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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第22話 病院薬剤師その2

フシャアアアア!!

機械的な猫の鳴き声で目が覚めた。目覚ましの音だ。朝は2度寝したらとんでもないことになるのでできるだけインパクトのある音にしてみたが、これは失敗のようだ。確かに起きれるが、なんだか気分が重くなった。今は5時30分か…。6時半には病院について朝の準備を始めなければならない。ちなみに書類上の出勤は8時15分からになっている。ちなみにこんなに早く行くのは1年目の中でも私だけだ。理由は、製剤の先生に頼まれた仕事で、輸液の調整があるからだ。昨日の夜に緊急でオーダーされた追加分の輸液の調整を行わなければならず、大変だ。輸液の調整は無菌室で行うため、手洗いから作業着に着替えなど入室前にやることが多い。だが、私は輸液の調整は好きな部類だった。なぜなら誰とも話さず、一人で黙々と作業ができるからだ。しかもこの作業を行う日は面倒な朝礼に出る必要はない。この朝礼は少し変わっており、朝から薬剤部の理念をみんなで合唱させられるわ、有給とる場合はみんなの前で発表させられるわ、インシデントやアクシデントを起こしたらみんなの前で発表させられるわとにかく気分が落ち込むことしかない。ちなみにインシデントはミスをしたけど患者に影響がなかったもので、アクシデントはミスで患者に影響を与えたものである。ちなみに私は一度1日に2回インシデントを起こして結構心にダメージが来たことがあった。アクシデントはまだない。ちなみに私がやっている仕事にヒヤリハットの集計もあるが、これは薬剤師が見つけてくれたミスだ。薬剤部は基本的に2重監査で、2番目に監査する人が1番目に監査した人の間違いを発見するとヒヤリハットとなる。この病院では個々の数を集計するうえ、月末に棒グラフでみんなの前で発表するためかなりえぐい。

 

②❾〇


家を出ると、空がどんより曇っていた。気分がのらないがしょうがない。病院はここから徒歩10分ほどで結構近いが、坂道が長い。なぜか国立病院は昔の名残のせいか山の上や人里離れたところにあることが多く、行くのが大変だ。

 病院が見えてきたが、私たちは正面から入ることができない。裏口から入ることになっている。裏口は薄暗く、近くにごみの廃棄場があるため、空気も悪い。私はさっさと歩いて病院に入った。


②❾〇


白衣に着替えて、薬剤部に行くとすでに来ている人がいた。芳浦よしうら 佳琉かる先生だ。阿賀先生と同期で、彼女と仲が良いが私たち1年目にも優しい女の先生だ。

「芳浦先生、おはようございます。」

「おはよう、我流先生。今日も早いわねえ。」

「いえいえ、先生の方こそ。」

そう言いながら私はロッカーに荷物をなおし、調整室の方へ向かった。途中で当直担当の先生に会い、軽く挨拶をした。この病院では薬剤部の当直は基本的に一人だ。ちなみに私は来週初めてすることになっている。うまくやれるかどうかは心配だけど、今は目の前のことに集中するしかない。

 調整室に到着し、カルテのパソコンを開くと、昨日の夜に緊急で入院した人が2人いるそうで、そのうち1人は本日昼の12時から輸液のオーダーが出ていた。内容は500mLの輸液にビタミンを混ぜればよい簡単なものだ。”これじゃあ朝礼にでれちゃうわね…”


②❾〇


無菌室に入室し、作業をするクリーンベンチの清掃を始めた。クリーンベンチは作業台に真正面がガラスの箱がおいてあるような見た目をしたものだ。この箱の中では濾過されたきれいな空気が吹きかけられ続けられており、菌が発生しないつくりになっている。輸液は少しでも菌が入ると栄養が多いので急激に増えてしまうのでここで調整する必要あるのだ。ちなみに、調整前にもクリーンベンチの清掃も絶対である。清掃はキムタオルというティッシュを固くしたような紙に消毒用エタノールを吹きかけたものを使う。ちなみに拭き方も決まっており基本的に遠くから入口に向かって拭く。なぜならクリーンベンチは空気の流れが中から外に向かって拭いており、この流れに逆らって拭くと菌などが残ってしまうのだ。私は清掃後、消毒用エタノールを吹きかけた輸液やビタミンなどを入れていった。

