第10話 めでぃかる注意報
「え、2日目にクレーマーに絡まれたの? それは災難ね。」
「笑い事じゃないって! ちょっと怖かったんだから。まあ、いい経験になったかもしれないけどさ」
今日は水曜で、にくきゅう薬局は休みだった。その代わり土曜はあるけど。私は今、目の前の友人、水無月 紫と空いた講義室で話していた。彼女は今期は実習に行っておらず、1限目の講義が終わったばかりだ。
葵は紫に昨日の愚痴を聞いてもらうためにやってきていた。
「へえ~、そういえばそういう患者って確かナントカ注意報ってやつに載るんじゃなかったっけ?」
「めでぃかる注意報のこと? そういえば昨日確かに美夜先生と申請書類作った気がする。」
めでぃかる注意報とは医療関係者に向けて発信される注意で、問題のある患者や偽造医薬品などさまざまな情報が公開されている。これのおかげで、一気に問題ある患者に対処しやすくなった。ちなみに昨日の人は入口の監視カメラにばっちり顔が映っており、このサイトで検索すると常習犯であることが分かった。最近は、マイナンバーにより個人情報の多くは特定の条件を満たせば、閲覧可能になっている。閲覧可能なのは医療関係者、警察などだ。といっても医療関係者と警察が見れるものはそれぞれ違うので一概に同じものが見れるわけではないのだが… ちなみに今回のようなクレーマーは公開してよいかどうかはモンスターゼロ機関が管理している。こちらは公的機関ではなく、民間会社である。これが創設されたとき、公的機関という意見もあったが、役所の仕事の遅さや天下り先になるのではないかという批判が多くあったため、民間の手にゆだねられた。当然、国民すべての個人情報を扱うということで、会計検査院や独立行政法人 個人情報保護機関から月1のペースで監査が行われている。このおかげで、今まで大きな不祥事は聞いたことがない。
長くなったが、要するに、信頼できる期間だということだ。おまけに、仕事も早い。今回の件に関しても、申請書類を専用サイトで提出後、10分後には電話で連絡が来た。担当は女性の人で、『学生さんなのに大変ですね…』とねぎらいの言葉までかけられた。やっぱり2日目にしてクレーマーに出会うことも珍しいそうだ。運がわるかったんだろうか…
「でも、このめでぃかる注意報って面白いよね! 見てると変な患者多いんだなって思うし。」紫はサイトを見ながらケラケラと笑った。茶髪のショートで、顔立ちは美少年に近いため、女の子に大人気だ。しかし、体は胸の部分が目立つため、男にも人気である。私もあれくらいあれば… そう言いながら自分の胸と紫の胸を見比べていた。
「ちょっと! どこ見てるのよ!」
「ご、ごめん。ちょっと考え事してただけだよ! サイトにどんな面白いのがあったの?」慌てて話題をそらすことにした。
「もう… ほらここのAランクのところにさ、10分も待ったぞ!!と言って殴り掛かったおっさんとかBランクのOTC薬万引きしようとしたおばさんとかさ。ん? 製薬業界で有名なクレーマー医師の情報とかあるじゃん!」ちなみに問題の大きさや種類によりA,B,C,Mにそれぞれランク分けされている。Cは犯罪につながりそうだが確定ではないので気をつけろくらいのレベルで、先日の一件はこちらに分類される。Bは万引きなどの窃盗、Aは暴力事件になる。ちなみに、先ほどのクレーマー医師の情報等はCランクに分類されそうだが、医療従事者が起こした問題は特別枠という扱いで、Mとなる。
そう、あまりにも常識はずれな医療関係者の行動もこのサイトでさらされる。ちなみにここで公開されているということはすでに何かしらのペナルティを受けている。主なペナルティは基本診療の点数の削減、および患者への情報公開だ。確かに患者へは優しい医者かもしれないが、ほかの人にクレーマーじみたことを行うのはやはり評価を下げるのであろう。ここで公開された人はネット環境が発達していない田舎で生活するしかなくなってしまうほど、人が寄り付かなくなってしまう。
「うわ!自分のミスを他人に押し付けるのって医療関係者に多いんだね。しかも医療系大学の教授でも製薬会社に責任押し付けることってあるんだ!こんな人にはなりたくないよね。」
「ほんとにね! 最低よね!」私もこんな人には絶対なりたくないや。
➋❾〇
午後からは、紫と別れ、研究室に寄ることにした。ちなみに私の研究室は、薬物動態額という簡単に言うと薬が体の中でどんな変化を起こすか調べる分野を研究している。私は、八雲先生の直属の部下という扱いで先生に実験やらいろいろと教えてもらっており、今日は先生に実験の1部を手伝ってもらうことになっていた。何分初めてやる実験であるため、誰かいてくれないと失敗する可能性が高い。
実験の準備として、実験方法を見直していると、八雲先生が研究室へやってきた。
「桜庭さん、クレーマーに絡まれたって聞いたけど、大丈夫だった?」心配そうな顔で話しかけてきた。
「はい! ちょっと怖かったですけど、美夜先生に助けてもらいました。」
「我流さんに? そ、そうなんだ。クレーマーの人けがとかしなかったの?」
「え、どうしてですか?」
「い、いや、何もないならいいんだ。僕からも我流さんにはお礼を言っておくよ。」
いつものさわやかなイメージと違い、なんだか不安そうな八雲を不思議に思いながらも、葵は八雲と一緒に実験に向かうのであった。




