たえこママと、古代兵器のソニエリ
(舞台説明)
ここはメタバース空間にある、とあるバー、店を切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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深夜の『The Wallet』
「ちょっと、芋掘りロボ! そこはパウロの水槽の裏だから、そんなに激しくハサミを動かすんじゃないよ!」
昼下がりのバー『The Wallet』で、たえこママは中国製の居候ロボにゲキを飛ばしながら、棚の奥の大掃除をしていた。
そば屋の居抜きだけあって、棚の最上段には長年手をつけていない怪しい箱がいくつか眠っている。
その一つを引っ張り出した時、カサリと硬いプラスチックの音がした。
「……あら。懐かしいねぇ、まだこんなものが残ってたんだい」
たえこママが取り出したのは、液晶画面がクルリと横に回転する、鮮やかなオレンジ色の【ソニー・エリクソン製のガラケー】だった。
夜になり、店が開くと、カウンターの上に鎮座するその「謎の物体」を囲んで、常連客のスマートフォンたちが驚愕の声を上げた。
「マ、ママ……なんだよこの分厚いアタッチメントみたいな機械は!? 画面が小さすぎるし、ボタンが物理的に凹凸してるぞ!」
「まさか、これが噂に聞く『ガラパゴス・ケータイ』ってやつか!?」
常連たちのビビりっぷりに、たえこママはルイ姉さんのような極上のハスキーボイスで、フッと妖艶に微笑んだ。
「失礼なことをお言いじゃないよ。これはね、あたしが昔、それこそebayの男と付き合うよりもっと前、下町のイケメンと『赤外線通信』でアドレスを交換した時の、大切な戦友さね」
「せ、赤外線通信……!? 端末同士を物理的に近づけてデータを飛ばすという、あの暗黒時代の通信プロトコルか!」
スマートフォンたちが、まるで中世の魔術を聞くような目でガラケーを見る。
「そうさ。当時は今みたいにLINEなんて便利なものはなかったからねぇ、センター問い合わせを何度も連打して、メールが届いてないか確認したもんだよ。好きな男からのメールの着信音だけ、お気に入りの『着うたフル』に設定しちゃったりしてさ」
遠い目をして語るたえこママに、ハヤカケンちゃんやKitacaくんたち地方ICカードも興味津々だ。
「ママ、その頃ってうちたちみたいなIC決済はあったと?」
「あるわけないじゃないの。当時はみんな、駅の切符売り場で小銭をジャラジャラ言わせて切符を買ってたんだよ。うっかりパケ放題のプランに入り忘れて、画像付きのメールを数枚開いただけで、一瞬でお財布(The Wallet)が空っぽになる『パケ死』なんて大惨事もあったねぇ」
「パケ死!! 恐ろしすぎる!!」
最先端の5G環境に生きるスマートフォンたちは、当時のあまりに過酷なデジタル環境の怪談に、画面をガタガタと震わせた。
すると、水槽の横で翻訳器をつけた芋掘りロボが、ガラケーのアンテナをピコピコと触りながら中国語で呟いた。
『……この機械、イモの形に似てるアル。なんだか親近感がわくアルな』
パウロ二世も水槽から8本の足を伸ばし、ガラケーのボタンを「1、2、3……」と押して、明日のラッキーナンバーを占い始めている。
「はいはい、昔話はここまで! どんなに時代が変わっても、人と人を繋ぐのはハートさね!
ほら、今夜は平成レトロってことで、昔懐かしいディスカウント価格のハムカツだよ!」
いつもの威勢のいい「かけ声」が響き、バー『The Wallet』は一気に香ばしいソースの香りに包まれた。
メタバース空間の元そば屋のバーは、今夜も古代のガラケーを肴に、みんなの笑顔で賑やかに更けていくのだった。




