第27話 有巣動物病院
今私たちはアリサの働いている有栖動物病院に向かっていた。ちなみにアリサの本名は有栖 理彩だが、本人はアリサと呼んでほしいのでみんなそう呼んでいる。
犬山さんにはあれから30分ほど粘られたが、なんとかコスプレはしなくて済んだ。だが、犬山さんはしょんぼりしながら気が変わったら是非と連絡先を渡してきた。絶対に連絡しないと心に決めてるけど。
アリサが働いている有巣動物病院はここから駅一つ分しか離れていない。彼女が働いている病院は彼女の叔父夫婦が経営しており、彼女はいづれ後を継ぐ予定らしい。思えば、彼女と会うのも久し振りだ。大学を卒業してから会ってないのでまだ7か月くらいだが、もう数年は会っていないような気がした。
「あの病院じゃない?」
朝雪が指さす方を見ると、白地に赤紫色の文字で『有栖動物病院』と書かれた看板が見えた。そういえば、彼女は好きな色は紫だったような記憶がある。その色の手帳など小物をたくさん持っていた。
入口に近づくと、自動ドアが開き、急に飛び出してきた人にぶつかりそうになった。30代くらいの男性でひどく慌てた様子だ。
「あの…」
「ふざけんな!はあっ、全く詐欺じゃないか!こんな、こんなのはひどすぎる!」
そう叫びながら足早に去っていった。あんなに腕を振ってキャリーバッグの中にいる動物は大丈夫だろうか?
「全く失礼ね。どこが詐欺なのかしら全く。」
目の前に懐かしい顔が現れたので少しうれしくなった。
「久し振りね! アリサ。」
「あら、久し振りじゃないアリサ、それに冬川君も。」
②❾〇
「そういやさっきの人どうしたの?」
今私たちは有栖動物病院の隣にある彼女の叔父夫婦の家にお邪魔している。今日の仕事は午前中までなのでさっきの人で最後だそうだ。さっきの人の驚きようはただ事ではないが、この動物病院の室内は最近改装したようできれいだし、アリサは1年目だとしても彼女の叔父夫婦は20年獣医師をやっているので特に不手際もないと思うので不思議だった。
「いやね、私の顔見て急にホームページと違うとか言い出してね?失礼しちゃうわよ全く。ちょっとプリクラみたいに加工してるだけなのに。」
「へえ、ここのホームページとかあるんだね。どんなやつなの?」
「実はこれなんだけど…」
見るといたって普通のホームページだ。余計な広告がないためシンプルなつくりだがわかりやすい。
「ここのスタッフのところよ」
スタッフをクリックすると、叔父夫婦とアリサの写真が出てきた。みんな笑顔の写真が載っている。確かにアリサの写真は目の大きさが少し修正されてるかな?
「ん~、このくらいなら大したことないと思うけど…。そこら辺の風俗のパネルの方がひどいでしょ?」
「そう思うわよね?全く失礼しちゃうわ。獣医師の顔で判断なんて下心丸出しじゃないの!本当に気持ち悪いわね。」
アリサがえらく怒っているが、本題を思い出した。
「あ、そういえばこの子の年齢教えて。」
私はキャリーバッグを開けて子猫を見せた。子猫はアリサを見て『フウウウ!』と朝雪の時より警戒心を見せていた。毛がすっごく逆立っていた。
「よしよし、そんなに怖がらなくていいわよ。あなた、ずいぶんかわいい子ねえ。将来美人になるわよ。」
アリサはそう言いながら子猫を持ち上げ(暴れ始めたので私も抑えた)、目、口を見た後、毛を1本採取した。
「ちょっと待っててね。」
そう言ってアリサは動物病院の方に向かっていった。子猫はえらく興奮していたが私の膝の上でなでていると次第に落ち着いてきた。
20分ほどするとアリサが返ってきた。
「お待たせ!水晶体と歯茎からだいたいわかってたけど、毛の細胞分裂のスピードから正確にわかったわ!」
「本当に!それで何歳なの?」
「まだ1歳未満よ。ちなみに生後9か月ってところね。」
「え、9か月だったらもっと大きくない?生後6か月かと思ってた。」
朝雪が少し驚いたように言った。
「それはちゃんと栄養とってた場合よ。その子、母親もいなかったらしいからろくにご飯食べれてなかったんじゃないかしら?かわいそうにねえ。」
そう言いながら触ろうとするが、子猫は後ずさりする上、美夜の膝に爪を立て始めた。
「ちょっ、痛い痛い。まあとりあえず、9か月ってことは2月生まれね…。2月といえば如月、フェブラリー、バレンタイン…」
「フェブルウス、猫の日、かまくら、なまはげ紫灯まつりも2月だね。」
「ということは…3文字なら、キサラ、バレン、なまは、フェブルのどれかね。」
「…なんか変な名前ばっかね。動物のカルテでもそんな名前まだ見たことないわよ。」
「まあ、最近の親は変ななめつける人多いしいいんじゃない?ちなみに僕はフェブルに1票。」
「いや、この中で一番まともなのってどう考えてもキサラじゃない?」
今のところキサラ、フェブルが1票づつか…。私としてはやっぱり…。
「私はなま…」
「みゃっ!」
言おうとしたら子猫が爪を立ててきた。どうやらこの名前は嫌いらしい。ということはやっぱり…
「分かってるわよ、フェブ…」
「シャアッ!」
今度は引っかかれた。そんなに嫌なのね…。
「冗談よ。キサラね。これからもよろしくね、キサラ。」
「みゃん。」
子猫は喜んでいるような声で鳴いてくれた。ちなみに朝雪はちょっと残念そうな顔をしており、アリサは安心したような顔をしていた。
②❾〇
美夜先生が見せてくれた大学時代のアルバムには若いときの八雲先生も映っていたが、それよりも印象に残る人がいた。中肉中背で顔は写真のせいなのか凹凸があまりないように見える。目はパッチリ開いているが…なんというかでかすぎる気が…。とにかく忘れることができないような顔だった。どうやら先生たちの同級生だが、学部は獣医学部で違うらしい。ちなみにこの写真では八雲先生と一緒に写っているが、八雲先生は泣いているようだ。何があったんだろう…。
葵は気になりながらも明日に備えて寝ることにした。




