。
「先生…」
葵は不安そうな顔で美夜を見た。
カランと音がするとパフェにスプーンが置かれた。
「う~ん。ご馳走様。じゃあ帰りましょうか、葵ちゃん。」
「ちょっ! 我流さん、今の話聞いてたんですか!?」「え、いやっ、何で?」
間崎と智栄美は同時に叫んだ。
「先生…。さすがに何もコメントしないのは…。」
あきれ気味に見るが、美夜先生は気にしてないようだ。
「いやあ、茶番は見飽きたし。あと正直そんなどうでもいい話私に言われても…関係ないし。」
申し訳なさそうな顔もせず、少し笑いながら答える美夜を見て、智栄美は怒りを覚えるどころか、何も考えることができなかった。
「が、我流さんは、鬼ですか? あなたは立場の弱い人の気持ちが…」
「ええ、分かんないわよ。そんなの。私は弱いからそのままっていう考えが気に入らないのよ。弱いなら今からでも死ぬ気でやって強くなればいいのに。」
「そんな簡単に…」
「そりゃあ簡単なわけないわよ。だって、強くなるのよ?今までの自分を変えてよ?そりゃあ生半可な覚悟じゃできないわよ。あなたみたいに誰かに頼らなきゃ変われないなんて考えじゃ絶対不可能よ。まあ、今回は変わった気でいるだけみたいだけど。」
「そ、そんなひどいこと言わなくても…」
智栄美はすでに目に涙を浮かべていた。昔の弱い自分から変わったと思っていたが、今それを否定されたから当然だろう。
「祠堂さん、あなたが、それをやるのは勝手だけど、これ以上私たち誘うっていうのなら、もう会わないわ。一生ね。」
冷たい目で見ながら美夜先生は答えた。祠堂先生はすっかり落ち込んだようで、何も言わず、ただ美夜先生の目を避けるように真下を見ていた。
「ああ、そうそう。えっと間崎さんだっけ?」
「え、はい…。」
「ごちそうさまでした。ここの勘定お願いね。あと…」
美夜先生は間崎さんのネクタイをつかんで引き寄せた。少し彼に恐怖の色が浮かんでいる。
「別にあなたが、何しようと勝手だけどあんまり人を不幸にしてると、いつか自分も後悔するわよ?今日のことは忘れないことね」
ネクタイをつかんだ手を離すと、腰が抜けたのか、彼はその場に座り込んだ。少し考えるような表情をしている。
「じゃあ、帰ろっか!葵ちゃん!」
先生はそう言うと私の手を引いて店を出た。
②❾〇
今日は遅い時間帯ということもあり、先生が私の家まで送ってくれることになった。先生はさっきからキサラちゃんの話だったり、大学時代の面白い話だったりと明るい話ばかりしている。
「先生はどうしてあの祠堂さんって人の話を聞こうと思ったんですか?」
ずっと気になっていたことを聞いた。美夜先生なら最初に話を聞く段階で、めんどくさいと言って帰っていただろう。
「そうね。ああいう依存するタイプ見るといらいらするからね。」
「先生…」
「あと、葵ちゃんが将来変な男に引っかかったりしないためかしらね?」
「え?」
「だって葵ちゃん処女臭がするし、変な男に簡単に騙されそうだからね。」
「ちょっ!しょ、しょじょってそんな…」
「ふふっ! そんなに真っ赤になるなんてまだまだね。いい女は仕事も恋愛も完璧じゃなきゃねえ。」
意地悪そうな顔を浮かべながら美夜先生は私の頭をなでた。どうやら私はまだまだ勉強しなきゃいけないことが多いらしい…。
お待たせして申し訳ありません。なかなか身辺整理が忙しくて…。




