反撃準備
何故、夏休みは終わるのか...
何故、授業が再開するのか...
そんな感じで哲学してた夏休み後半
「ふざけるなよ、そんな理屈で上位次元からの干渉に耐えられる訳がないっ!」
――その答えは只一つ。俺が、守護者だからだ――
なんだ、理論は。
そんなものに主の力が防がれる筈がない。
上位存在である主は、下位存在たる世界全てに干渉し、支配することが出来る。いくら主の欠片程の力しか引き出せないとは言え、それに違いはない。
だが、
「そもそも、前提としてテメェは間違っている」
「なに?」
守護者は、その前提を否定する。
本の中で何をしようと、読み手に影響を与えることが出来ず。
読み手は本の中を塗りつぶせる。
故に、この闇は絶対無敵。
「なんて考えてるのなら、とんだバカだ」
寧ろ逆。
例え闇で塗り潰そうと、本の中を完全に消し去ることは出来ない。
新たな物語は経験として、読み手に、世界に影響を与える。
一つの文学が人生観を変える、なんて事はよくある話だ。それは本を破棄したところで変わらない。何百年も前の本が、未だ世界で読まれているように。本の中は、俺達の心を動かし、繋がれて行く。
「それはつまり、読み手に影響を与えるって言うことだろう」
コメディに笑い、ファンタジーに憧れ、恋愛系に涙する。読んでる時はワクワクして、最後まで読みきった時は感動する。俺達は本の中にここまでで影響されるんだ
本の中を闇く塗り潰す絶対攻撃?
勘違いも甚だしい。
そんなもの、只眼を背けただけだろう。
幸福な本の中に嫉妬して。耐えられなかったから、子供が嫌いなキャラに落書きするように黒く塗って見えないようにした。
「お前達は、生まれた時から魔力で身体を修復できる不死身性を持ち合わせている。だけどそのせいで、危険って言うものが枯渇してしまっている。だから、成長も出来ない。何時まで経っても子供のまんまなんだよ。」
主の力とやらもそう。
親の力を自慢している子供に過ぎない。
「テメェは仕事だって言っていたが、こんなもんはガキ同士の喧嘩と一緒だ」
そこで我慢の限界だったのか、ローゼルの身体から闇が吹き出す。それは夕暮れに染まる風景を飲み込み、塗り潰してゆく。
「...吐いた唾は戻せんぞ、人間」
「言葉遣いがブレブレなんだよ、痛々しい中学生かテメェ」
言い終わると同時、ローゼルが全身に闇を纏わせながら突撃してくる。余波ですら物体を消滅させる闇は攻撃だけでなく、防御としても扱うことが出来る。あらゆる攻撃は、触れるだけで飲み込まれる―
「踏み込みが甘いんだよっっ!!」
「ガッッ!?」
―筈の闇を、素手で殴り付ける。
突き出された闇の槍を横に避け、ローゼルの左頬をぶん殴った俺の拳は闇に飲まれること無く、蒼い紋章がうっすらと輝いている。
(もって三秒くらい...か)
紋章の力は進化する。
炎の攻撃を一度受ければ熱を軽減し、二度目にはほぼ無力化出来るようになる。攻撃の複雑さにもよるが、大体は三度受ければその攻撃を解析し、完璧に防いでみせる。俺を確実に殺そうとするのなら、初撃で結界をぶち抜くか、どこぞの魔王のように圧倒的な力で捩じ伏せるかのどちらかだろう。
そんな紋章の能力は対炎、対刃、対音、対真空など、ストウスウェイトでの三年間を経てあらゆる物に耐性を付けてきた。
それに驕っていた訳ではないが、ローゼルに結界を破られた時は驚いた。破られたことだけではなく、攻撃を受けてなお耐性を得ることが殆んど出来なかったことに。
ローゼルの一撃を正面から受けたのも、今度こそ闇の正体を探るためだった。それでも完璧に防げる程に耐性を得られず、三秒くらい耐えるだけなのだが。
「ま、三秒ありゃ十分だがな」
「舐めるなぁぁぁっ!!」
俺が周囲に張った結界に激突する寸前に体制を立て直したローゼルは大きく槍を振るい、闇の斬撃を放つ。
「しゃらくさいっっ!!」
それを咄嗟に展開した93層の結界で勢いを弱め、拳に込めた魔力の塊をぶつけることで闇の斬撃を砕く。
魔力を魔法や魔術と言った方法で使うのではなく、そのままエネルギーとして攻撃するシンプル極まりない技。
勿論、こんな効率の悪い事は誰もしないだろう。電池で動かさずそのまま電池で殴るような非効率なこの技は、常人であれば直ぐに魔力が底をつくし、威力も余り求められない。が、俺の保有魔力は元々規格外だ。それに、紋章は周囲の魔力を吸収することが出来る。燃料切れの心配はない。
...まぁ、俺に魔法の才能がこれっぽっちも存在しない為に編み出した遠距離攻撃なのだが。
