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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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番外編  八雲の思い出その2

あれから我流さんは見かけるが、冬川は見かけない。なぜなら同じ学部といっても1年は教養科目ばかりなので、選択が違えば会うことはない。この大学は教養科目の充実度は国立大学の中でもトップクラスと言われ、そのせいか科目数もかなり多かった。しかも薬学部は2年目からキャンパスが変わるため、1科目でも単位を落としたら、留年の危険もある。おかげで、先輩から単位取得が簡単な科目は大人気である。ちなみに僕は簡単とも難しくもない自然系の教養科目を受講している。我流さんも同じだが、100人以上が入れる講義室で、ほかの学部生も多いため、話す機会はほとんどなかった。

ちなみに冬川は何を受講しているのかというと文学系だ。文学系はレポート量が多く、答えがない科目なので不人気だ。だが、彼は楽しそうにそれをこなしているので、少し変わっているようだ。

僕はあれから我流さんと話すきっかけを作ろうと頑張ったが、彼女の左右の席はすぐに埋まるため、全く近づけなかった。

だが、今日は状況が違った。彼女の隣が空いていたのだ。

「おはよう! 我流さん、隣に座ってもいい?」

「だめ。」

「ちょっ!そんなすぐに断らなくても!まだ入学してそんなに時間がたってないし、同じ学部で同じ学年なんだからもっと仲良くしない?」

「いや、別にいい。」

そんなに毛嫌いしなくても…。

「ちょっと美夜ちゃん! かわいそうだから近くに座らせてあげようよ! 八雲君、私のとなりにどうぞ。」

「え、本当に? ありがとう!」

今までの出来事のせいで心が折れかけていたが、今の言葉で少し傷んだ心が回復し始めていた。

”よかった…。 なんて優しい人なんだろう。”

そう思って急いで声をかけてくれた彼女の隣に座った。彼女は僕と話すのが恥ずかしいのかずっと我流さんの方を向いている。

「本当にありがとう。君は優しいね。僕は八雲っていうんだ!良かったらこれからも仲良くしてくれない?」

彼女は黒髪のショートで、かすかに柑橘系の香水のにおいがした。

「優しいって、もう。こちらこそよろしくね。ちなみに私は有栖ありす 理彩りさよ。よろしくね」

そう言って彼女は振り向き、笑顔を見た瞬間、僕の思考は一瞬停止した。

「あれ、どうしたの八雲君?」

彼女の大きな目がこちらを見ている。顔立ちははっきりしてるけど…、大きすぎだろう?

「多分、アリサがかわいいから見とれたんじゃない?」

我流さん、本気でそう思ってる?

「もう、美夜ちゃんったら、そんなこと言っても何にも出さないわよ?」

柑橘系の香水かと思っていたものはどうやら彼女の腋臭のようだ。彼女が動くと酸っぱさが増した。

「…。」

僕はショックのあまり言葉が出なかった。確かに人は見た目ではない、中身だと。だが…、だが…、これはひどいだろう!

かわいい子はかわいい子と行動をともにする。逆もしかりだ。だから我流さんと一緒に行動しているなら当然かわいい子だろう!

「あれ?八雲君どうしたの?もしかして、かわいい子がかわいい子と一緒だから感動して言葉が出ないの?」

お前が言うな!せめて我流さんが言ってくれ!

「いや、あの、えっと、講義始まるから準備するね。」


➋❾〇


何とか講義が終わった…。ここまで疲れたのは大学に入って初めてだろう。もう今日は帰ろう。

「あら、八雲君も今日は終わりなの? 一緒に帰りましょう。」

有栖きょうふが話しかけてきた。しかし、ここで無下に扱うのはまずい。僕は今までどんな女性に対しても紳士的な態度をとってきた。彼女が不細工だからという理由で断ったら僕の悪いうわさが広がり、ほかの女の子からも嫌われるかもしれない。

「いや~、実はちょっと頭が痛くて、風邪かもしれないから一人で帰るよ。」

嘘は言ってない。

「そうなの!一人暮らしだと風はつらいわよ。私が一緒に行ってあげる。」

勘弁してよ…。

「あれ、アリサ?」

驚いたことに冬川が話しかけてきた。というか知り合いのかこの二人。

「久し振り、冬川君。高校以来ね。」

「久し振り!大学が広いとなかなか会わないよね。ところで隣の人って彼氏?なんかどっかで見たことがある気がするけど。」

おい、なんてこと言ってんだ!いや、まてよ、ここはこいつに協力してもらえば…。

「冬川君、八雲だよ!同じ学部の!ちょっと助けてほしいことがあるんだけど…。」

有栖さんに聞こえないよう冬川に急いで近づいて話しかけた。

「…アリサのこと?」

「そうそう、彼女をどうにかしてほしいんだよ!君ならできるよね?」

「いいよ。まかせて。」

そう言って彼は有栖と2人で何か話し始めた。

「え、でも~」

「大丈夫だって。彼いい人だから。長年連れ添った夫婦みたいにお似合いだよ!」

すごく嫌な予感がする…。

冬川がこちらを見て笑顔で親指を立てた。なんだよそれ!

「じゃあ、邪魔者は退散するね~。お幸せに!」

そう言うと冬川はさっさと歩いて行ってしまった、なんでちょっといい笑顔してんだよ!

「八雲君…。それじゃあ一緒に帰りましょう。」

ちょっ!なんで僕の袖つかんでんの?かわいい子がやれば嬉しいけど、ってなんで顔赤らめてんの?

「でも、八雲君が私のこと気になってたなんて以外…。」

お願いだからやめて!これ以上は!誰か、だれか、

「だれか助けて!!」

心の声が口から洩れていた。

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