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賢者を召喚したら、またまた魔王城に届きました



 魔王城に、今度は中年男性が届いた。


 ただし、今回は少し様子が違った。


 大広間に現れた魔法陣。


 その上に、1人の男性が浮いていた。


 灰色のローブをまとい、片手には大きな宝石のついた杖。


 眼鏡をかけ、もう片方の手のそばには、分厚い魔導書が宙に浮いている。


 男性はゆっくりと周囲を見回した。


「……ほう」


 魔王は玉座から立ち上がった。


「またか!!」


 側近が記録帳を開いた。


「魔王様、前回の聖女召喚から1日です」


「昨日ではないか!!」


「はい」


 男性は魔法陣の上から大広間を眺めていた。


「これはなかなか立派な城ですね」


「……お前は何者だ?」


「魔法の研究をしております」


「人間か?」


「ええ。少なくとも、元の世界ではそう呼ばれておりました」


「……元の世界?」


「どうやら別の世界に来てしまったようですね」


 男性は足元の魔法陣を見下ろした。


「召喚魔法ですか。しかも、なかなか強引な術式だ」


 魔王は側近を見た。


「……今回は、何か違うぞ」


「そのようですね」


「とにかく人間の王国に連絡しろ!」


「承知しました」


 通信水晶に、見慣れた国王が映し出された。


『何用だ、魔王!』


「また人間が届いたぞ!」


『……何?』


「今度は空中に浮いておる!」


『…………』


 国王が背後を振り返った。


『おい! 召喚担当者を呼べ!』


「もう呼んでおけ!!」


 しばらくして、白いローブを着た魔術師が現れた。


『本日は賢者召喚の儀式を執り行いました』


「……賢者?」


『はい。高度な魔法知識を持つ存在です』


「その賢者が、なぜ魔王城にいる?」


『召喚自体は成功しております』


「その報告はもう聞き飽きた!!」


 魔王は水晶をにらんだ。


「そもそも、なぜ昨日の今日で召喚しておる!」


 国王が答えた。


『聖女を奪われたからだ!』


「奪っておらん! 本人が就職したのだ!」


『我が国には治癒の力が必要だったのだぞ!』


「ならば、なぜ何日も放置した!」


『審査が必要だったのだ!』


「その間にこちらで働いておったわ!」


『だからこそ、今度はすぐに賢者を確保する必要があったのだ!』


「そしてまた我が城に送ったのか!!」


 魔術師が口を挟んだ。


『召喚は正常に完了しております』


「お前は少し黙っておれ!!」


 男性は興味深そうに通信水晶を眺めていた。


「なるほど。私を賢者として召喚されたのですか」


「……そうらしい」


「それは光栄ですね」


 どうやら、この男性は賢者(予定)として召喚されたらしい。


 魔王は水晶に向き直った。


「今度こそ、そちらで引き取れ」


『まずは賢者としての能力を確認せねばならん』


「また審査か!!」


『前回の反省を踏まえ、今回は迅速に対応する』


「ほう」


『必要書類を3日以内に提出せよ』


「何も反省しておらんではないか!!」


 男性が小さく手を挙げた。


「少々よろしいですか?」


「何だ」


「先ほどから、召喚先が間違っているとおっしゃっていますね」


「そうだ」


「では、術式を確認してみましょう」


 男性が杖を軽く振った。


 足元の魔法陣から、光る文字と数字が浮かび上がった。


「……なるほど」


「何か分かったのか?」


「転送先の座標が固定されていますね」


 男性は浮かび上がった数字を指さした。


「この座標は、どちらを指定しているのですか?」


 魔王は側近を見た。


「確認できるか?」


「魔法設備の担当者に照合させます」


 しばらくして、側近が戻ってきた。


「魔王様」


「どうだった?」


「魔王城の座標と完全に一致しております」


「…………」


 魔王は通信水晶をにらんだ。


「お前たち、最初から我が城を指定しておるぞ!!」


『そんなはずはない!』


「座標が一致している!」


 賢者(予定)がうなずいた。


「魔法陣は正常に動作していますね」


「……何?」


「指定された場所に、正確に転送しているわけですから」


 男性は魔術師に尋ねた。


「この座標は、どなたが設定されたのですか?」


『前任者です』


「変更した記録は?」


『ありません』


「召喚前に座標の確認は?」


『行っておりません』


「前任者は、何の研究を?」


『……魔王城への潜入転送魔法です』


「…………」


 大広間が静まり返った。


 男性はうなずいた。


「なるほど。原因が分かりました」


 魔王はゆっくりと口を開いた。


「……つまり?」


「魔王城へ転送するための座標を、そのまま使っていたということですね」


「…………」


「術式に問題はありません。設定が間違っています」


 魔王は頭を抱えた。


「3回もか!!」


 男性は杖を軽く振った。


 浮かんでいた文字が消えた。


「それでは、座標を修正すれば解決ですね」


『では、直ちに修正せよ!』


 国王が命じた。


「私がですか?」


『当然だ! 賢者なのだろう!』


「そう呼ばれているようですね」


「…………」


 魔王は男性を見た。


「お前、本当に賢者なのか?」


