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たえこママの、白山商店街アーユルヴェーダ相談会』〜薬事法回避編〜


(舞台説明)

ここはメタバース空間にある、とあるバー、店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。


————————————————————————


ランチ営業中の

『The Wallet』

『たえこママの、白山商店街アーユルヴェーダ相談会』〜薬事法回避編〜


「ママ、またバグらせたなーー!」


復活したばかりの芋ロボが、ナノバブル水筒からスパイス水を消火器のようにスプレーし、魚屋の源さんや商店街の会長たちが「目が辛い(スパイシー)!」と大絶叫する中、たえこママの脳裏に電撃が走った。


(待てよ……。これ以上、私がもっともらしい顔をして『これが五十肩に効く』だの『ギックリ腰が治る』だの言い続けたら……前回のコンプラ違反どころか、ガチの【薬事法違反】でメタバースの警察にしょっ引かれるんじゃないかい!?)


そう、たえこママは昨夜のDX大炎上で、コンプライアンス(法令遵守)の大切さを身に染みて学んでいたのだ。


「ちょっとあんたたち、ストーーーップ!!」


元マラソンランナーの肺活量を活かしたたえこママの大喝声が、スパイス煙る店内に響き渡った。


ママはサムスンの両開き端末をパタン!と叩きつけて閉じ、頭上の特大ミラーリング画面を強制終了させた。


「いいかい、うちのアーユルヴェーダ相談会はここまでさ! これ以上の詳しい診断は、メタバースの生ぬるいバーじゃなくて、リアル世界の専門医にご相談下さい!!」


「えええーーっ! ここで終わりーー!?」


商店街の面々がズッコケる中、ママは「はいはい、お引き取り、お引き取り!」と、全員を力技でバーの外へと押し出し、ドアの鍵をガチャンと閉めてしまった。


静まり返る店内。


スパイスの匂いが漂うカウンターの隅で、タコのパウロくんだけが、まだショックから抜け出せずに向こうを向いていじけていた。


「あらやだ、パウロくん。怖がらせちゃって悪かったねぇ」


たえこママは申し訳なさそうな顔をすると、カウンターの奥から「ポン」と小気味いい音を立てて、一つの缶詰を取り出した。


「ほら、これをおあがり。昨日の先出し(お通し)で余っちゃったサバの缶詰さ。パウロくんにだけ、特別なおごちそうだよ!」


サバ缶から漂う、極上の脂の香りと醤油の匂い。


それを嗅いだ瞬間、パウロくんの目はパッと輝いた。細い8本の足を大忙しでうごめかし、缶詰に吸い付くようにしてサバの身をパクリと平らげる。


「キューーーッ!!」

あまりの美味しさにパウロくんは体色をサクラ色に変え、カウンターの上をタコ踊りしながら大興奮で喜びを表現し始めた。2階の避難場所から恐る恐る降りてきたパンダも、その楽しそうな姿を見て、嬉しそうに拍手を送っている。


それを見たいたえこママは、使い古されたガラホを愛おしそうに撫でながら、いつもの威勢のいいかけ声とともにフンスと鼻を鳴らした。


「ふん、法律を守って、サバ缶でタコが喜ぶ。やっぱりこの店の通常運転が1番いいね!」


白山商店街からの面々と、法令遵守の狭間で、今日も絶妙な身のこなし(ステップ)を見せたたえこママの居抜きバー『The Wallet』には、サバ缶の香ばしい匂いと、平和を取り戻していた。

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