優「胸が締め付けられる、夏の終わり」
「花火、綺麗だったよねー。それに、あんなお腹に響く音がするなんて思わなかったよ」
そんな風に別荘へ帰宅しても祭りの余韻を捨てきれずに、初めて生で見た花火の感想を語る夕映。
リビングにて五人はソファーに腰掛け、談笑していた。五人、というのは特定の誰かが席を外しているとかそういう事ではなく、順番にシャワーを浴びているのだ。それを待ってる各々の姿は浴衣姿のままで、俺に至っては少し脱いでしまうのが惜しい気さえしている。
あれから――夕映、勇と合流してから暫くすると花火大会が催されたのだ。破裂音と共に空で開花する鮮やかな炎の花弁、そんな光景に対する興奮は一同が平等に抱えていたのだ。
夕映の言葉に対して、「そうだね」と同意する真奈。
「確かに花火というのは幼い頃から見ているけれど、心奪われるね。しかし、いつ見ても思うのだけれど、あの開花した花火は火の粉として地上に降り注がないのかな? 打ち上げ会場では消防隊員が配備していたりするのだろうか」
「いや、そんなわけねーだろ。それくらい危険なものだったら、誰も見に来ねーって」
真面目な表情と口調で語った真奈に対して、彼女が分かりにくいボケを行っているのではという可能性を考慮しつつ、しかし指摘する俺。
「だよねー」
俺の言葉に同意する夕映。
一方、真奈の天然ぶりを見て腹を抱えて笑いつつ「か、可愛い。可愛いです! 真奈さん、ウチの子になって欲しい!」と、愛衣ちゃんは年上に投げかける言葉とは思えないセリフを発していた。
そんな中、勇だけはどこか浮かない表情を忍ばせつつ、しかしそれを悟られまいと笑みで上書きしたぎこちない面持ちが場の雰囲気からどこか浮いていた。
夕映と勇の間に起きた事、知らなくとも何となく察している俺達だから――不自然に見えたのだろうか?
そんな疑問を胸中に宿しつつ、気にかかるのは夕映の口調。平然としていたため、俺達は指摘する事も出来なかったものの……しかし、彼女の語り口調は以前のものに戻ってしまっていた。
勇からのカミングアウト、その衝撃で飛び出してしまった本来の口調を自暴自棄的に使い続けていた昨日、今日を経て現在――告白を終えたであろう夕映の話し方は以前のものに戻っていた。
乱暴な口調を耳にした回数の方が多い三浦と愛衣ちゃんも祭り会場で夕映と合流した時には、俺と真奈の動揺に今回は共感し、しかし――「何かがあった」と各々に察しているに留まっている。
そう――詳細を勇には問いかけていないのだ。
何となく、躊躇われて。
そんな俺達の胸中を知ってか、知らずか……いや、実は誰よりも心の機微に敏感な夕映の事だ。分かっていて、貫いているのだろう。現状――誰に対して敬語を用いない気さくさと、人懐っこさを湛えた――見た目通りの印象を裏切らない夕映の態度。
偽りを脱ぎ捨てて、自分をアピールする意味がなくなった、と――読み取るべきなのだろうか?
