第29話 北畠弾劾裁判
午後20時。すでに小学校からは生徒がいなくなり、残業する教員だけが残る時間帯である。三毛小学校は府立のなかではホワイトで教員の大半は19時には帰宅している。しかし今、この会議室には校長をはじめ、役職がない教員まで10人ほどが会議室に集められていた。
皆不安そうに一人の男、教員の北畠を見ていた。今回の議題は、プールの更衣室にビデオカメラが仕掛けた犯人である北畠の扱いをどうするかについてだ。
同僚の教員が処罰される職員会議など早々開かれるものではないが、この場にいる大半は北畠がどういう結果になるかある程度の予想がついていた。おそらく停職か、最悪別の学校に転勤させられるのだ。なぜあまりない状況であるのに教員の大半が知っているのかというと、教員の世界の狭さに理由がある。基本的に教師も人間であるので、悪いうわさなどの世間話が良く行われる。まあ人の失敗は蜜の味なので仕方がないことであるが、誰が広めるのかというとまあ当然その学校の教師たちだ。彼ら彼女らは他の小学校だけでなく中学校等も合同の授業や研修等でかかわりを持つ。その後の打ち上げや飲み会でついついばらしてしまうというわけだ。ちなみに以前別の小学校では全ての生徒たちが集まる全校集会で誤って自分のパソコンに保管しているエロ動画を流すという問題が起きたが、その人も転勤だけで済んでいる。このときやっちゃった人はエロ動画の内容が女子高生ものだったので、小学生は対象外だから問題ないと開き直ったそうだが…。
②❾〇
廊下を走る音が聞こえたかと思うと、一人の女性が息を切らしながら入ってきた。薬剤師の美夜である。
「遅れてすみません!」
北畠を見ると、とても深刻そうな顔をしている。だが、本当に彼が盗撮なんてことをやったのか、私には信じられなかった。
「お疲れ様です、我流先生。今日はお仕事もあったのに申し訳ありません。本日は彼の処遇について職員会議で決めようと思っており、第1発見者である先生のご意見も聞きたいと思います。それではさっそく始めたいと思うのでそちらにおかけください。」
校長の阿倍野先生に言われた通り、校長の近くに座ろうかと思ったが、北畠君の隣に座らないと彼自身の口から本心が聞けないと思ったので隣に座ることにした。幸いにも彼の隣はあの王子先生なので
「王子先生、私そこに座りたいので変わってくれます?」
というと「えっ!?」と言われたが、快く変わってくれた。
「北畠君、まじでやっちゃった?」
無事に彼に近づけたのでこっそり聞いてみた。
「違います!やってませんって、信じてください!」
「ちゃんと信じてるわ。あなたが現実世界には存在しないような2次元のおっとり系のお姉さんが好きで好きだから3次元の小学生は対象外なはずだもの!」
「…ええ、確かにその通りです!とにかく僕はやってません。そういえば、桜庭さんは連れてこなかったんですね。」
「そりゃあ今から始まる大人の汚い話し合いを純粋な女の子には見せられないわよ。どうしてそんなこと聞くの?」
「先輩の性格だと社会見学だとか言って見せるかと思ったので…」
「2人とも、こそこそ話してないで、早く始めますよ!」
「はい!!」
阿倍野先生が少し怒っているようだが、気にしている場合ではない。今は北畠君の無実を証明しないとね。
②❾〇
「それでは、今回の件についてまず確認させていただきます。鯖山教頭先生、お願いします。」
阿倍野校長がそう言うと、隣の白髪交じりの前髪が後退した男性が立ち上がった。
「分かりました。まず、今回の件はプールの女子更衣室にビデオカメラが設置されていたことから始まります。ちなみにテープの中身には何もありません。まあこの時期なので当然ですが…。」
「ちなみにどうして彼が犯人だってわかったんですか?」
私は我慢できずに言ってしまった。分かりきってる情報は正直必要はない。
