たえこママと、道の駅のアリババ(千葉バスツアー編)
(舞台説明)
ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。
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「みんな! ギガを消費してる場合じゃないよ!」
たえこママと、バーの常連客の面々は、
テレビ東京で、紹介されていた、クラブツーリズムの千葉行きバスツアーに参加した。
バー『The Wallet』の一行は、
熱気あふれる道の駅の「野菜詰め放題」コーナーにいた。
いつもはクールな常連のスマートフォンや交通系ICたちも、たえこママの気迫に押され、泥付きのジャガイモを必死に袋に詰めている。
「お、ママ、これ以上入らないぜ……!」
「甘いねぇ! ビニール袋ってのはね、伸ばして広げてから詰めるのがビッグ・エー仕込みの……」
たえこママが人参をねじ込もうとした、その時。
隣から、信じられないほどの高速決済データ通信の風圧とともに、一本の大根が美しく袋に滑り込んできた。その袋には、限界突破した量の玉ねぎが芸術的に詰め込まれている。
「……相変わらず、袋の拡張アルゴリズムが不器用だな、たえこ」
低音の、どこかオリエンタルで冷徹な、しかし懐かしい声。
たえこママがハッと顔を上げると、そこには青い光彩を放つ中国の巨大決済ネットワーク、『Alipay』さんが立っていた。
「あ、あんたは……アリペイ……! なんで千葉の道の駅にいるんだい!?」
「マ、ママの元カレ!? 中国のアリババグループの巨人が、なんで観光バスで房総半島に来てんだよ!?」
常連の交通系ICたちは、何がなんだかわからずシステムエラー寸前で大混乱に陥る。
「ふっ、インバウンドの視察さ。……相変わらずいい声をしているな、たえこ。そのルイ姉さんのようなハスキーボイスで、俺のQRコードをスキャンしてくれないか?」
「な、何言ってるんだいこの男は……!」
たえこママは顔を真っ赤にして、詰めたばかりのジャガイモを落としそうになっている。
「ママ、騙されちゃダメだ!」
スマートフォンたちが画面をフル明滅させて必死に警告するが、二人の間には一瞬、かつて大陸をまたにかけた熱い恋のデータが駆け巡っていた。
――数十分後。
ツアーの出発時刻が近づき、観光バスの前に集まった一行。
たえこママの手には、詰め放題の袋ではなく、道の駅で買った『たい焼きソフトクリーム』が握られていた。
温かいたい焼きの皮の器に、冷たいソフトクリームがたっぷりと詰まった、ちょっと不思議なご当地スイーツだ。
パクッとそれを一口食べたママは、どこか遠い目をしながら、ルイ姉さんのような極上のハスキーボイスで静かに呟いた。
「……あの男との思い出なんてさ。あの時はグツグツと燃え上がってた気がしたけど……今思えば、激辛の火鍋みたいな、ただの幻想だったんだよ。冷めちまえば、お腹に何も残らない、ただの煙さね」
冷たいソフトクリームを味わいながら、未練をさらりと水に流すたえこママ。そのあまりの「粋」な横顔に、常連の面々は言葉を失った。
「ママ……カッケーよ……!」
「大人の引き際ってやつだな……!」
「はいはい、おセンチな時間はここまで! ほら、バスが出るよ! 遅れたら置いてっちゃうからね!」
いつものチャキチャキした「かけ声」を響かせ、マックイーンのキャメル色ライダースをなびかせながらバスに乗り込むたえこママ。
窓の外では、アリペイさんが静かに青い光を明滅させて、去りゆくバスを見送っていた。
最先端のデジタルと、詰め放題のネギ、そして甘いたい焼きソフトクリーム。
クラブツーリズムのバスは、たえこママのビターで粋な恋の余韻と、大量の野菜を乗せて、夕暮れのメタバース白山へと帰っていくのだった。