そんな夕映に対して……俺達は少し引き攣った表情を浮かべつつも、徐々に順応していった。
まるで、この海で接していた夕映が嘘だったように……元通り。
夢から目覚めたかのように。
夢でも見ていたかのように――。
そんな最中――シャワーを終え、出てきた三浦。そんな彼が髪に水分を伴わせた状態でリビングへ現れると、一斉に視線は彼の方へと収束する。ちなみにこの状況、昨日とデジャブーである。
普段は整髪料で整えた几帳面さを押し出した風貌……それに対するギャップであるように、男性としては少々長めの髪を下ろした彼。湯気で曇った眼鏡を片手に拭くものを探して、視力の弱い裸眼を細めて周囲を見渡す三浦を、見つめる一同の表情は普段、彼に向けられる引き気味なものでは断じてない。
寧ろ、逆である。
「正直、三浦さん……俳優か何かかって思うくらいイケメンだねー」
「そうですよねぇ。何か、色んな意味で勿体ないです」
夕映と愛衣ちゃんは顔を見合わせて嘆息し、そんな光景を見つめて真奈は呆れた表情で言う。
「君達、人間は顔ではないと言うじゃないか?」
「じゃあ真奈、『優しい不細工』と『優しいイケメン』は等価値なの?」
夕映の質問に「ぐぬぬ」と苦悶の表情を浮かべ、「人間、顔ではない」を肯定したのだろう……しかし、真奈はそんな悩み抜いた表情を不意に払拭すると、平然とした面持ちで「美形であるに越した事はない」と持論を曲げた。
やっぱり顔なんじゃねーかよ。
……まぁ、この問題において「最初、結婚に踏み切った理由がアレ」な真奈を弁護する事は不可能だから口は噤んでおくけれど。
でも、確かに三浦は会社でも女性社員に大人気なんだよなぁ……。キャーキャー言わない女性社員はきっと俺くらい。
寧ろ、ギャーって言いたいくらいだ。
一方、褒められてもうれしくないであろう女性に大絶賛の三浦は淡々と言う。
「ほら、シャワーが空いたよ。次使う人は早くしないと。後がつっかえているからね」
そう三浦に促されると、「次は誰が?」という疑問を湛えた表情で一同、見つめ合う。日本人特有の譲り合いが反発して物事が決まらないアレだ。しかし、そんな視線の錯綜の中で夕映が立ち上がり「じゃあ、私が次使わせてもらうねー」と言い、着替えを部屋から持ち出すとそそくさと浴室へと向かった。
そんな夕映の後ろ姿を見つめ、そして――勇へと視線を送る。
ソファーにもたれ、外界とを隔てるガラス越しに望むひたすらの闇夜に視線を預けていた。街灯も少ないこの別荘付近、悲しみに閉じた瞳に似た下弦の月の下、涙のように輝く星屑を思考のキャンパスとして、何を思っているのだろう?
少しの躊躇い。
ちょっとの恐怖心。
でも――突き動かすは、好奇心。
勇と夕映の結末を、俺達は知らない。
二人が寺から外れた薄暗い場所にて会話をしている光景……それを認めて、俺達は踵を返したのだ。盗み聞きなどという無粋な事はしたくなかったからだ。とはいえ現状、下世話な興味で事実を聞き出したいという欲求ではなく――それが、俺達の知るべき事なのか、否かという意味で真実に触れたい気持ちはある。
口を噤んでいる勇の本心。
話しにくいのか――話したくないのか。
「なぁ、勇」
俺が呼びかけると、「何です?」と平然とした態度で返事をしてこちらを向く勇。それを繕っている、などと思うのは先入観なのか――それとも。
「何が、とは言わないけど、一つだけ聞かせて欲しい。……それは、俺達が知るべきではない事、なのか?」
迷いの伴った、俺の問いかけ。
知るべきではない、ならばそこまででいい――しかし、知っておく事で何かの意味になるならば知りたいと思ったのだ。
見て見ぬ振りをすべき事と、共感すべき事の差異は勇にしか決められない。
そんな思考は皆が同じだったのか、緊迫した空気感で勇の言葉を待つ一同。
しかし――勇は薄っすらと微笑みを浮かべて、また視線を窓の向こうへと預けてしまう。
そして――、
「私にとって、今日の出来事が思い出になりませんように――そんな風に祈られては、話す事なんてありません」
その言葉で、全ての真実を闇に葬った勇。
俺達はそれ以上の追求はせず、そこまでで納得した。
それでいいのだ、と思い――幕を閉じた夕映の短い物語を想う。
窓の向こう、閉じた瞳を描いた下弦の月の下を刹那――切り裂くような流れ星が流麗な軌道を描いて、消えた。
○
翌日――出発の日と同じように人通りの少ない早朝に帰路を走りぬけてしまおうという提案が可決されて、朝早くからの帰宅。群青色の空がまだ夜の余韻を残しつつも、青みがかった空にうっすらと影を纏って羽ばたく小鳥の姿が窓の向こうに見えた。
部屋にて荷物を纏め、俺達は別荘から出る。
真奈が鍵が閉め、その音に俺は「帰宅するのだ」という思いを強く感じた。
夕映と真奈は自然な流れで、先に乗車してエンジンを掛けていた三浦の車に乗り込み、そんな光景を見つめた愛衣ちゃんが意味深なウインクをして同様に、三浦の車へと向う。
夕映は何となく勇の車には乗らないだろう、と思う……しかし、真奈と愛衣ちゃんは?
