闇
適当になってきたサブタイトルをどうにかしたいこの頃。
――目覚きろ、災厄の化身――
全てを飲み込むような闇いナニかを身に纏ったローゼル。
その手には同色の黒い薙刀の様な槍。
それは見るだけで、善くないものと言うのが分かる。
分かる、が。
――何も、感じない?――
槍の出現前まで放たれていた膨大な魔力はおろか、ヤツから感じていた威圧感すら今は影すら見当たらない。
「...なに唐突にイメチェンかましてんだ。歳考えろよジジィ」
「何も感じられないか?」
「...」
脅威をまるで感じられないのに、頭に鳴り響く警報が止まらない。そして、こう言う嫌な勘は総じて外れた事がない。
「しかし、それは当たり前だ」
それは、純然たる事実。
「例えば、人は山脈を見て圧倒される」
大人、子供を問わず。その姿に感動し、涙を流す者もいるだろう。例え感動を覚えずとも、その大きさは誰にでも伝わるもの。
だが、
「人々は地球の大きさを感じ、圧倒されることはないだろう」
質量で言えば数百倍。しかし人はそれを捉えることはない。
何故ならば、人が知覚できる範囲を越えているからだ。
「脅威と言うのは、それ相応に実力がなければ感じる事すらできないのだよ」
――今の君のように――
振るわれた槍。
放たれる闇の斬撃。
それを見ながら、しかし避けることなく。
俺は、闇に飲まれた。
「雄護っ!!」
ローゼルが放った斬撃は、雄護のいた場所を飲み込んだ。しかも、その斬撃は消えることなく雄護を包み込んでいる。
単純な破壊力だけでは測れない何か。斬撃の通り道が威力で破壊されるのではなく、削り取る様な形で抉られている。
しかも雄護が避けもせずに直撃したことから、相手の動きも封じる効果もあるかもしれない。
「ふむ、避けられなかったか。あれを正面から喰らっては原型を止めるかどうかも怪しいのだが」
「っ!起きろっ!!」
ローゼルの言う名無しですらギリギリだった私が、勝てる筈はない。
だけど、ここで何もせずにいられるほど私はっ
「いえ、起きないで下さい」
ぱちーん
「きゃっ!?」
胸をビンタされた。
出会って3日もしない人に、胸をビンタされた。
何だろう、普通に顔をビンタされる方がましかもしれない。
「いいじゃないですか、ビンタされるくらいあって。私なんか...」
「ちょっ、ちょっと!なんで私が悪者みたいになってるのよ!?」
「無駄死にする人は悪くないんですか?」
「っ!」
高まっていた炎が静まる。
確かに、今の私の実力でローゼルに挑むのは無駄死にと捉えられてしょうがない。
「だけどっ、雄護がっ!」
「普通に生きてますよ?今は寝てるだけで」
ね、寝てる?
「ほう、あれを喰らってまだ生きていると?」
「門ですよね」
「っ!?」
彼が生きている事にも安堵したが、続く皇さんの言葉に驚いた顔をするローゼル。
門、と言った筈だが...
「それは、どういう意味なの」
「今は何故か魔力等が感じられませんが、闇い槍が出現する前には結構な魔力が集められていましたよね?」
「えぇ、それは私も感じていたわ」
あの魔力量は、少なくとも私が戦ってきたどの魔物よりも多かった。それほどの魔力が、今は急に感じられなくなってしまったのだが。
「あれは門を発動したのでしょう。魔物が出現する前に現れる魔力。それは恐らくこちらで言う、転移の魔法に近いもの。ここまでで違う事はありますか?」
「...続けて構わないよ」
「そして、貴方は門を使いナニかと繋がった。その闇い魔力の様なものはそのナニかの力で出来ている」
「...」
「そして、あなたの言った言葉から察するに」
災厄の化身
こちらに戻ってきてから、似たような単語を聞いたことがある。
「まさかっ!?」
「そう。ローゼルさんが繋がった相手は、第二次世界対戦時に現れたと言う『災厄』。そうですよね?」
「...驚いたな。そこに辿り着くのはまだ先の事だと思っていたのだが」
「そうでもないでしょう。貴方に隠す気はなかったぽいですし」
むしろ、災厄とやらを見せるために動いていた節もある。
「なるほど、私は君に謝罪しなければならないな。正直、君は四人の中では一番君が弱いと思っていた。慈悲深く戦闘には向いていない、と。だが、そのずば抜けた観察眼は十分通用する」
観察眼を鍛えるには、実践が一番の方法だ。
