たえこママの、DX(デジタルトランスフォーメーション)- 翌朝 -
たえこママの、DX- そして翌朝 -
(舞台説明)
ここはメタバース空間にある、とあるバー、店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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深夜から翌朝へ
『The Wallet』
「なるほど、ワープロのタイピングの経験が生きてるのか……って、ママ! 画面に変なファイルがデカデカと映ってますよ!」
常連たちが大画面を見上げると、そこにはママがキーボードのショートカットを押し間違えて開いてしまった、門外不出の極秘データが特大サイズで晒し出されていた。
画面の最上部には、太文字でこう書かれている。
【The Wallet 顧客コンプライアンス管理・取扱説明書(更新中)】
「あ、あらやだ! 企業のガバナンスとしてのリスク管理画面を見ちゃダメじゃないの!」
焦ったたえこママが両開き端末を直接バシバシとタップするが、大画面には常連たちのツケの金額や「直近の怪しい行動」のメモが映画のように映し出され、店内はまたしても大パニックに陥る。
さらに、常連のひとりが画面の隅っこを指さして悲鳴を上げた。そこには、赤く点滅する【● LIVE】の文字と、恐ろしいスピードで増えていく視聴者数の数字が表示されている。
「ママ、これ世界中にリアタイ配信されてるぞ! 俺たちのコンプラ情報がネットの海に垂れ流しだ!」
「あんた何言ってるのよ。ゲオの店員が『この端末ならボタン一つで世界と繋がれます』って言ってたから、さっきキーボードの適当なボタンをポンと押してやっただけさ!」
コメント欄には
『 The Walletのママ、セキュリティ意識ゼロで草 』
『 このおっちょこちょいババア、最高にロックだな 』と世界中からの書き込みが爆速で流れていく。
「あ、あらやだ! 全世界にうちの、ツケが筒抜けじゃないの!」
焦ったたえこママは、元マラソンランナーの瞬発力で折りたたみキーボードをパタン!と勢いよく閉じた。
しかし、配信は止まるどころか、ママが慌てて自分の指をキーボードに挟み、
「痛いじゃないのーーっ!」と涙目で大絶叫する姿が、ドアップで全世界にリアタイされ続けるのだった。
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そして、朝定食の、
――翌朝。
ハヤカケンたちが恐る恐る『The Wallet』のドアを開けると、そこにはいつも通りの穏やかな出汁の香りが漂っていた。
カウンターの奥で、たえこママは使い古された「ガラホ」のボタンを、愛おしそうにポチポチと押している。
「あ、ママ……DXはどうしたんですか?」
ハヤカケンが恐る恐る尋ねると、たえこママはガラホを胸に抱きしめ、いつもの威勢のいいかけ声とともにフンスと鼻を鳴らした。
「なによ。やっぱりガラホが、1番いいね!」
最先端の波に一瞬で呑まれ、一瞬で引き返してきたデジタル難民、たえこママの、笑顔に、
常連一同はただただ、困惑するのだった。