意図の分からない配慮にとりあえず従い、何だか奇妙な感覚を有しつつも、俺は勇の車に乗り込む。
運転席、キーを回してエンジンを稼働させる勇の隣、助手席に。
あぁ、そういえば――。
「何だかんだで初めてだな。お前さんの車に初めて乗った時は確か大雨で、そそくさと助手席を奪っちまった三浦のおかげで後部座席だっけ」
「そうでしたねぇ」
「……でも、こうして乗ってみると思うよ」
「何がです?」
懐疑的な表情を浮かべ俺の方を見つめる勇。
シートベルトを斜めに体上を滑らせて固定し、俺は語る。
「旦那が運転する車に乗るってのは……それなり悪い気分じゃない」
俺が羞恥心に炙られた言葉を躊躇いがちに語ると、勇はくすくすと笑う。
「もっと素直に言えばいいじゃないですか。良いもんだな、って」
「自惚れんじゃねーよ」
「なるほど。自分に惚れるのが私達ですし、それは言い得てるのかも知れませんね」
「確かにな」
俺がそう締めくくると、先導する真奈が乗った三浦の車が走り出し、勇は「行きましょうか」と行って追走を開始した。
走り出した車――サイドミラーに映った別荘が小さくなって、やがて見えなくなる。海の見える道路を駆け抜ける車、そのウインドウから見える刹那に流れる景色。薄暗い早朝の空に似た深い色を湛えた海面がゆらゆらと揺れ、砂浜に波が寄せては返す光景……妙に胸が締め付けられる、夏の終わり。
楽しくも、少しの苦みを帯びた二泊三日だった。
走り出す車はあっという間に海さえも視界から遠ざけて、来た道を戻っていると実感させられる山道へと差し掛かる。数時間、このまま走り連ねれば辿り着く俺達の街。再び日常に身を投じる感覚が、夢から覚める切なさを胸中に宿す。
そんな夢、とすら表現出来る二泊三日を俺は何となく振り返る……勇の決意が呼んだ変化、退職によって生まれた一人の少女の決意。揺らぎかけたその想いを助長した俺の行いは正しかったのか……。もしかしたら昨日の晩、勇に「どうなったのか?」と問いかけたのは、そういう不安があったのかも知れない。
三浦の時にも伴った罪悪感。
叶わない想いをぶつける事を促す行い、綺麗事。
まるで、自分の立場を知っている優越感から出る言葉のようで。
そんな全てに対して、許しが欲しくて――問いかけたのだろうか?
などという不安が俺の表情に浮かんでいたのだろうか……勇は視線は進むべき道の先を捉えながらも、「大丈夫ですよ」と言った。そんな言葉に俺の視線はウインドウから望む景色から勇の方へと変わり、自分の中に秘めた罪悪感……それを思った時に彼と二人っきりで車に乗っている現状の意味を知った気がした。
「優には少しだけ、話しておきましょうか。夕映は――これからもああして生きていくそうです。自分のイメージに寄り添って、自分の楽な生き方に寄りかかって、これからもずっと。そんな彼女が私に投げかけた言葉を考えれば、優がきっと抱いている懸念はそれほど意識するものではないのかも知れません」
「……どんな言葉なんだよ?」
俺がそう語ると、勇は「ふふっ」と笑って語る。
「申し訳ないですが、それは語れません。……でも、ヒントはあげられます。夕映は言ったんですよ。私達の生きる日々にそんな記憶は要らないから、思い出にしてはいけない――、
ただ、私達の幸福のために、自分の想いは忘れてくれ――って。
私達の日々に相応しくない重荷だからって。そんな親友からの言葉を私は乗り越え、忘れて……それでも生きていかなくちゃいけないんだと思うんです」
ヒントとしてはイマイチ、要点を得ないなと思った俺。
しかし、夕映の言葉――「忘れてくれ」という言葉はどこか引っかかる。本来、無意識の彼方へ放り込むべき事象を敢えて、意識させるように語る夕映。
それを思考した瞬間、俺の中で全てが氷解する。
「何だか、切ないな……それって。好きな人の重荷になるから、忘れてくれって言い分は分かるけれど……でも、そんな意識するように語られたら、嫌でも記憶に残っちまうよな? 忘れろって言われたら、忘れられないだろ?」
