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にくきゅう薬局  作者: 渋谷 春
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第18話 学校薬剤師その3

「何ですって! ビデオカメラが更衣室に?」

驚いた顔をしているのはこの三毛小学校の女性校長で阿倍野あべの 熊美くまみ先生だ。名前と違い、小柄でこの話をするまで穏やかな顔で、優しそうな雰囲気が漂っていた。

「そうなんですよ… まあ、中には何も入っていなかったので設置してそんなに時間はたっていないでしょうけど… そういえば、今日の仕事は終わったので帰りますね。」

「ちょ、ちょっと待ってください! 美夜先生にはもう少し詳しい話を…。というか先生たちに挨拶が残ってるでしょう!」

「えー、挨拶なんていらないでしょう? だって顔合わせて話すわけじゃないですし…今日はこのまま帰ってキサラと遊ぶのに忙しいんですけど… あと実習生の面倒も見ないと…」

”私はついでなの?” 少し不安になって美夜先生の方を見た。

「ごめんごめん。そういうつもりじゃないのよ。どちらも私にとってはとても大事よ。」

「そんなことはいいですから! 美夜先生は今から来られる警察の方に事情を話してください。そして先生たちに挨拶もしてください! いいですね?」

阿倍野校長はさっきまでと違って怖い雰囲気になりながら美夜先生に詰め寄った。さすがの美夜先生も動揺は隠せないようだ。

「分かりました。」

と素直に返事していた。それを聞くと、阿倍野校長は電話で警察を呼び始めた。

「めんどくさいわね…」

小声でつぶやくが、阿倍野校長ににらまれ、急いで顔をそらした。


➋❾〇


あれから警察、そして今日の授業を終えた教師全員が職員室に集合した。もちろん私たちも一緒だ。

阿倍野校長が教員たちに事情を説明し終え、どうするか話し合っていた。先ほど私たちは警察官に事情を説明したので今はやることがない。美夜先生はさっさと帰ろうとしたが、校長先生に止められ、少し不貞腐れ気味だ。しかし、学校薬剤師が学校の教師たちに挨拶なんて昔は考えられなかったらしい。挨拶をするのは、学校薬剤師の業務の1つに教員や生徒からの薬の相談もあるからだが、昔はこれをやってる人はほとんどいなかった。今は医師が不足しているのでこの業務の重要性が増したのだ。といっても実際に学校に滞在できないので電話やメールでの質問になるらしい。

「…それでは我流先生、挨拶をお願いします。」

我流先生は素早く立つと、校長先生の隣に歩いて行った。私だったら緊張して体が震えるだろうけど、美夜先生は全く動揺がない。話さなければ美人な部類には入るので歩いてるだけで教師たちから注目を浴びていた。

「初めまして。この度、この小学校を担当することになりました。我流と申します。まだ、若輩者でありますが、ご迷惑をかけぬよう、誠心誠意尽くしたいと思いますのでよろしくお願いします。」

”そんな丁寧に話せたんだ。というか普段のふざけた雰囲気が全くない…”

