たえこママと、パンダ団子(大熊猫窩頭)
(舞台説明)
ここはメタバース空間にある、
東京・白山の居抜きバー『The Wallet』。
店を切り盛りするのは、雇われママの たえこママだった。
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バー『The Wallet』のカウンターで、パチパチと素早い音を立てて金色の電卓を叩く、謎のゴージャスな美女がいた。
彼女こそ、中華圏の決済ネットワークを一手に握る、通称「銀聯カード姐さん」である。
「アイヤー、ママ! 心配はいらないヨ。この子たちが暴れてるのは、お腹が空いてるだけあるね。でもね、日本のジャンクフードじゃダメ。パンダの胃腸はとってもデリケートね」
銀聯姐さんは妖艶に微笑むと、チャイナドレスのスリットから最新型のスマートフォンを取り出した。
「こういう時のために、四川省の『パンダ幼稚園』の裏ルートと回線をつないでおいたヨ。最高級の『パンダ団子(大熊猫窩頭)』のレシピデータ、緊急仕入れ完了ある!」
「さすが姐さん、仕事が早いねぇ!」
たえこママが感心する中、店の厨房から凄まじい勢いで湯気が立ち上る。竹粉や大豆、米粉を練り上げた、パンダにとっては狂喜乱舞レベルの特製団子が、メタバース空間に再現された。
「ウオォォン!?」
匂いを嗅ぎつけたパンダたちが、お行儀よくお座りをして、前足で団子を大事そうに抱えてモグモグと食べ始める。
先ほどまで暴れていたのが嘘のように、みんなうっとりした表情だ。
銀聯姐さんは満足そうに頷き、パンダたちの頭を優しく撫でまわした。
「ハオラー、ハオラー! 美味しいねぇ。たくさんお食べ。ダージャーパオ(みんなお腹いっぱい)が、私の世界平和ネ!」
その愛くるしい光景に、店内の常連客たちからも「可愛い…」とため息が漏れる。
カウンターの奥からそれを見ていたたえこママは、腕を組み、ふと考え込んだ。
「……ねぇ、姐さん。この子たち、せっかくこんなに元気で可愛いんだ。バーの中に閉じ込めておくのはもったいないと思わないかい?」
「あら、何かいいアイデアでもあるの?」
たえこママはニヤリと笑った。
「今、リアルな世界じゃ、上野も、和歌山の白浜も、神戸の王子動物園も、みんなパンダが中国へ旅立っちまってさ。
いわゆる『パンダロス』で寂しい思いをしてるファンが山ほどいるんだよ」
ママは店の配信システムを起動した。
「だったら、このメタバースの元気なモフモフたちの姿を、上野・和歌山・神戸のローカルコミュニティや、動物園のメタバース特設会場に『リアルタイム配信』してやろうじゃないの! 四川の団子を美味そうに食うパンダの姿なんて、全人類が泣いて喜ぶよ!」
「それ最高ネ! 私の決済ネットワークの太い帯域を、その配信の超高速通信に回すヨ!」
銀聯姐さんがパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、『The Wallet』から発信された映像が、現実世界のパンダファンたちの画面へと繋がった。
『ああっ! 上野にパンダが帰ってきたみたい!』
『和歌山のあの子たちみたいに、団子を転がして食べてるわ!』
『神戸のみんな、見て! パンダがメタバースで大活躍してるよ!』
画面越しに、日本中のパンダロスに泣いていた人たちのコメントが、怒涛の勢いで流れていく。
「ありがとう、たえこママ!」「ありがとう、銀聯姐さん!」の文字が画面を埋め尽くした。
店内のパンダたちは、自分たちが大絶賛されているのを知ってか知らずか、銀聯姐さんのパンダ団子を口いっぱいに頬張りながら、カメラに向かってお尻をフリフリとダンスしてみせた。
「あっはは! 見なよ、日本中が笑顔になってるよ!」
たえこママは嬉しそうに、冷えたビールを銀聯姐さんのグラスに注いだ。
銀聯姐さんはビールを豪快に干すと、パンダたちに向かって再びウインクを飛ばした。
「ハオラー、ハオラー! 日本のみんなも元気出すネ! ダージャーパオあるよー!」
そば屋の居抜きバーから始まった小さな配信は、今夜、日本中のパンダファンの心を救う、最高の「癒やし」の奇跡を起こしたのだった。
後日の事
画面越しに、日本中のパンダロスに泣いていた人たちの熱いコメントが、画面が見えなくなるほどの怒涛の勢いで流れていく。
『ああっ、この団子の食べ方、和歌山のあの子にそっくり…!』
『タンタンの分まで元気に食べてる(号泣)』
『メタバース万歳! 涙で画面が見えないよ!』
それはまさに、映画の歴史を塗り替える大ヒット作の誕生の瞬間。
「全米が泣いた」ならぬ、「日本中が泣いた(全パンダファンが号泣した)」歴史的リアタイ配信となったのだ。
銀聯姐さんはビールを豪快に干すと、画面の向こうのファンと店内のパンダたちに向かって、もう一度温かいウインクを飛ばした。
「アイヤー、ハオラー、ハオラー! 日本のみんなも泣かないで元気出すネ! 今夜はみんな、ダージャーパオ(みんなお腹いっぱい&胸いっぱい)あるよー!」




