たえこママと、カズコさん - 後編 -
(舞台説明)
ここはメタバース空間にある、とあるバー、店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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ランチ営業中の
『The Wallet』
「あんたのそのガラホ、一生大殺界だよ!!」
カズコ先生の怒号が響き渡り、芋ロボがショートして煙を吹く中、たえこママはフンスと鼻を鳴らして不敵に笑った。
「フン、大殺界がなんだって言うんだい。あんた、ちょっとそこに座りなさい」
たえこママは、ゲオで買ったばかりのサムスンの両開き端末(Galaxy Z Fold)をパカッと開き、爆速のローマ字入力で画面を叩き始めた。
「あんたの生まれた場所の、緯度と経度は? あと生まれた時間は何時何分だい!」
「え、ええ!? 山形県の鶴岡市で、朝の4時15分だけど……」
カズコ先生が迫力に圧されて答えると、ママのスマホ大画面(老眼用特大ミラーリング)に、複雑な星の配置図――【ホロスコープ】が浮かび上がった。
伊達に昔、星占いブームにドハマりしていなかった。
元マラソンランナーとしてのストイックな暗記メソッドで、ママは天体の運行図を引く知識を完璧にマスターしていたのだ。
「いいかい、カズコ。あんたのアセンダント(上昇宮)と土星の配置を見なさい。……それから、あんた最近、腰を痛めてゲオの湿布コーナーにいたね?(ホットリーディング)」
「ひっ! なんでそれを!?」
「さらにあんた、本当はデジタル決済なんてどうでもよくて、新しい街に馴染めなくて寂しかっただけじゃないのかい?(ゴールドリーディング)」
「う、うう……その通りだよ……!」
カズコ先生は図星を突かれ、涙目になった。
たえこママは、ミラーリングされた星の図をバン!とタップして、慈愛に満ちた(しかし凄みのある)声で言い聞かせた。
「あんたの星の並びだと、今無理にデジタル決済の店を開いたら、前世の因縁どころか、リアルな税務署がすっ飛んできて大変なことになるよ! 占いの館は、大人しく現金払いの紹介制から始めなさい!」
「わ、分かったよ……! あんた、本物の予言者だね……!」
カズコ先生は完全に戦意を喪失し、脱帽して『The Wallet』からそそくさと撤退していった。
静まり返る店内。パウロくんが恐る恐る足を伸ばし、常連客たちが一斉にママを囲んだ。
「マ、ママ……! 占星術なんてできたんですか!? 天才じゃないですか!」
常連たちが大興奮で騒ぎ立てると、たえこママは愛用のガラホをポケットにしまいながら、おっちょこちょいな笑顔でウインクした。
「なによ、種を明かせば簡単なことさ。カズコが店に来る前に、ゲオの店員から『向かいにカズコって占い師が引っ越してきて、腰痛の相談された』って全部聞いてたのさ! あとは昔の星占いの本に書いてあったハッタリを、ワープロ感覚で画面に入力しただけだよ!」
「なんだ、ただの最強の井戸端会議かよ!」
ママの見事なハッタリと、相変わらずの「おっちょこちょいな知ったかぶり」に、居抜きバー『The Wallet』は再び常連たちの爆笑に包まれるのだった。