ストウスウェイトに呼び出された当初の保有魔力は舞に匹敵していたのに、魔法が使えないと分かってかなり落ち込んだものだ。
「最初に言っただろっ!お前じゃ役不足だってなぁっ!!」
そんな回想をしつつも、攻撃の手は緩めない。
ローゼル目掛け連打する拳は魔力の雨を作り、ヤツの身体を削っていく。
「クソッ!!」
傷ついた身体を回復させるため、魔力を吸収するローゼル。
身体が魔力で作られている魔物は、魔力で身体を回復出来る。正に不死身とも言える能力。
「それがテメェの専売特許だと思うなよっ」
だが、こちらも魔力を吸収することには自信がある。
「なっ!?貴様っ魔力をっ!?」
魔力の奪い合い。
お互いが相手に渡してなるものかと全力で吸収効率を上げていく。周囲に存在する魔力を喰らい尽くす最中、
「そんなに欲しいならくれてやるよっ!」
「なにっ?」
逆に膨大な魔力を放出する。
俺の魔力を吸収し、瞬く間に傷が治るローゼル。俺はそれと同時に飛び出し、突然の奇行に驚いたローゼルの懐に入り込む。
「ところで、自慢の闇はどうしたよ?」
「!?しまっっ」
―た、と言うより速くローゼルの胴体をぶち抜く。
あの闇は全てを塗り潰す。それは自分を回復させる為の魔力だろうと関係ない。ローゼルは自分でも気がつかない内に身体に纏わせていた闇を引っ込めていた。
...恐らく、ローゼルはあの闇を使っている時に傷ついた経験がないのだろう。最強の盾と矛を持っていたローゼルは、それ故に自身の弱点を知ることがなかった。
「ガハッッ」
今度は体制を立て直すことも出来ず、結界に激突したローゼル。
吸収することも覚束ないのか傷の治りも遅く、そのまま倒れ伏した。
「どうした、その程度なのか?手加減はしていたんだかな」
手加減と言うのは本当の事だ。
それはなにもローゼルを舐めていると言うことではない。
手加減したのはヤツが持っているであろう奥の手を探る為。
正体不明の闇の主。その存在をもっと詳しく知る為にガキだの痛々しいだのローゼルを苛立たせ、理性を奪ってきた。
ローゼルは強い。が、それはローゼル自身がではなくあの闇を扱えるから。
そして、そのローゼルの上司と言われる者達。後何人居るか分からないが、いづれは戦う相手だ。なら、今の内に耐性を得ておく。
もう二度と、目の前で誰も死なせない為に。
――俺が、守護者で在るために――
その思惑は成功したらしい。
ゆっくりと立ち上がったローゼルから溢れる闇は、これまでの比ではない。
「...あぁ、そうか、」
同じヤツとは思えない、脈絡のない言葉。
だが、俺はそれを気にすることが出来なかった。
何度も触れ闇に耐性を得たことで、最初には感じなかったナニかを一瞬知覚することが出来た。
出来てしまった
「~~っ!?!?」
幻視したナニか
ソレと目があったと感じたで、眼球が砕けた。
俺の視線に気がついたのか、ソレが俺に意識を向ける。
それで、五体が爆散した。
「雄護っ!?」
「雄護くんっ!!」
命が潰える寸前。
優花の能力がなんとか命を繋いでくれた。
無機物有機物に拘わらず、自身が怪我だと認識したものを問答無用で完治させる聖女の能力。
だが、
「そんなっ!?傷が治らないっっ!?」
まだ人の形を保っているが、俺の身体は硝子のようにひび割れていく。
しかも、まだ敵が消えた訳ではない。
「...貴様は、此処で死ね」
そう呟くローゼルを、溢れる闇が飲み込んでいく。それは先程のような攻防一体の技と言うよりは、ローゼルを生け贄に幻視したナニかが産まれる様で。
「させ...るかよっ」
それだけはなんとしても阻止する。
砂みたいに崩れる身体を紋章の力でなんとか押さえ込む。
赤神と優花が引き留めるが、無視する。
あのナニかをほっておけば、誇張なしに世界が滅ぶ。もしかすると、地球だけでなくストウスウェイトにまでその被害は及ぶかもしれない。
それは、向こうに居るあの子を傷つけるかもしれないと言うことで。
「そんなこと、やろうとしてみろっ...お前が、ナニか知らないが...」
絶対の殺意を持って、拳を握る。
もはやローゼルの原型は殆んど存在せず、闇の塊と化している。
「他の全てを置いてでも...」
安心してくれ、マリー。
君は必ず、俺が必ず、あらゆる災厄から護りぬくと俺は守護者に誓ったんだ。
君の側に、俺はもう居ることが出来ないけど。
その笑顔だけは、絶やさせはしない。
だから、
「お前はっ!此処で「ハゲ散らか」すっっ!!」
...
