第28話 医薬分業
「彼氏が最近私のことを見てくれない?知らないわそんなこと。全く恋愛相談を薬剤師にしないでほしいわね。」
先ほどからパソコンのメールの確認をしているが、薬に関する相談はほとんどない。美夜はため息をしながら他の相談内容や質問に目を通していく。学校薬剤師の業務の一つに学校内の生徒及び教員の薬に関する相談にのる、というものがある。だがそれを勘違いしている人が多いのか、薬はそっちのけで自分の悩みを相談してくる人ばかりだ。ちなみにこの相談は前に葵ちゃんと言った三毛小学校の女性教員、播磨先生からだ。あんまり印象に残らない人だったので顔は覚えてないけど。
そしてさらに同じ小学校の教員である王子先生からもメールが来ていた。確認すると、
『我流先生、2人きりでお話ししたいことがあるのですが会えませんか?先生にどうしても相談に乗ってほしいことがあるのですが…』という内容だった。こいつは何を勘違いしているのか…。ちなみに何となくこの人はチャラそうなイメージがあったこととなんかムカついた記憶しかない。とりあえず忙しいのでメールで内容を伝えてるようメールを送ろうとした。こういう輩は無視したいのだが、かかりつけ薬局及び学校薬剤師の業務を行う上での規則がそれを邪魔している。どんな内容でも悩みであるなら真摯に対応すべきのような内容が両方とも盛り込まれたいるからだ。もしここで下手な対応を行うと、大阪薬剤師会というここらの薬剤師をとりしきる人たちから面倒な説教を食らいかねない。また、この薬剤師会から指導を受けたことが患者に知れ渡るとこの薬局は本当に大丈夫なのか?と不安になって新規の患者が減ってしまう。以前も、横暴な患者に対し、誤って暴力をふるった薬剤師がいたらしいが、薬剤師会から指導を受けた後、SNS上で顔写真と住所が公開されてしまい、患者が激減したらしい。だからどんなに変な人でも明らかにおかしいことが証明できない場合は仕方なく相談に乗ってあげるしかないのだ。
「だけど、こういう馬鹿が野放しになるのはさすがに社会的にも小学生の教育的にも悪いだろうし…。そうだ!この前もらったこいつを一緒に送れば…。」
美夜は少し悪い笑みを浮かべながらデスクトップにある『危険にゃ』のフォルダをクリックした。
②❾〇
「美夜先生、そういえば友達が課題で医薬分業の意義についてのレポートを書くよう言われたらしいんですけど、あれって効果あるんですか?」
暇だったので葵は聞いてみた。誤解がないように言っておくが、今は平日の午後2時でピークの時間は過ぎているのだ。医薬分業とはその名の通り、病院と薬局の経営を独立させることだ。これは1990年代から何となく始まったもので、すでに導入して20年ほど経つが海外と比べるととても遅れている。まあ、新しいものを受け入れづらい日本人の性格上仕方ないだろうけど。ちなみにこの制度ができるまで、病院内で診察を受け、そのまま病院内で薬をもらえたので病院内ですべてが完結していた。この制度ができると病院で診察を受けた後、外の薬局で薬をもらうことになり、手間が増えたうえ、会計も病院と薬局で2回行うことになったので負担が増えた。ちなみに教科書には病院と薬局で2重で監査することでより安全に薬を服用してもらえると書いてあったが、そんなもの分けてなくてもできる。
「いや、そりゃあ医療費を抑えるためよ。昔は医者が自由に薬の値段決めまくってたから医療費が高くなりすぎちゃってね。まあでもぶっちゃけちゃんと納得できる答えを言える厚生労働省の人間はいないわよ。私の友達も昔厚生労働省に官庁訪問っていう面接みたいなのをしたとき、グループディスカッションやってね。そのテーマが病院と薬局同じ敷地内に建てるのはよいかどうか、だったんだけど、みんなの結論は当然ながら敷地内に建ててOKになったのよ。そしたら厚生労働省の職員が怒ったらしいわよ?『医薬分業を進めてるんだから、敷地外に建てるのは当たり前だろうが!』ってね。それで友達がさらに『医薬分業って結局医療費下げる以外理由あるんですか?』って聞いたら『あたりまえでしょう!』と言ってたらしいわ。まあ結局それ以外のメリットは『考えればわかる』って言って何も答えてくれなかったらしいけど。」
「へえー、なんか意外ですね。厚生労働省の人ってちゃんとした理由でやってると思ってたんですけど。」
「まあ、国家公務員総合職、ああ官僚ね、は変な人が多っあ、少しだけいるのよ。前に文部科学省の採用担当なんかも説明会の時から目をつけてた学生が経済産業省に行こうとしたら怒って経済産業省まで押し掛けたらしいし。ちなみに官庁訪問のルールでも一般的な社会のルールでもこれは間違ってるわよ?他にも1週間の研修にジャージでドラゴンボールのフリーザのナップサックだけ持ってきた人とかね。」
「官僚っていろいろな人がいるんですね…」
ちょっとイメージ崩れたかも…。
「まあまあ、能力が高いっていうのは本当よ。話してみると分かるわ。」
「そんなに話す機会ないと思うんですけど…。」
「いやいや、意外とあるのよ、説明会とかで。まあ説明するのはだいたい入社3年目までのあんまりよくわかってない人ばっかだから質問に答えられない人が多いけどね。」
美夜先生は少し笑みを浮かべながら答えた。というか政府の内部情報とかどっから聞いてきたんだろう…。
②❾〇
今日の業務が終わろうとしているとき、『ふしゃああああ!』という猫の鳴き声が聞こえたので驚いた。美夜先生がスマートフォンを取り出したのでどうやら着信音のようだ。
「はい、にくきゅう薬局の我流です。ただいま電話に出ることが…、え、そんなことあるわけな…、はい、分かりました。今から伺います。」
「着信音猫の叫び声なんですね。」
「ああ、登録してない先からの着信音は猫の怒りの声に設定してるのよ。どうせろくなことじゃないだろうし…。」
「ろくなことじゃないことだったんですか?」
「そうそう。この前三毛小学校に行ったとき、更衣室にビデオカメラがあったじゃない?あの犯人が分かったらしいの。」
「え、誰だったんですか?」
美夜先生は黙ったまま何か考えているようだ。美夜先生なら嬉々として犯人の名前言いそうだけど。
「実は、北畠君らしいのよ…。」