驚いたけど、教師たちには大好評のようで拍手喝采である。

「ありがとうございます。それでは今日はお越しいただきありがとうございました。今日の検査結果はまた後日ご連絡をお願いいたします。」

校長先生も全く動揺していなかった。


➋❾〇


「我流先輩、お久しぶりです。」

あいさつが終わると、一人の男性教師が話しかけてきた。見た目は…うん、あんまりよくない…というか美夜先生より年上に見える…

「…えーと、確か東何とか君よね?」

「北畠です… お忘れですか?」

「覚えてるって、確か… モンハンの同人誌が好きな…」

「違いますよ! 僕が好きなのはニトロプラスのエロゲーですよ! あんなものと一緒にしないでください!」

どっちも私にとっては気持ち悪いけど…。この人はどうやら見た目の通りオタクのようだ。

「はいはい、思い出したわ! あれよね、デモンベインの話したときよね?」

「ようやく思い出してくれましたか! 先輩は本当に変わらないですね。」

よく知らない単語が飛び出していたので、私は話についていけなかった。っていうか美夜先生エロゲーとかやるんだ…

「そういえば、そちらの大学生?はいったい?」

「ああ、この子は私の薬局の実習生の子なの。葵ちゃんっていうのよ。」

「あ、初めまして。桜庭です。」

「ご丁寧にありがとう。僕は北畠きたばたけです。美夜先生の大学の頃のサークルの後輩なんだ。よろしくね。」

見た目はあれだがいい人そうだ。

「北畠先生、薬剤師の先生と知り合いなんですか?」

見ると、全身ウィンドブレーカーのいかにも体育教師風な男性教師と化粧家の少ないあか抜けない感じの女性教師が立っていた。

「ああ、王子おうじ先生に播磨はりま先生。そうです、こちらは僕の大学の先輩なんです。」

「そうなんですね。あの、僕は王子って言います。よろしくお願いします。」

はきはきとした口調で握手を求めてきた。美夜先生は握手せず笑顔でよろしくねとだけ返した。

「私は播磨って言います。あの、ちょっと質問したいことがあるんで後で聞いてもいいですか?」

あか抜けない女性教師は中身もおとなしいようだ。

「いいですよ。いつでも聞いてください。」

美夜先生はこちらも笑顔で返していた。

「しっかし、北畠先生がこんなにきれいな先生と知り合いとは、正直驚きました。私も是非お聞きしたいことがあるので連絡してもよろしいですか?」

「ええ、ちゃんとお薬のことなら話をお聞きしますよ。それ以外はわかりませんけどね。」

美夜先生は表情は笑顔だが、雰囲気は…ちょっと怖い。やっぱり待たされた挙句、どうでもいい会話させられてイライラしてるんだろうなあ。

「先輩、急いでいたのに引き留めてしまってすみません。校門まで送っていきますよ。さあ、桜庭さんも!」

美夜先生の機嫌の悪さを察したのか、北畠先生は2人の間に割って入っていった。

「そうね。申し訳ありません。王子先生に播磨先生。相談は後日メールでお願いします。それでは私はこれで。お疲れさまでした。」

「お、お疲れさまでした」

私も急いであいさつし、先生たちについていった。


➋❾〇


校門につくと、夕焼けが見えていた。結構時間がたっていたらしい。

「さっきはありがとね。北畠君。」

「いえ、あのままだったらけが人が出たかもしれないので…」

「どういう意味?」

「いや、先輩の心に深い傷が、みたいな、ははっ」

北畠先生は急いでごまかしたが、美夜先生はたいして気にしてないようで、校門の外に視線を向けている。見ると、野良猫が毛づくろいしている。

「桜庭さんもお疲れ様。」

「あ、はい。今日はありがとうございました。」

「しっかし、先輩もかわってないなあ。」

懐かしそうに笑った。

「昔からあんな感じなんですか?」

「そうだね。見た目に反して暴力的で、やりたい放題やってた人だけど、でも曲がったことは嫌いだし、俺みたいなオタクにも差別しないしいい人ではあるかな。」

「それは… 私もわかります。」

それは分かってる。まだ数日だけど、先生は私のことをよく考えてくれてるのは…考えてるのかなあ?

「まあ、桜庭さんが薬剤師になるならないは別として、今の実習はいい経験になると思うよ。頑張ってね。」

「はい。」

私はそう言うと、猫を目で追う美夜先生のそばまで歩いて行った。


➋❾〇


薬局に帰ると、先生から今日の日誌は休み明けでもいいと言われた。でも私は、宿題を残すのが嫌なので書いて帰ることにした。

「そういえば、北畠先生は教育学部ですよね? 先生は薬学部なのに接点あったのってサークルか何かですか?」

美夜先生は膝に乗せたキサラちゃんの耳の裏をくすぐりながらこちらを見た。

「んーと、そもそも北畠君は薬学部よ。私たちの大学は実習を受ければ化学や生物の教員免許取れたからね。」

「え、教師の免許もとれるところがあるんですか?」

「まあ、とれるところは国立大学が多いけどね。でもとってもなる人は少ないかなあ。彼は少し変わってたからね。」

先生がそれを言いますかと言いたくなったが、言うのはやめた。それよりも…

「じゃあ結局どこで知り合ったんですか?」

「ああ、私の彼氏の研究室の後輩だったのよ。」

「あ、そうだったんですね。先生の彼氏の…」

カシャンと葵は自分が持っているボールペンを落とした。

「先生って彼氏がいたんですか!」

今日の出来事でで一番驚いていた。

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