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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第24話 病院薬剤師その4

「これってなんでこんなめんどくさい方法なのかしらねえ~」

そう言いながら美夜はパソコンに温度計をつなぎ、データを保存していた。月に一度、薬剤部内の18か所の温度計を保存する必要があった。薬はものによって保管温度や湿度が違うため、常に暖房や冷房等で調整されている。もしこれが故障等で温度変化が起こった場合、薬がダメになってしまう。患者に何かあった場合の原因調査時に薬が実はダメになってました…なんてことにならないために温度管理は重要なことなのだ。だが、これはとにかくめんどくさい。まず温度計を持ってきて専用のパソコン(かなり古い)につなぎ、そこからデータの取り込みを行う。この取り込みは1回あたり3分くらいかかる。これが全部で18個なのでデータ取り込みだけで1時間ほどかかるというわけだ。正直無駄な時間と思っている。ほかの病院ではデータを温度を測定する機器から毎日定刻に自動的に発信させているので、そもそもそんな仕事をしている人はいないそうだ。この病院がお金をかけたくないので、まだ十数年前のやり方でやっているというわけだ。

「はぁ~。パソコンと温度測定する機器を新しくすればいいのに…。」

自然と声に出してしまったので焦ったがこの部屋には私しかいないことを思い出し、パソコンの画面に目を向けた。


②❾〇


今日も1日無事に終わった…。パソコン画面の時刻を見ると19時を過ぎていた。

いつもより断然早い時間なのでちょっと嬉しい。帰ろうと思い、ロッカーに向かう途中で、休憩室から上司たちの会話が聞こえてきた。

「先生聞きました? 今年の研修医は山崎医科大学出身の人がいるらしいですよ。」

「え、あの救急車で運ばれたら絶対に死ぬっていわれている伝説の大学病院ですか?全く金の力で医者になるやつはろくなやつがいませんね。」

私立の医大はとにかく金がかかる。1年700万かかるところも多く、6年で5000万近くかかるところもある。ちなみに私立の薬学部だと1年間に150万ほどで6年間で1000万ほどだ。これを見ると確かに金の力でなったと言われても不思議ではない。だが国立大学は医学部だろうが薬学部だろうが1年に50万ほどで、6年間で300万ほどだ。私から言わせれば私立の底辺薬学部出身な時点で”金の力”でなった人にしか見えない。

”全く、頼むから最低でも偏差値50以上の人が薬学部や医学部入れるようにしてほしいわ。”

内心悪態をつきながらさっさとその部屋を通り過ぎた。


②❾〇


「ってなことがあったのよ!どう思う?」

今は夜の11時。すでに電話で3時間も話している。話し出すと不満が止まらなくなってしまう。

『はは、それは災難だったね。ほかの人の話聞いてると美夜の病院だけおかしい気がするね。」

「やっぱりそう思うよね!」

相手は彼氏の朝雪。基本的に私が不満をぶちまけても全部笑顔で返してくれる。私が病院でぶちまけないのも彼のおかげだ。ちなみに彼は今大阪の製薬企業で働いており、私と違ってホワイトらしい。そして私よりはるかに給料が高い…。

『そういえば、同僚のMRが言ってたけど、病院によっては10個入りの薬で9個使った後、1個入ってなかったとか言って10個入りのものと交換しようとするところもあるみたいだね。』

そんなところもあるのか。その程度の額、ケチらなきゃいいのに。

「最低ね。そういえば、MRの人ってすごいと思うわ。医者や薬剤師に理不尽な怒られ方されまくってるしさあ。」

『まあ、それでやめる人も多いからね。でも、美夜はMRの人に信頼されてるんじゃなかった?よく話しかけられるって言ってたよね。』

確かにそうだ。私はあんな横柄な奴にはなるまいと心に決めているので誰にでも丁寧に接している。

「そうね…。というかだいぶ前に話したことのような気がするけど、よく覚えてるわね。」

『まあ、美夜のことはだいたい覚えてるよ。でも、昔より元気ないと思うね。』

「まあ、忙しいからかな、やっぱり…。」

『う~ん、なんていうか迷ってるって感じだけどね。』

「迷ってるって、何が?」

『今いる病院で働き続ける…、いや、他の医療関係者と働くことかな?』

「えっ!!」

いきなり何を…。とは言えなかった。彼の言う通り、私は誰かと一緒に働くことが向いていないような気がしていたのだ。他人に気を使って働くのが苦痛でしょうがない…。

『誤解しないでほしいのは、美夜が悪いんじゃなくて、美夜とその病院の医療関係者の考え方があってないって言った方が正しいかな?医療関係者って考え方が特殊だからさ、ほかの業界の人も一緒に仕事するとストレスたまるって言ってたし。』