「ええと、それは播磨先生と王子先生の証言です。2人が更衣室から北畠先生が出てくるのを見たというので彼の持ち物を調べてみるとビデオカメラのデータが入ってたんですよ。」
「でもそれだけじゃあ犯人と言えないのでは?他の誰かが入れたのかもしれませんし。」
眼鏡をかけた穏やかそうな中年女性が言った。弾劾裁判かと思ったら意外と北畠先生を擁護する声もあるようだ。
「来摩先生の疑問は最もですが…、実は…。」
教頭先生の歯切れが悪い言葉が続く。何か言いづらいことがあるのだろうか。
「何か決定的な証拠が?」
「…北畠先生のパソコンには小学生くらいの女の子に不埒な行為をしている動画があったのですが…。」
一瞬その場が沈黙した。北畠君を見ると青ざめた表情が見えた。
いきなりまずい状況になったがまず確かめておくことがある。
「それって2次元ですか?」
「ええ、アニメでしたね。」
「それって小学生に見えるだけで実は若く見える20代女性もしくは300歳とかでは?」
北畠君はうんうんうなづいた。まあ2次元にはよくあることだ。
「それなら問題ありません。若く見えるだけですよ、あれは。」
「ちょっ!!そういう問題じゃないでしょう!そんなものがあるなら現実世界の小学生の女の子に興味を持っていてもおかしく…」
「何も知らない素人は黙っててください!基本的に2次元に走ってるやつが3次元の女の子に興味を持つ可能性は限りなく低い。それは内閣府の統計でも証明済み。確かに彼は不埒なものをたくさん持っています!ですがそれはすべて2次元です!3次元のものを持っていないのでそもそも小学生に興味を持ってるわけないです!」
「先輩、もう勘弁してください…。」
北畠君は泣きそうな表情で言った。
「ま、まあ興味ないのはこの際置いておいて播磨先生たちの証言はどうするんです?これは証拠になりますが…。」
「ぶっちゃけこの2人が嘘ついてたら何の意味もないじゃないでしょう?今回のことだって警察に相談したらそのまま大阪府の教育委員会に報告されるんで報告してないだけなんだから証拠が正しいかどうかも分からないじゃないですか。」
「ちょっと聞き捨てなりませんが、僕たちが嘘をついてるって言うんですか?」
王子先生は少し怒り気味に言った。
「ふふ、実は王子先生のパソコンに面白いものを発見したんですよ~。みなさんこちらをご覧ください」
そう言うと、美夜はプロジェクターを用意し、スクリーンにある映像を映し始めた。それは播磨先生、王子先生の動画であった。SMチックなハードな内容だ。まあ、意外なのは鞭で打たれたり縛られたり、ろう垂らされたりしてるのが王子先生というところだが。
「え!、あのこれをどこで!!」
「あなたが前に私と2人きりで会いたいとかよくわからん事抜かしてきたときに間違って送ってきてたのよ。もうちょっとよく確認してからメールを送るべきだったわね。」
ちなみにこれは嘘だ。私が王子先生に返信したときにこっそりウイルスを送り込んでいた。このウイルスは相手のパソコンの中身を丸ごとコピーするものだ。かなり危険なものだが、言い訳をしておくとウイルスはクレーマー対策で用意していた。といってもこれで入手したネタをそのまま私自身が使うことはほとんどない。私の邪魔…じゃなかった社会の害になりそうなら有効利用できそうな知り合いに渡してお灸をすえてもらうのだ。
「王子先生。これはどういうことなのでしょうか?播磨先生とおふたりがお付き合いされているなら播磨先生が王子先生をかばって…というのも考えられますが?」
「ち、違うんです!決して生徒たちを盗撮しようとしたわけじゃなくて、これは播磨先生がそうしたいと…」
「なにばらしてんだ!この仮性包茎!」
突然の叫びで驚いて播磨先生を見ると、普段のおとなしさはみじんも感じられない人でも殺しそうな雰囲気を漂わせていた。