「さて、とっとと作りますか。」

今回使うビタミンは最初からシリンジに入れてあるものを購入しているので針を取り付けて入れるだけだ。正直な話、ただ加えるだけなら簡単だ。だが、混ぜるものが多すぎて輸液に入りきらない時もある。そんな時は2Lパックのような空の容器に詰め替える必要があるので時間がかかる。ちなみにどの輸液にどれくらい入るかはすでに一覧表が存在し、この病院どころか全病院に配置されているそうだ。

調整を終えて輸液を物資連絡用のボックスに入れて、無菌室を掃除し、外に出るともうほとんどの人が出勤しており、すれ違う人たちに挨拶しながら朝礼の部屋へ向かった。


②❾〇


この部屋に入ると気分が重くなる。中心は長机で囲まれており、一番奥に薬剤部長たちが座り、そこから役職の高い人や勤続年数が長い人が座っていく。ちなみに私は壁に設置されている椅子に座っている。というか半分はそこだ。ここで当直の人からの報告、今日の予定や自分のインシデントの報告などが行われる。私はというと

「昨日1件オーダーされた今日12時からの輸液の調整が終わりました。調整室担当の方は監査をお願いします。」

と言って座った。私は基本的にこれかインシデントの報告しかしない。ちなみにインシデントの報告だと、『大変申し訳ありませんが、1件インシデントを起こしてしまいました。にゃんにゃんのところみいみいを取り違えてしまいました!今後このようなことがないよう注意いたします!』といった感じだ。すでに5件起こしているので慣れてしまった。ちなみにここで報告するだけでは終わらず、病院内のデータベースで書類を作成し、それを副薬剤部長、薬剤部長の順に確認してもらって提出する必要がある。面倒なことにその後月末に病院のリスク担当の人から聞き取り調査がある。なんで間違ったのかと理由を聞かれるが…。忙しいからとしか言えない。人間関係が嫌で心が病んでいるからですとは口が裂けても言えない。まあ何の理由にもなってないけど…。


②❾〇


朝礼が終わると、担当の部署へ急いだ。今日は調剤室だ。ここで基本的にやることは薬局と似ている。処方箋がプリンターから印刷されてくるのでその内容に沿って調剤するのだ。ちなみに処方箋の上部分の色によって緊急性は分かるようになっている。赤い線であれば緊急処方で、すぐに作らなければならない、黄色であれば通常処方で、緑は退院処方、青は入院処方だ。ただ、今日使う薬かどうかで優先順位はまた変わるので、色だけ見て判断はだめだけど。今の段階で緊急処方はなかったが、今日の昼には使う予定の通常処方があったので作ることにした。

「ん?」

そのときおかしなことに気が付いた。ボナロン経口ゼリーが朝食後に処方されていたのだ。この薬は骨粗鬆症の薬で胃が空の状態で飲まないと薬の吸収が悪く、効き目が半減してしまう。だから起床時に飲むのが正しいのだが…。

”面倒ね”カルテを開くと研修医の先生が昨日の夜に入力していたことが分かった。おそらく入力ミスだろう。研修医に電話をかけ、修正の許可を得たので修正した。基本的にカルテの修正は薬剤師しか行えないことになっていた。なんでも間違いを防ぐためらしいが、意味あるのかどうか…。余計な手間を増やしているだけな気がする。だってケアレスミスの打ち間違いもこっちでやらないといけないのでとても面倒くさい…。

修正された処方箋を印刷し、調剤後に印鑑を押して監査台へ持っていった。この後監査する薬剤師が監査印を押して患者さんへ渡すことになる。何かミスがあった場合はこの印鑑からすぐに誰の間違いかが分かるという仕組みだ。

監査しているのは阿賀先生だ。この人に何回ミスを指摘されたことか…。「よろしくお願いします!」と言いながらさっと置いてすぐに立ち去った。1分1秒でもこの人の近くにはいたくない。

「ちょっと待って、我流さん」

呼び止められた…。「何でしょう?」

「さっき電話があったんだけど、今からくるイマワさんって人に血糖値の測定方法説明してくれる?」

「あ、はい。わかりました。」

よかった。ミスじゃなかったようだ。こんな感じで血糖測定器やら吸入器やら使い方を指導する場合もある。これは個室で行うので私としてはほかの先生に見られないので楽だ。

”さて、血糖測定器をとってこなくちゃね。”

私はこれ以上何も言われないようすぐにその場を離れた。

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