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たえこママの、エラーコード:404

(舞台説明)

ここは、メタバース空間にある、

東京・白山の路地裏。古いそば屋の居抜きバー『The Wallet』。


店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママだった。


——————————————————————————


今夜は、現実世界の「メタバース 白山商店街」の会長さんが、お財布のマークがついた手提げ袋を抱えてカウンターに座っている。


相談に乗っているのはたみこママ。

しかし、店の外では夕方から激しいゲリラ豪雨と雷が鳴り響き、メタバースの空間そのものが小刻みに揺れていた。


「──というわけなんだよ、たみこママ」


商店街の会長さんが、困り果てた顔で『米焼酎の水割り』をすする。


「うちの商店街もね、高齢化が進んでねぇ。

ガラケーからスマホに変えたばかりの頑固オヤジたちが、『電子決済なんて信用できん!』って、

お祭りの出店への導入を大反対してるんだよ。

どうしたらいいかねぇ」


「会長さん、心配いらないよ」


たみこママが割烹着の裾を直しながら微笑む。


「人間っていうのはね、食わず嫌いなだけさ。一度うちの店(端末)で『ピッ』とやる便利さを知れば、あの頑固オヤジたちだって──」


その時、**ズドーーーン!!**と、店のすぐ近くに大きな雷が落ちた。


店内のホログラムのボトルが一斉に点滅し、モダンなジャズがブツッと途切れる。


「……あら?」


たみこママが自分の胸元を押さえた。いつもなら緑色に優しく輝いているマルチ決済パネルが、禍々しい赤色に点滅し始めている。


『……ツウシン……エラー……オコシテクダサイ……エラーコード:404……』


たみこママの口から、聞いたこともない無機質な機械音声が漏れ出た。


「ママ!?」


カウンターでレモンサワーを飲んでいたPayPayくんが立ち上がる。


「嘘でしょ、ママの画面が『砂嵐』になってる! 通信回線が完全にイカれちゃったんだ!」


「しっかりしろ、ママ!」


Suicaくんがモスコミュールのグラスを置き、たみこママの肩を支えるが、ママの意識は朦朧としている。

「ダメだ、地上の基地局が雷でやられた。オフラインじゃ、ママのマルチ決済システム(心臓)が維持できない……!」


「そんな! ママが死んだら、僕たちの決済は誰が処理するのさ!」


au PAYくんがパニックになり、nanacoさんとWAONさんもお互いに抱き合って震えている。

JCB氏も「これは……京の都の天変地異どすな……」と珍しく狼狽していた。


店内の通信強度が『圏外』になり、空間そのものが消滅しそうになったその時──。


ガラガラガラッ!!!

そば屋の引き戸が、壊れんばかりの勢いで開け放たれた。


激しい雨風と共に滑り込んできたのは、銀色のボディスーツに身を包み、背中にパラボラアンテナの形をした巨大なリュックを背負った謎の男。


「誰だい、あんたは!?」会長さんが腰を抜かす。

男はゴーグルをシャキーンと跳ね上げ、鋭い眼光でたみこママを凝視した。


「話は宇宙そらから聞いていた。私は**『ドクター・スターリンク』**。地上の回線に絶望した決済たちを救う、衛星通信の外科医だ」

「スターリンク……! あいつの差し金か!」PayPayくんが叫ぶ。


「問答無用!」


ドクター・スターリンクは背中のアンテナを店の天井(メタバースなので突き抜ける)に向けて起動した。


「地上の電波が死んだなら、宇宙コスモから直接引っ張るまで! 仰ぎ見よ、高度550キロメートル、数千基の低軌道衛星の輝きを!」


ドクターが手元の端末を操作すると、店の天井から、一筋の青く太いレーザー光線のような超高速インターネットの光が降り注ぎ、たみこママの胸のパネルを直撃した。


『……ダウンロード中……1Gbps……接続、完了……』


たみこママの体がビクンと跳ね起き、胸のパネルが鮮やかな、これまでにない眩しい緑色の光を取り戻した。


ママの目がパチッと開く。


「……ふぅ。なんだか、頭がすっきりしたねぇ。現実世界の山の頂上(富士山)にでもいる気分だよ」


「ママ、治ったんだね!」PayPayくんたちが涙を流して喜ぶ。


「感謝するなら、宇宙の衛星たちにしなさい」


ドクター・スターリンクはクールにアンテナをたたむと、カウンターに歩み寄り、メニューの木札を見た。


「ドクター、喉が渇いた。私には『レッドアイ』を。それと、おでんのちくわぶを貰おうか」


「はいよ、ドクター。命の恩人だ、お代はあたし(スターリンク決済対応)が持っちゃうよ!」


たみこママはそう言って、いつものように京セラのガラホをパカッと開き、何事もなかったかのように微笑んだ。


それを見ていた商店街の会長さんは、深く感動して立ち上がった。


「すごい……! 雷が落ちても、宇宙から電波を引っ張って一瞬で決済ができるなんて! これなら、うちの商店街の頑固オヤジたちも絶対に納得するよ! たみこママ、うちの商店街、丸ごとキャッシュレスにするよ!」


「まいどあり、会長さん!」


たみこママの威勢のいい声が響き、バー『The Wallet』は、地上の嵐を忘れるほどの大きな歓声に包まれるのだった。

(つづく)

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