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「お話って何です?レオン兄様」
訓練所の外からほど近い庭園に出た私とレオン兄様。
「アイリ、お前に見合い話だ。クルエール公爵とカラヴィアンナ伯爵からだ。今回は断ることができない。断るにしてもとりあえず見合いをしてもらわないといけないだろう」
「クルエール、公爵…なぜ、貴族院の筆頭貴族が私と見合いなど」
私が見合いする相手は大公家に従う貴族だと思っていた。派閥内の結束を強めるための結婚をするのだと覚悟していたというのに。
リドネ王国の最大二派の頭同士の見合いとは驚きを隠せない。五女とは言え大公家の娘だ。立場だけ言えば公爵家当主とでも十分に釣り合うとは思うけれど、それにしてもなぜ。
「対立したままでは、国は変わらない」
「…それは、父様のお言葉ですね。どうして今その言葉が出てくるのですか?」
父様が貴族院と大公家の対立を快く思っていないことは既知のこと。国を変えようと動くというのか。
見合いが父様によって仕組まれたものでないことを願うしかない。
「父上とクルエール公爵が旧友であることは知っているか?」
「初耳、です」
父様とクルエール公爵が旧友…父様は今までそんなそぶりを見せたことがあっただろうか。否、ない。舞踏会へ父様に付き添ったときも、父様とクルエール公爵はあくまでも対立し合う大公と貴族院の筆頭貴族だった。
「だろうな。俺も最近知ったことだ。どうして二人が友であるか、詳しいことは聞かせてもらっていない。だが、父上が30を過ぎたあたりからの付き合いだそうから…そうだな、二十五年程か」
二十五年…私が生まれるよりも前からの付き合いが父様とクルエール公爵の間にはあるのだという。
私には信じ難い話だ。
「では、父様がこの見合いの席を用意したのですか?」
「…そういうことだ。カラヴィアンナ伯爵はおまけのようなものだ。どちらも初めはエルが見合い相手だったんだが、父上がアイリのほうが適任だと言い出したんだ」
エルというのは四番目の姉様の愛称だ。エヴェリーナという名前なのだが、ハイル兄様とレオン兄様の二人からはエルと呼ばれている。
「見合いをすることも、見合いが父様に用意されたということも…まあいいです。ですが、なぜクルエール公爵なのです?」
貴族としての矜恃も政治においての発言力もあるクルエール公爵の何が問題かと聞かれれば、それは年齢だ。
私が政略結婚を嫌った一番の理由でもある、相手との年の差。クルエール公爵の年齢は父様よりも二つ下であるから54歳のはず。私との年の差は三十六。
「嫌です。絶対に嫌。どうして三十六も離れた野郎と見合いなんて…それに父様が用意した席と言ったらほぼ婚約が決定したも同然じゃない!ありえないわ!!」
ヒステリー気味なのはご愛嬌。
レオン兄様も珍しく表情を動かしている。
同情した顔なんて見たくないのだけど!!
「落ち着「このお話、聞かなかったことにします。レオン兄様が言い忘れた、ということでいいですわね?」…いや。だめだ」
「い、い、で、す、わ、ね?」
私にできる最高の笑顔でレオン兄様に『お願い』をする。
「……父上にアイリが全力で拒否していると伝えておこう…それでいいな」
「ええ。物分りの良いレオン兄様が私、大好きですわ」
にっこり。
「…思ってもないことは口にしなくていい」
「まあ、ひどい。レオン兄様ったら私が嘘つきだとおっしゃるの?」
「…俺が悪かった。お前の言葉を素直に受け取ろう…アイリ」
急に真面目な顔をして私を見つめるレオン兄様。剣を奮う腕が私の頬を優しく撫でる。
「父上が…いや、大公が決めたことを覆すのは簡単ではないことを忘れるな。それから、我がハルスカイネ家とクルエール家の見合いの意味をよく考えておけよ」
「言われなくても、分かっています」
「そうか」
兄様の手が頬から離れて頭にいく。私の髪を一房持ち、それに口づける。親愛の意味を持つその行為に兄様の優しさを感じる。
「私なら大丈夫。私だって大公家の娘です。自分の立場くらいは理解しています」
私の言葉にレオン兄様は言葉なく頷いた。
「アイリ・ハルスカイネはどこに行った?」
「アイリちゃんなら副団長殿と外でお話していますよ~」
「副団長…レオン・ハルスカイネか」
「何を話してるんでしょうねー?」
「…さあな。俺に聞くな」