「そうです。全ては、そういう事ですよ。ですから、裏返しかも知れませんね。『忘れろ』が私への配慮であるならば、その実態は『忘れさせない』という罰。――実は随分と奥ゆかしい彼女の、朴念仁へと捧げるそれは、罰なのかも知れません」
勇はどこか皮肉っぽく笑って語った。
表面を着飾り、裏面に途轍もない本性を隠す夕映。
そんな彼女が勇に語った言葉。
それは皮肉と言えるくらい――らしさに満ちている。
「表向きは忘れて、なんて……綺麗なようで、随分と物騒だな。それ」
「表面は何だって綺麗なものですよ。しかし――どんなものにも影があるって事でもあって。忘れられたくないという気持ちは、忘れてという言葉で届けるなんて……確かに、綺麗事じゃないですけれど――決して醜いものなんかでもない。人間が生きる上で、存在する上で避けられない表と裏、明と暗、白と黒、
――それこそが、本物なんですよ?」
思い出にするなという言葉を、恋した人の記憶に焼き付ける。それが、彼女の本質であり、本心からの――言葉。決して、理路整然とは終わらず、縺れて、絡んで、終わるに終われない混線を纏めて束ねて鋏で切り落としたかのような……。
あまり痛烈な思い。
そして鮮烈な感情――。
表と裏を持つ夕映にとって、それほど相応しい終幕はないだろう。
ならば――、
「俺の後押しはやっぱり……」
胸中に宿った後悔に蹂躙され、俺が力無くそう呟く。すると――勇は「だから、大丈夫って言ったじゃないですか」と優しく微笑みを浮かべて言う。
「優が後押しした事、それが夕映にとってどういう意味を持ったのか。その答えたる、彼女が『最後に語った言葉』を私は明言するつもりはありません。表と裏、どちらが正しいのか分からない――いえ、それは間違ってますね。どちらも正しいのだから、片方を間違いには出来ず、選べない。ですから、明言は出来ません。それに――どちらも正しいと知っていますが、彼女から受け取った言葉はあくまで片面だけの表面的な言葉。それを私は軽い気持ちでは語れません。分厚く、重たいものですから。
でも、本物であるというのは、偽物ではないですから正しいのです。ならば、間違ってはいない、と――優を肯定はしてあげられますよ」
勇の要点を得ない茫漠とした言葉……本当はきちんとした明確な言葉で、夕映の背中を押した事を、間違っていなかったと思いたい、知りたい。もしくは、その逆を。
しかし、白黒つかず、表裏は相容れない。
きっと――彼女は勇に「ありがとう」と言ったのだと思う。
でも、それは――と、考えた所で俺は思考を止める。
……それ以上は無粋かもな。
俺は不安から何となく解かれたような感覚がし、隣で運転に勤しむ勇の肩に寄りかかり、体重を預ける。でも、そのように誰かに寄りかかりたい心情は同時に、未だ不安を胸中に宿しているからかも知れない。
白黒つかない、灰色の言葉が――胸を締め付ける。
そんな俺の挙動に対して勇は「緊張して運転が乱れちゃいますよ」と言うも、気にせずそのまま暫しの時を過ごした。
地平線から太陽が昇る。
まだまだ、暑い日々が続くだろう。
でも徐々に、その暑さは和らいで季節は移り変わるはずだ。
そして、秋になって木々が退廃的な紅に染められる季節となり、それを越えれば大気は冷やされ、冬の先達たる凍える風が街を吹き抜ける。そんな冬を経て、雪が溶ければ春になる。
そんな、四季の一つである夏の終わりを感じて……俺の胸中は急激に寂しくなってきた。活気ある季節の終わり目、その寂しさは誰かといれば二乗して大きくなるような気がする。
「また、あの別荘に行きたいよなぁ。初めて海で遊んだけど、やっぱり楽しかったもん」
俺の言葉に嘆息し、「まったく」と言う勇。
「そんな事を言うと案外、すぐに行く事になるんですよ。そういうのを――」
「フラグって言うんだろ?」