「さて、どうでしょう」


「自分でも分からんのか?」


「賢者というのは、他人が決めるものですから」


 男性は微笑んだ。


「ただ、魔法の扱いには少々自信があります」


 杖を軽く掲げると、大広間の天井近くに小さな転移門が開いた。


 その向こうには、見知らぬ書斎が見えた。


「……何だ、あれは」


「私の研究室です」


「元の世界か?」


「ええ」


「……帰れるのか?」


「もちろん」


 魔王は目を見開いた。


「ならば帰れ!!」


「なぜです?」


「なぜではない!!」


「せっかく異世界に来たのです。少しくらい見学したいでしょう」


「我が城は観光施設ではない!!」


 賢者(予定)は、転移門を閉じた。


 魔王は深く息を吐いた。


「……本物の賢者が来てしまったか」


 賢者(予定)は、賢者になった。


 通信水晶の向こうで、国王が叫んだ。


『賢者よ! 直ちに我が国へ来るのだ!』


「行けますよ」


『ならば早く来い!』


「ですが、今は行きたくありません」


『なぜだ!!』


「こちらの方が面白そうなので」


『…………』


「ところで、魔王様」


「何だ」


「この城の魔法設備を見学させていただけませんか?」


「なぜだ!」


「先ほどから、興味深い魔力の流れを感じるのです」


「勝手に調べるな!!」


「では、正式にお願いしましょう」


 賢者はゆっくりと床に降り立った。


「しばらく、こちらに滞在させていただけませんか?」


「断る!」


「研究施設をお借りできれば、なおありがたいのですが」


「なぜ我が城の施設を貸さねばならん!」


「その代わり、今回の召喚事故を解決しましょう」


「……何?」


「この城に、勝手に人間が届かないようにすればよいのですよね?」


「……できるのか?」


「城の魔法設備を調べてみる必要はありますが、方法は考えられます」


 魔王は側近を見た。


「どう思う?」


「召喚事故への対応費用を考えれば、検討する価値はございます」


「……そうか」


「ただし、研究施設の使用範囲と期間は明確にしておくべきかと」


 賢者が微笑んだ。


「では、まず1か月ほど」


「長い!!」


「短い方ですよ?」


「何と比較しておる!!」


『待て!!』


 国王が通信水晶の向こうで叫んだ。


『我が国が召喚した賢者だぞ!』


「だから何だ!」


『勝手に契約するな!』


「本人が希望しておる!」


『賢者よ! 王国にはお前を必要とする民がいるのだ!』


「そうですか」


『ならば来い!』


「そちらの魔法陣の設定は、もう修正されましたか?」


『…………』


「修正してから呼んでください」


『…………』


 魔王は通信を切った。


 賢者が尋ねた。


「それで、研究施設はお借りできますか?」


「……条件がある」


「何でしょう」


「城内の設備を勝手に改造するな」


「承知しました」


「危険な実験をするな」


「内容によりますね」


「そこは承知しろ!!」


「では、事前に申請いたします」


 魔王は側近を見た。


「使用許可の書類を用意しろ」


「承知しました」


 こうして賢者は、魔王城の研究施設を1か月間使用することになった。


 翌日。


 賢者は魔法設備の担当者とともに、城の防御魔法陣を調査した。


「なるほど。外部からの侵入を防ぐ仕組みはあるのですね」


「はい。ただし、召喚魔法は防御対象に含まれておりません」


「では、転送先として指定された場合にも、拒否できるようにしましょう」


「……可能でしょうか?」


「試してみる価値はあります」


 賢者は杖を掲げた。


 魔法陣に、新たな術式が書き加えられていく。


 その翌日。


 側近が報告に来た。


「魔王様」


「何だ」


「召喚魔法の受信拒否設定が完了しました」


「……本当か?」


「はい。許可されていない転送は、すべて拒否されます」


 魔王は深く息を吐いた。


「……これでようやく平和になるな」


「はい」


 そのころ、人間の王国では。


 国王が新たな召喚儀式を命じていた。


『勇者も聖女も賢者も失った! 今度こそ確実に召喚せよ!』


『承知しました!』


 魔術師が魔法陣を起動した。


 まばゆい光が広がる。


 しかし、何も現れなかった。


『……おかしい』


『どうした!』


『召喚が失敗しました!』


『なぜだ!』


 魔術師が魔法陣を調べた。


 そこには、見慣れない文字が浮かんでいた。


《転送先から受信を拒否されました》


『…………』


 国王が叫んだ。


『なぜまた魔王城に送ろうとしているのだ!!』


 魔術師は答えた。


『……座標を変更しておりませんでした』


『直せと言っただろうが!!』


 こうして魔王城には、ようやく平和が訪れた。


 ただし、研究施設には、1か月間滞在する賢者が残っていた。


「魔王様」


「何だ」


「賢者様から、研究施設の使用期間延長について申請が届いております」


「……まだ2日しか経っておらんぞ!!」


 なお、人間の王国では、召喚担当者の変更が検討されているという。


 ただし、引き継ぎ資料はまだ作成されていない。





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