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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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番外編 美夜の思い出その1

「つまんないな~」

明るい茶色い髪に幼さが残る女の子はベンチに座りながらそうつぶやいた。彼女の名は我流 美夜、 18歳。大学に入学して最初の土曜日だが、特にやりたいこともないので、今日はのんびりと街を散策中だ。というのも他県の大学に入学したため、一人暮らしになり自分の住んでいる町の周辺については、スーパーと駅くらいしかわかっていなかった。といってもここは広島の田舎であり、特に娯楽施設があるわけではないのだが…。午前中は歩いて30分ほどかけて、駅に行く途中にある市役所まで行き、そこから大型のスーパーマーケット「にゃんタウン」に行くつもりであった。そこは、本屋、服、家具から家電までそろった複合施設で、ここに来たばかりの美夜にとってはこれからも利用すると考え、一度行ってみたほうが良いと考えていた。

特に迷うことなくにゃんタウンにたどり着き、店内をぶらぶらしていると2時間ほど過ぎていた。ちょうどお昼時であったため、そこで昼食ドーナッツをとり、やることもなくなったので行きとは違うルートで帰ろうとしていると、公園を発見したため、休んでいるところである。4月であるから少し寒いが、今日は日差しが強いので気持ちいい。

気持ちの良い眠気が何度もおとづれ、美夜は何度か意識を飛ばしかけていた。

「!」

そのとき、何か黒いものが目の前を通り過ぎるのが見えた。驚いて、眠気が吹き飛んだが、よく見ると、それは一匹の黒猫であったのですぐに安心した。

「ネコか…」

美夜は猫を見るのは大好きだったが、触るのは少し苦手だった。というのも幼いころに親戚の家のシャムネコに触ろうとして引っかかれたことがあるからだ。

すると、黒猫は、公園の中心のよくわからない金属の集合体のようなモニュメントの前で動きを止めた。そのまま固まっていると、そろりそろりと近づき始め、何かにとびかかっていった。”何かあるのかな”近づいてみると、緑色のふわふわしたものを追っているようである。ふわふわしたものには棒がついており、その先には人の手が見えた。

「かわいいなあ、お前。」

緑色のもの、すなわち猫じゃらしを振りながら、眼鏡をかけた黒髪のおとなしそうな青年は笑顔で猫と戯れている。その行動に美夜は思わず笑みがこぼれた。

「ふふっ」

そのときその青年の動きが止まり、こちらを見た。そしてちょっと驚いたような表情を見せたが、そのまま猫じゃらしを動かし始めた。黒猫の動きはきれがよい。

その青年は手と目の動きが一致しないまま、美夜のほうを見つめ、何か気づいたようにあっという声を上げた。

「我流さん…だよね? こんにちは。」

「こんにちは… ええと、確かあなたは同じ学部の…春山くんだっけ?」美夜は自分の記憶の奥底から絞り出した名前を言った。というのも同じ学部でも70人いるので全然名前は憶えていなかった。

「いや、冬川ふゆかわ 朝雪あさゆきだよ。よろしくね。」

彼は少し笑いながら答えた。


➋❾〇


冬川君は見た目もまじめそうで、おとなしかったので特に記憶に残っていなかった。だけど、話してみると、意外と話は合っていた。というのも、美夜は見た目の割には、アニメ、漫画好きである。まあ、今のご時世では珍しくはないが、大きな違いはジャンルである。美夜はよく少女、女性が読む恋愛漫画を読んだことはない。好きなものはバトルものである。特に好きなものは男塾や刃牙など、女性には面白さが理解できないと思われるものばかりである。しかも、小学校時代に試しにカミングアウトすると変な目で見られたため、今までずっと封印してきた。ゆえに今回の冬川君との会話でも、無難なワンピースやハンターハンター、からくりサーカスで乗り切ろうとしていた。だが、冬川君に好きな漫画のジャンルを聞くと、表情を一切変えず、なんの迷いもなく、刃牙と答えてきた。理由を聞くと、「胸が熱くなるから」と答えてきた。確かにそうだ。私も何であれが好きとか言われても、流れに乗ってしまうからとしか答えられない。ゆえに本当のことを言っていると直感した。しかし、彼は少し気を使ってか、「でも女の子であれ好きな子見たことないから、話せないね…」と残念そうな顔をしていたが、私は切り込んだ。だって、漫画について語り合える人材を逃すわけにはいかない。中高の苦しい気持ちに我慢するのはもう嫌だった。この思い切りがよく、仲良くなった。そして驚くことに彼は男塾もすべて読んでおり、私が知らない面白そうな漫画も読んでいた。今度貸してくれる約束を(無理やり)取り付け、私は嬉しくなった。

”そういえば冬川君って見た目と中身があんまり一致してないわね…”

彼とは話したことはないが、基本的に無表情だったので、特に何かに興味を持ってるようには見えなかった。だが、今日は笑った顔も見れて、新鮮だった。

「猫好きなの?」

「うん。我流さんは?」

「えっと…、見るのは大好きね。」

「そうだよね。なかなか野良猫って触らせてくれないもんね。この前なんか触ったら顔をひっかかれちゃったし。」

「そ、それは運が悪かったわね。っていうかそんな目にあったのによくまた触ろうなって思うわね。」

「いやあ、だってかわいいし、それに向こうからしたら怖くて攻撃してくるんだからこっちが優しくしないと。まあ攻撃してきてもかわいいから許しちゃうんだけどね。」

「…まったく、冬川君って変わってるわね。悩みとか…なさそうね。」

「いや、そんなことないよ。最近子猫の兄弟、いや姉妹かな?が遊んでるところ見たんだ。でも、携帯のフォルダに動画保存できるだけの容量がなかったんだ…。猫の写真多すぎて。」

「そ、そう。」

”彼の話聞いてると私の悩みがアホらしくなってくるわね。”


➋❾〇


あれから結構時間が経ち、夕日が見え始めていた。

「っとごめん。時間、かなり取らせちゃったみたい…」

「いいって。私も同じ趣味の人とあえてうれしかったわ。また話しましょう!」

「うん、僕も我流さんと話せてよかった。あ、そうだ、連絡先交換しとかない?」

彼はおもむろに携帯を取り出した。私も取り出し準備をする。

「待ち受け猫なんだね? 飼い猫?」その画面には青い服の上に三毛猫がどや顔で寝ていた。しかも前足には何かのリモコンを握っている。

「ああ、にいちゃ…兄さんのなんだ。かわいいでしょ?」

美夜はもう一度覗き込んだ。その猫は少し太っていてふてぶてしい顔をしていたのでお世辞にも可愛いとは言えない。

「うーん。痩せればかわいいかもしれない…」

美夜は少し笑みを浮かべながら素直な感想を述べていた。

番外編は連続して掲載しませんが、その時その時に入れていきます。

いつか… 順番に並べます。

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