俺がしたり顔で返答すると、勇はきょとんとした表情を浮かべる。
「愛衣に聞いたんですね」
「そうだよ。でも、自覚的だったらそのフラグってやつは回避されるって聞いたぞ。ちょうど指輪の話をしていた時にそういう話題になってなぁ……あ、そうそう、俺ってばお前さんに貰った指輪、嬉しくって持って来ちまったんだよな」
俺はそう言うと膝の上に乗せていたカバンから指輪の入った小箱を探す。
持って来てしまうほど大事にしているという事を改めて勇に主張してやろうと思ったのだ。
一方、勇は微笑ましそうに「持って来てるんですか」と言う。
しかし――。
あれ、あれれ。
あれれれれ。
カバンの中をどれだけ探っても指輪を収めた小箱が見当たらない。しかし、カバンはこれ一つだし、服のポケットなんかに放り込んだ記憶もない。
……これって。
「ど、ど、ど、どうしよう。た、た、多分だけど……えーっと、そのぉ、アレだ」
「…………まさか」
「うーん、間違いないと思うんだけど――」
「ちょ、ちょっと待ってください! 心の準備を! うーん、それにしても……え、えぇー。止めて下さいよ。分かってるオチでも聞きたくないですって。いやぁ……でも、私の貯金全部注ぎ込んで買いましたし……ほったらかしは出来ませんからねぇ」
「貯金全部使ったのかよ」
さらりと明かされた指輪の価値。勇の貯金がどれほどのものかは知らないけれど、それなりに値段はしたのだろう。
まぁ、それはさておき――。
勇はもう半ば察しているのか、渋い顔で眼前でちらついている真実が俺の口から言葉として明言されるのを待っている。
……あぁ、これがフラグってやつかぁ。
とはいえ、この辛い事実――さっさと明言しておくか!
「うん、ごめん……別荘に忘れてきた」
でしょうね――と言いつつ、夕映とのギクシャクした関係の際にも見せなかった、もの凄い沈んだ気持ちを込めた溜め息を吐き出す勇。
その後――俺は携帯で愛衣ちゃんに連絡し、近くのパーキングエリアで一旦停止。事情を説明してひたすらに俺は頭を下げつつ別荘へと引き返す事になった。無論、俺と勇だけで別荘に戻っても真奈が鍵を掛けてしまっているからだ。
こうして――。
別荘にもう一度行きたいという俺の願望と、指輪を失くすというフラグを一気に回収しつつ――俺達、ナルシスト夫婦の夏季休暇がドタバタと賑やかな足音を立てながら終わった。
【ちょっとしたあとがき】
えー、【6】ナルシスト夫婦の夏季休暇は【5】を書き終えた時点の自分が見たら「こんなの書いてんのかよ!」と驚くくらいに想定外なものでした。一応、夕映の恋心と、只野へのカミングアウトをそれなりに補完しつつ本編にぶち込めなかったエピソードで肉付けするというイメージで書き始めた本章でした。
この「ナルシスト夫婦の適材適所」はこの【6】を読んで頂いたなら分かる通り、「彼らが性同一性障害同士入れ替わった」というギミックが書けば書くほど薄くなる物語です。【6】にはほとんど、性同一性障害を絡めたエピソードがありません。そもそも普通への再生、みたいなものがテーマになっているため、ベクトル的には進めば進むほど平凡になっていくというか……ですので、惰性で書き続けるのもいかがなものかと思い、本章で一応の完結。
まだ書きたいエピソードは沢山ありますしある程度、文量が溜まれば彼らにとって相応しいエンディングが僕の脳内にはあります。まぁ、それを書くかは気分次第なのですけれど……そこまでの道中に彼らの特性を活かしたエピソードがどれくらい出せるか。
最後に。
果たして、この【6】を【1】から続けて読んで下さった方がどれくらいいるのでしょうね。前半で損しているという意見もそれなりに頂いており、【5】への到達も危ういのかな?
まぁ、【6】だけ読んだという方がおられるのかは知りませんが、少なくともこのあとがきを読んでくださっている方々へ、言葉にしきれない感謝を。
ありがとうございました!
それでは。