↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/3

聖女を召喚したら、また魔王城に届きました



 魔王城に、今度は少女が届いた。


「……あの、ここはどこですか?」


 大広間に現れた少女は、不安そうに周囲を見回していた。


 魔王は玉座から立ち上がった。


「また誤配送か!!」


 側近が記録帳を開いた。


「魔王様、前回の勇者召喚から3日目です」


「まだ3日しか経っておらんのか!」


「はい」


「人間の王国に連絡しろ!」


「承知しました」


 通信水晶に、見覚えのある国王が映し出された。


『何用だ、魔王!』


「また人間が届いたぞ!」


『……何?』


「今度は若い娘だ!」


『…………』


 国王が背後を振り返った。


『おい! 召喚担当者を呼べ!』


「またか!!」


 しばらくして、白いローブを着た魔術師が現れた。


『本日は聖女召喚の儀式を執り行いました』


「……聖女?」


『はい。王国に癒やしの力をもたらす存在です』


「その聖女が、なぜ魔王城にいる?」


『召喚自体は成功しております』


「配送先を確認しろ!」


『……前回と同じ座標です』


「直しておらんのか!!」


『前回も召喚には成功しておりますので』


「成功の定義を見直せ!!」


 少女は黙って聞いていた。


 どうやら自分は、聖女(予定)として召喚されたらしい。


「あの……私、聖女なんですか?」


「王国はそう言っておる」


「私、普通の人間なんですけど」


「前回もそうだった」


 魔王は通信水晶に向き直った。


「今度こそ引き取りに来い」


『少々お待ちください』


「今度は何だ!」


『本当に聖女かどうか、確認が必要です』


「そちらが召喚したのだろう!」


『ですが、まだ能力が確認されておりません』


「ならば、そちらで確認しろ!」


『確認できないものを引き取るわけにはまいりません』


「順番がおかしいだろう!」


 側近が静かに口を開いた。


「魔王様」


「何だ」


「王国の回答を待つより、こちらで能力を確認した方が早いかと」


「……また我々がやるのか?」


「はい」


 魔王は少女を見た。


「お前、治癒魔法は使えるか?」


「使ったことありません」


「……だろうな」


 側近が提案した。


「訓練場に負傷した兵士がおります。治癒能力の確認に協力してもらいましょう」


「……そうしろ」


 しばらくして、腕に包帯を巻いた兵士が連れてこられた。


 少女が兵士の腕を見た。


「あの、その傷、見せてもらえますか?」


「構わんが……」


 少女がそっと手をかざした。


 淡い光が広がる。


 兵士の傷が消えた。


「…………」


 魔王が少女を見た。


 少女も自分の手を見ていた。


「……治りました」


「治ったな」


「私、こんなことできるんですね」


「そうらしい」


 聖女(予定)は、聖女になった。


 魔王は通信水晶に向き直った。


「確認したぞ。治癒魔法が使える」


『本当か!?』


「ああ。兵士の傷を治した」


『では、その証拠を提出してもらおう』


「……証拠?」


『治癒前と治癒後の状態を記録した書類が必要だ』


「治癒前の傷はもうないぞ!」


『それでは確認できんではないか!』


「だから治ったと言っておる!」


『正式な審査には時間がかかる』


「また未定か!」


『審査が完了するまで、そちらで待機させてもらいたい』


 魔王は通信を切った。


「……客室を用意しろ」


「承知しました」


 こうして聖女は、魔王城に滞在することになった。


 翌日。


 聖女は、訓練中に怪我をした兵士を治した。


 その翌日。


 厨房で腰を痛めていた料理人を治した。


「お嬢さん、助かったよ!」


「いえ、私も練習になりますから」


 さらに翌日。


 城下町で体調を崩していた魔族の老人を治した。


「聖女様、ありがとうございます」


「どういたしまして」


 数日後。


 側近が記録帳を持ってきた。


「魔王様、ご報告があります」


「何だ」


「聖女の滞在によって、医療費が大幅に減少しております」


「……何?」


「兵士の治療費、厨房の労災対応、城下町の診療費です」


「そんなにか?」


「はい。宿泊費と食費を差し引いても、十分に利益が出ております」


「…………」


 魔王は考えた。


「……王国から連絡は?」


「まだありません」


「そうか」


 さらに数日後。


 ようやく王国から通信が入った。


『魔王よ! 聖女の審査が完了した!』


「遅い!」


『正式に聖女と認定された。直ちに王国へ引き渡せ!』


「今度は転送費用を払うのだろうな?」


『それについては別途協議する』


「またか!」


 そのとき、聖女が口を開いた。


「あの、私、ここで働きたいんですけど」


「…………何?」


 魔王が振り返った。


「ここで?」


「はい」


『何を言っておる! お前は王国の聖女だぞ!』


「でも、王国には行ったこともありませんし」


『召喚したのは我が国だ!』


「魔王城では、みんな親切にしてくれます」


『魔族だぞ!』


「お給料も出るって聞きました」


『…………』


「お休みもあるんですよね?」


 魔王は側近を見た。


「……あるな?」


「はい。週休2日です」


「だそうだ」


「じゃあ、ここがいいです」


『待て! 聖女は王国のために働くものだ!』


「お給料はいくらですか?」


『……名誉ある役職だ』


「お休みは?」


『国の危機に休みなどあるものか!』


「じゃあ、魔王城にします」


『なぜだ!!』


 魔王は通信水晶に向き直った。


「本人の希望だ」


『聖女を返せ!』


「本人が嫌だと言っておる」


『魔王が聖女を雇うなど聞いたことがない!』


「我も初めてだ」


『認めんぞ!』


「では、本人を説得してみろ」


『聖女よ! 王国にはお前を必要とする民がいるのだ!』


「ここにもいますよ?」


『…………』


「それに、ここで働く方が楽しそうです」


 魔王は側近に命じた。


「雇用契約書を用意しろ」


「承知しました」


『待て! 勝手に契約するな!』


「そちらは召喚してから何日も放置しただろう!」


『審査が必要だったのだ!』


「こちらは審査せずとも働いてもらっておる!」


 魔王は通信を切った。


 聖女が頭を下げた。


「これからよろしくお願いします」


「……ああ」


 側近が記録帳を閉じた。


「魔王様」


「何だ」


「今回の誤配送は、結果的に成功だったのでは?」


「……そうかもしれんな」


 魔王は少しだけ満足そうにうなずいた。


 その翌日。


 再び大広間に魔法陣が現れた。


 今度は、灰色のローブを着た中年男性が立っていた。


 古びた杖と、使い込まれた革の鞄を持っている。


「……ここは?」


 魔王は立ち上がった。


「おい」


「はい、魔王様」


「まさかとは思うが」


「はい」


「……また人間か?」


 側近は記録帳を開いた。


「そのようです」


「座標を直せと言っただろうが!!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。