勇者を召喚したら、魔王城に届きました
魔王城に、人間が届いた。
正確には、魔王城の大広間に突然魔法陣が現れ、その中央に見知らぬ青年が立っていた。
「……ここは?」
青年は周囲を見回した。
黒い壁。
巨大な玉座。
角の生えた魔族たち。
そして、玉座に座る魔王。
「……魔王城?」
「そうだが」
魔王は青年を見下ろした。
「お前は何者だ」
「えっと……普通の人間です」
「なぜここにいる?」
「それが、急に光って、気づいたらここに……」
「……召喚魔法か?」
「召喚?」
魔王はしばらく黙った。
「……人間の王国が何かやらかしたな」
魔王は側近を呼んだ。
「おい。人間の王国に連絡を取れ」
「承知しました」
側近が通信魔法を起動する。
しばらくすると、水晶に人間の国王が映し出された。
『何用だ、魔王!』
「人間が届いた」
『……何?』
「若い男だ。そちらで何か召喚しておらんか?」
『何を馬鹿な。我が国は本日、勇者召喚の儀式を執り行ったばかりだ』
「……その勇者ではないのか?」
『…………』
国王が背後を振り返った。
『おい! 召喚担当者を呼べ!』
水晶の向こうが騒がしくなった。
やがて、白いローブを着た魔術師が現れた。
『召喚は正常に完了しております!』
「ならば、なぜ勇者らしき人間が魔王城にいる?」
『……座標の指定に、多少の誤差があった可能性がございます』
「多少?」
魔王は玉座から立ち上がった。
「王城と魔王城では、国境を3つ越えているぞ」
『ですが、同じ大陸ですので』
「誤差の範囲が広すぎるだろう!」
青年は黙って聞いていた。
どうやら自分は、勇者(予定)として召喚されたらしい。
しかも、召喚された直後から配送事故に巻き込まれているようだった。
魔王が水晶に向き直る。
「とにかく、勇者を返す。そちらで転送魔法を用意しろ」
『少々お待ちください』
「何だ」
『転送費用は、どちらの負担になりますか?』
「…………は?」
『長距離転送には大量の魔力を消費しますので』
「そちらが召喚したのだろう!」
『しかし、現在勇者を保管しているのは魔王城です』
「保管!?」
魔王が青年を見た。
青年も魔王を見た。
「僕、荷物なんですか?」
「いや、違う。違うのだが、話をややこしくするな」
魔王は再び水晶に向かった。
「そちらが費用を負担しろ」
『着払いということでしょうか』
「そうだ!」
『申し訳ございません。王国では着払いの召喚物を受け付けておりません』
「召喚物と言ったな!?」
『では、勇者様』
「最初からそう呼べ!」
国王が割り込んできた。
『そもそも、魔王城に到着した勇者など信用できん!』
「何?」
『魔王軍に洗脳されている可能性がある!』
「まだ到着して10分だぞ!」
『10分もあれば十分だ!』
「何をする時間だ!」
青年が小さく手を挙げた。
「あの」
「何だ」
「僕、まだ誰にも洗脳されてません」
『それを証明できるのか?』
「えっ」
『魔王城に到着した以上、我が国としても慎重に対応せねばならん』
「じゃあ、僕はどうすれば」
『ひとまず、そちらで待機してもらいたい』
「どのくらいですか?」
『調査が終わるまでだ』
「いつ終わります?」
『未定だ』
青年は魔王を見た。
魔王も青年を見た。
「……泊まっていいですか?」
「なぜだ!」
「だって、迎えに来てくれないみたいなので」
魔王は頭を抱えた。
その夜。
青年には客室が与えられた。
夕食も出た。
風呂もあった。
翌朝には朝食まで用意されていた。
「……魔王城って、意外と待遇いいですね」
「客人を飢えさせるわけにもいかんだろう」
「ありがとうございます」
「礼を言うな。お前は本来、我を倒しに来た人間だろう」
「そうらしいんですけど」
青年はパンをかじった。
「僕、まだ何も説明されてないですよね?」
「……確かに」
「急に光って、気づいたらここにいたので」
「……そうだったな」
「魔王って、倒さないといけないんですかね?」
「人間の王国はそう考えているようだな」
「魔王さんは、僕を殺したいんですか?」
「別に」
「じゃあ、僕も別に」
「…………」
魔王はしばらく考えた。
「お前、元の世界に帰りたいか?」
「帰りたいです」
「そうか」
魔王は側近を呼んだ。
「帰還魔法は使えるか?」
「可能です。ただし、大量の魔力を消費します」
「構わん」
「よろしいのですか? かなりの費用になりますが」
「これ以上、王国と交渉する方が面倒だ」
青年は立ち上がった。
「本当に帰してくれるんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「二度と来るなよ」
「はい!」
魔法陣が光り、青年の姿が消えた。
魔王は深く息を吐いた。
「……やっと帰ったか」
側近が記録帳を開く。
「今回の件、王国への請求はいかがいたしましょう」
「当然、請求する」
「内訳は?」
「宿泊費、食費、通信費、それから帰還魔法の費用だ」
「承知しました」
数日後。
人間の王国に、魔王城から請求書が届いた。
国王はその金額を見て激怒した。
『なぜ我が国が魔王城の宿泊費を払わねばならん!』
魔王は通信水晶越しに答えた。
「そちらが召喚した勇者だろう」
『我が国は受け取っておらん!』
「だから元の世界へ帰したのだ!」
『勝手なことをするな!』
「では、引き取りに来ればよかっただろう!」
『そちらが転送費用を負担すれば済んだ話だ!』
「まだ言うか!」
魔王は通信を切った。
しばらくして、側近が報告に来た。
「魔王様」
「何だ」
「王国より、正式な回答が届きました」
「何と?」
「今回の勇者召喚については、納品が確認できないため、費用の支払いには応じられないとのことです」
「…………」
「なお、勇者の納品記録も存在しないとのことです」
「……勇者を納品物として管理しているのか、あの国は」
「そのようです」
魔王は天井を見上げた。
「……もう二度と受け取るな」
「魔王様」
「何だ」
「召喚魔法ですので、こちらの意思とは無関係に届きます」
「…………」
「受取拒否はできません」
「では、どうすればよいのだ!」
「……届いてから考えるしかございません」
「それでは今回と同じではないか!!」
その3日後。
再び大広間に魔法陣が現れた。
光の中から、今度は少女が姿を現した。
「……あの、ここはどこですか?」
魔王は叫んだ。
「また誤配送か!!」




