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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第33話 ネットワークビジネス その1

俺の名前は間崎まさき 栄一えいいち

ネットワークビジネスで、サプリメント、洗剤や化粧品を購入する会員を増やす仕事をしている。ネットワークビジネスというとねずみ講とかマルチ商法とか言って犯罪者扱いするやつが多いが、実際は合法だ。実際に法律では連鎖販売取引という名前が存在し、ねずみ講などと区別されている。

連鎖販売取引とは、特定商取引法第33条に規定されており、マルチ商法ともいう。マルチ商法はねずみ講と違って合法なのだ。ちなみに、合法であるためには守らなければいけない点がある。

1つ目は、お金ではなく物の販売であること、2つ目はそのものを買う人が、新しい購入者を勧誘して手数料をもらっていく形式だ。もしピラミッドのように一番初めに始めたやつが一番儲かる仕組みだとアウト。あくまで頑張って一番売ったやつが儲かるシステムが重要だ。といってもシステムが複雑すぎて、理解できる奴が少ないが…。


俺は5年前からこれを行い、地道な行いが功を奏したため、今では月に100万の権利収入を得ている。これだけ見ると欠点がないのでやってみようかなと思うやつが多いが、実はこれには罠がある。確かに俺が始めたときは人数が少ないので販売個所は数多くあった。だが今では情報が氾濫する時代で、この手の製品なんて数多くあるし、そもそもやりたがる人が少ない。だから俺のように月100万なんて行くのは不可能なのだ。だが、一度参入すると元を取り返したい心理が働き、ずるずると続ける人が多い。株で言う損切ができないのだ。

 

 ちなみにこれをやれる奴は、友人関係等の周りのつながりがなくなる覚悟がないと無理だ。俺が最初に紹介した奴は自分の友人を誘ったおかげで、今までの関係がすべてなくなってしまい、今では俺しか友人がいない。この段階でやめなかったのは、俺の必死な説得のおかげだろう。

「あいつらは現状維持が好きなやつ」とか「今動けない奴はくそ!でもお前は動ける数少ない奴だから絶対成功する」とか。まあ、こんなこと信じるなんて見ててバカとしか思えないが…。最近ではこいつも知識を身に着けたのか、口車がうまくなってきた。もう罪悪感とかはないのだろう。まあ、そんなことを考えず、いいことをしていると思ってやってるやつはずっと質が悪いが…。


ちなみに今売りにしているのはこのサプリだ。一応栄養成分としてはトップクラスな上、ファイトケミカルという栄養成分が入っている。こちらは最近医者等も注目しているものだ。これはやはり女性にも大人気だ。ばかそうな女ではなく、意外と知的な女にも売れたりする。ファイトケミカルという単語を調べると、文献も見つかるし、科学的な証拠もばっちりというわけだ。


最近付き合っている女、祠堂 智栄美 という薬剤師の女は、俺が進めたこのビジネスに夢中だ。「あなたに出会えてよかった」なんてくだらないセリフを吐いている。おそらく自分のセリフに酔いたいんだろう。さきほど連絡があり、このビジネスに参加させたい女性がいるので、俺に手助けをしてほしいそうだ。基本的にネットワークビジネスは、新人に対し、先輩が説得の手助けをする。とりあえず、説得する人数を増やして、断りづらい状況を作るのだ。もちろん慈善でこんなことをするわけじゃない。自分が紹介したやつが新しい人を連れてくればさらに収入が増えるので、俺も必至というわけだ。

 

 カフェに来てみると、彼女とともに明るい茶色の髪をした女性と黒髪の清楚な女の子がいた。明るい髪の女性見ると、「美しい」と素直に思った。コーヒーを飲むしぐさだけでも何かの芸術のようであり、目を離すことができない。彼女はこちらに気づいたようで、こちらを少し見たがすぐにコーヒーに目を戻し、シロップを入れ始めた。

 「ちょっと、栄一!どうしたのよ。ぼーとして。」

智栄美が不安そうな顔でこちらを見ていたので、いそいで気を取り直した。あぶないあぶない。だが…。この女もそろそろ用済みだし、この美人と付き合うのも悪くないかもしれない。俺にはぴったりだろう。なあに、年収を見ればどんな女も食いつくさ。


「はじめまして、私は、の間崎栄一です。今日はよろしくお願いします。」

彼女はこちらを一瞥すると、少し怪訝な顔をした。

「ねえ、祠堂さん。今日って女の子だけだと思ってたんだけど、この人は?」


「あ、私の彼氏です。実は彼に出会って人生変わりまして。我流さんにもぜひ紹介したいな?って。」


彼女はますます不快な顔をした。まずい、この女はやっぱりバカだ。おかげで彼女は少し不振がっている。だがここからはまだまだ挽回可能だ。不可能なのは彼女たちがすぐにここから逃げ出すことだ。まあ他人に気を遣う日本人は難しい。また智栄美のように、誰かに頼らないと生きていけないような女にはさらに難しいだろうが…。


「すみません、説明不足ですね。まずは、説明させてください。」


「…ここをおごってくれるなら、別にいいわよ?」


「先生!?」


「それくらいお安い御用です!好きなだけ頼んでください。」

こいつ、意外とやりやす…

「すみません、このメニューの高いものから順に5番目までのお願いします。葵ちゃんはどれにする?」

どうやら遠慮を知らない女らしい。まあ、それぐらいすぐに取り返してやるからな。


②❾〇


まずは商品の説明からだ。ここでいかに商品がそこら辺のスーパーで売っているものと違うかを説明するかが大事だ。今までは食器用洗剤を使った説明をよくやっていた。実はこれにはトリックがある。俺が販売している商品はあらかじめ水で薄めたものを使い、市販の原液と汚れの落ちを比較する。実は洗剤はそれだけでは洗浄力はない。水が入って初めて洗浄作用を発揮するので、市販のものよりも汚れが落ちるのは当たり前なのだ。ちなみに一度、成分を調べてみたが市販のものと同じだったのは内緒の話だ。

今回は薬剤師が相手なので見破られる可能性がある。だが、こういう頭の良いやつは科学的に認められているという説明には弱い。科学的な証拠があれば否定はできないだろう。と、いうことでまずは…。

「こちらの高級スキンケアなんですけど、世界で売り上げが5番目なんですよ!なんとハリウッド女優も使用してる方が多数です。」

基本的には女はブランドに弱い。有名人が使用しているというだけで自分も使いたがるのだ。その美しさがつかったところで手に入るとは思えない奴でも、だ。


「わたし、そんな使わなくても肌には自信があるからいいわ。」

我流さんは1品目のステーキを半分食べながら言った。

「え…?あの、もっときれいになりますよ!」


「私、そこら辺の女優よりきれいな自信あるし、そんなものに頼るほど軟弱な体じゃないからいらないわ!」


「美夜先生、その自信どこから出てくるんですか? 確かに先生は美人だと思いますけど…」


「ありがとう! 葵ちゃんもそんなもの使わなくてもすごくかわいいわよ!」

こいつ、俺に話しかけるときは無表情なのに学生に話しかけるときは笑顔なのかよ!まあいい、ここまで自信過剰なやつは想定外だ。すぐに別の商品の説明に移った方がいい!

こうなったら最後の手段と思っていたが、サプリメントの説明をした方がいいだろう。これは医師や研究者の間でも有名になっているものだ。

「申し訳ありません。実は本当に紹介した商品はこちらのサプリメントでして…」

俺は丁寧に説明を始めた。


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