「そうなのかしら…。でも、ここで逃げたらどこでもやっていけないような気がするのよね。」

いくら薬剤師が転職が多い業種であっても最低3年は同じ場所に勤めた方がいいだろう。

『うん、そういう努力家なところも美夜のいいところだよね。でも無理はしすぎないでね。』

「ありがと!そういえばさあ、この前見たトラ猫がけっこうかわいくてさあ…」

結局この日は午前2時まで電話が続いた。


②❾〇


いつも通り作業をしていると知らない番号からPHSがかかってきた。

「はい、薬剤部の我流です。」

「お疲れ様です。私は消化器科の伊藤です。我流さんは2週間ほど前に火常さんの術前中止薬の説明をされたでしょうか?」

ああ、あの…。思い出した粋がってた底辺だわ。

「はい、そうですが…」

「あの人が下剤もらってなくて、今日の検査できないんですけど、どうして渡してくれなかったんです!?」

急に何を言っているのか…。下剤は患者が術前の説明後に専用の処方箋を持って薬剤部に取りに来ることになっているのに。

「いや、そもそもその患者さんが、取りに来なかったのが問題なんじゃないんですか?」

「火常さんによると、薬剤師にこれで書類は全部か?って聞いたのにあなたが、その通りだって言ったらしいじゃないですか!大腸の検査なら渡すのは当たり前でしょう!」

「いや、そもそも、こちらではそんなこと当たり前じゃないんですけど…。ちょっと薬剤部長と相談してきます。」

まったくややこしいことになってきた。検査の下剤は3か月前までは薬剤部ではなく、その診察科の受付で渡していた。だが、看護側が負担が大きいので薬剤部で渡してくれと言われたらしい。患者にとっては術前中止薬説明後に会計を行い、また薬剤部に戻るので2度手間になるのだが…。


②❾〇


薬剤部長に相談すると烈火のごとく怒っていた。

「あいつらがやれって言ったからこうなってんのによぉ。ちょっと俺から話すわ!」

そう言うと、薬剤部長はさっきの看護師に電話し始めた。ちなみにこの薬剤部長はいかつい顔つきな上、身長は180cm越えでガタイはかなりいい。昔は空手の全国大会で結構いい成績を収めたとかなんとか…。

このまま薬剤部長にまかせて私は元の業務へ戻ることにした。

”しっかし、責任を擦り付けようとするとは…、やっぱり医療関係者とは考え方があってないのかもしれないわね”


②❾〇


後日、カルテに今回の件の詳細が書き込まれていた。『薬剤師が下剤を渡し忘れたため、この問題が起きた。』との記述もあり、これを見た薬剤部長がまた怒っていた。ちなみにこの件は薬剤部内で共有され、阿賀先生からは『あなたがもっとよく確認したらこんなことにはならなかったんじゃない?』などと言われて少しイラっとした。人の傷口に漆を刷り込むようなことして楽しいのだろうか…。

しかもその後、その看護師とともにあの患者に謝罪しに行かされた。確かにちょっと自分が悪いかもしれにとは思うがあの患者に対して謝りたくはない。だって性格悪いし…。

案の定自分の現状は棚に上げてネチネチとミスに対して説教を始めた。しかし底辺が言っても全く説得力ないわね…。

病院に帰ると看護師からは『今度から気を付けてください!』と怒られた…。あんたがミスったんだけどねえ。


②❾〇


あまりにも腹が立ったため、今日はすぐに帰ろうと思ったが、外は大雨だった。全く、今日はとことんついてないわね…。

私は暗い気分で、雨の中歩き始めた。


病院ももう少しでおわりです~。

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