彼女の能力は実践には不向き故、後方支援に特化しているのだと決めつけていたが、それは間違いだったらしい。
「...そして、今の会話で分かったことが一つ」
「なに?」
「貴方は、私の実力について上司から聞いたそうですが、詳しい内容までは聞いていない」
「...何故そう考えるのだ?」
「簡単な事ですよ」
仮に、私達の力について全てを知っているのだとしたら。
例え情報収集の為とは言え、彼から目を離すことはしないだろう。
雄護君が今なお沈黙する理由を知っているのだとしたら、こんな会話をする前に追撃するはずだ。
それに、
「私の本当の力を知っているのなら、私を慈悲深いなんて言える訳がない」
彼の魔王よりも残酷で。
この世の何よりもおぞましい。
ふと、考える時がある。
こんな私が、勇者パーティーの一員でいてもいいのだろうかと。
希望を体現する力を持つ勇者。愛する人への熱い想いを炎に変え、操る導師。そして
「なに言ってんだ。お前は優しい女の子だよ、優花」
仲間を護り抜く事のできる、守護者。
そんな優しく美しい彼らの隣に、いてもいいのだろうかと。
「...遅い起床ですね。夏休みは終わってますよ?」
「話を逸らすなって言いたいとこだが、今は後だ。この事は優人や舞にチクってやるから、覚えてろよ」
ちょっと集中してる内に、優花がシリアスしていたらしい。
彼女は誰にでも優しいくせに、自分には人一倍厳しいから。
――自分がスゲェ良い女って自覚ないんだよな、この聖女。――
「まぁ、マリー程ではないけどなっ!!」
「...何考えているか、大体予想つきますけど。イラッとしますね、その顔」
「顔関係なくね?」
ネガティブモードからは脱したらく、辛辣なボケをかます優花。
取り合えず、これだけ言えれば大丈夫だろう。
「...心配してたこっちがバカみたいじゃない。死んでなかったの?」
「それ、死んで欲しかったって言ってる?第一、お前らを囲ってる結界が張ってる時点で俺が生きてるって分かるだろ」
「あっ」
問答無用で燃やしてこない辺り、ちょっと位は心配してくれたと思っておく。
「そろそろ私も交ぜてもらって構わないかな?」
「おう。待たせたな、ジジィ」
「...随分と元気そうだが、あの力からどの様にして抜け出したのだい。あれは対象を喰らい尽くすまで収まらないはずだが」
「オイオイ、どうした?顔が強張ってるぜ。そんなに俺が生きている事が不思議かよ。なんなら、もう一度撃ってみるかい?」
「...過ぎた自信は身を滅ぼすぞ、小僧」
再び振るわれた闇の槍。
全てを喰らうかの如き闇力は、先程と同じ様に放たれ
「こっちの台詞だ、ボケ」
守護者の拳に粉砕された。
「なにっ!?」
「過ぎた自信? 何を今更、自分で言ったんだろう。傲慢は強者の特権であり、俺にはその資格があると。だったら、俺がその力を破ったとしてもおかしくない」
自分が打ち破ったのは当然だと言うように語る雄護。
その絶対の自信が、ローゼル心理に罅を入れる。
「あり得んっ!あの力が破られるなどっ!!あの力はっ」
「上位次元の存在の力、か?」
「~~っ!?」
言葉を失う。
己が信じる主の力を破られ、更に主の存在すら認知されてしまった事実に。
「この場合の上位次元って言うのは、力を持った者ではなく文字通りの存在だ」
ストウスウェイトには神が居た。
彼らは意思を待つエネルギーとも言え、世界そのものを表していた。彼らは常に世界と共にあり、世界の力を司る存在。
だが、
「お前が使った力は違う。ソイツは、この世界のどの力にも属さない」
火や水と言ったものから、時間や空間と言ったものまで。
ストウスウェイトでは数々の力を見てきたが、それらのどれよりも異質。
「その闇い力は、本の登場人物を墨で塗り潰すみたいに全てを飲み込む。幾ら本の中でシェルターに引き籠ろうと、シェルターごと闇に染まる様に」
故に防御不能の絶対攻撃。
1度飲み込まれたら、後には何も残らない。
「...ならば何故まだ生きている」
本の登場人物が、本その物に干渉するこの力に抗える筈がない。
ローゼルが抱いた疑問は、しかし一言で答えられた。
「その答えは只一つ。俺が、守護者だからだ」
誰よりも傲慢に、誰よりも大胆不敵に。
俺はそう、言い切った。