「何でや!ハゲ関係ないやろ!!」
大声出しすぎてちょっと身体が崩れちゃったじゃねぇか。
「やぁ、雄護。随分とサラッサラになったね。新手のダイエットかい?」
「俺、減量に命懸けすぎだろ...」
女子高生でもそこまでじゃないぞ。
そんなバカ丸出しで話しかけてきたイケメン男、優人は爽やかに微笑んでいる。
その手には黄金の剣が握られており、うっすらと流れる血からそこそこ苦戦していたらしい。
「そっちにも人型魔物が居たのか?傷を付けられるなんて珍しいな」
「いや、人型魔物は居なかったよ。これは舞を押さえて出来た傷だ。雄護が闇に飲まれた辺りから舞がブチ切れてね、落ち着かせるのに苦労したよ」
「...そりゃ災難。でも、その成果はあったろ」
それは前日に話し合っていた事だ。
いづれ魔物と戦うときが来た場合、まず俺達は様子見。仮にその敵が強く被害が出るようでも俺が相手をして、俺以外の3人は能力をなるべく隠蔽する。
それが『博士』何て言う謎まみれのヤツに出来る現状で唯一の対応策だったからだ。
単純な能力故にバレた所で余り問題のない俺が敵に対応し、相手の能力を探る。そこで何らかしらのヒントが得る、そして出来ればそれに対して耐性を得られればなお良し。と、考えていた。
今までの戦いも、優人達は魔法で気配を消して見ていたのだろう。
そして、
「その目的は、両方達成出来た」
あの闇い力について少しだが耐性を得ることが出来た。
ローゼル達の言う主とやらが上位次元の存在だと言うことも分かった。
唯一の誤算は、規格外の化け物が顕れたことだけで。
「それは致命的な誤算だろう。それより、少しは落ち着いたかい?」
「...それは、悪かった」
「分かればいいよ」
マリーが危険に晒されるかもしれないってだけで、頭に血が登りすぎた。今は不気味なくらい沈黙を保っている闇だが、あのまま襲いかかれば俺は確実に死んでいた。
...それについては凄く反省しています。だから、
「いい加減、離れたら、どうなの、九条さん?」
「黙って」
目尻をピクピクさせている赤神が、俺の気持ちを代弁してくれるが、被せるように舞は断った。
「お前をっ!」くらいに後ろから抱きついて来て、未だに"ギュゥッッ"てされているのだが、これがいつ"ゴキュッ"に変わるか怖くて仕方がない。
一応身体が崩れないように気をつけてくれているっぽいんだけど。
と、一人戦々恐々としていたが、少しして舞が話し出した。
「この傷、肉体じゃなくて魂とかそういう物が壊れかかっているみたい。優花が治せなかったのも、身体の傷を治そうって認識していたからだと思う」
例えるなら、頭痛を治そうとしていたが原因は風邪だったって事か。
優花の能力はどんな傷だろうと問答無用で治せるが、それは優花が治そうと認識した傷だけ。優花の認識が傷の原因ではなかったために、効果が弱まった。
なるほど、舞は俺の身体を調べる為に抱きついて来たのか。魔法関係は全然なので分からないが、調べてくれたのはありがたい。
ただ、途中からクンクンしてたけど必要あったんですかね?
「魂...分かりました、やってみます。治療するので、変態は退いてください」
「今はどんな罵倒も甘んじて受け入れるわ」
「スゴい満足げな顔してるね、舞ちゃん」
コイツら、目の前に敵が居ること忘れているんじゃねぇか?
なんて文句も言いたくなるが、まぁいいかと思い直す。
この緩い雰囲気で3年間走りきったのだ。きっとこれからもこの雰囲気は変わらないだろうし、正直言って変えたくない。
恐怖で眠れなかった初陣も、占拠された大陸を奪還する戦いの前日も、俺達四人はどうでもいいことを話した。泣きそうになるのを堪えて、バカ言いながらも未来の事を考えた。
それは、現実逃避だと言われるかもしれないけど。
戦う前に、護りたい未来を再確認することで俺達は誓ったんだ。
絶対、勝つと。
そんな俺達が、四人揃ってバカしてるんだ。
もう、この戦いの結末はもう見えている。
ここから先は、文句なしのハッピーエンドだ。




