↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
30/79

たえこママと、道の駅のアリババ(千葉バスツアー編)


(舞台説明)


ここは、メタバース空間のとあるバー、切り盛りするのは、雇われママのたえこママであった。


———————————————————————-


「みんな! ギガを消費してる場合じゃないよ!」


たえこママと、バーの常連客の面々は、

テレビ東京で、紹介されていた、クラブツーリズムの千葉行きバスツアーに参加した。


バー『The Wallet』の一行は、

熱気あふれる道の駅の「野菜詰め放題」コーナーにいた。


いつもはクールな常連のスマートフォンや交通系ICたちも、たえこママの気迫に押され、泥付きのジャガイモを必死に袋に詰めている。


「お、ママ、これ以上入らないぜ……!」


「甘いねぇ! ビニール袋ってのはね、伸ばして広げてから詰めるのがビッグ・エー仕込みの……」


たえこママが人参をねじ込もうとした、その時。


隣から、信じられないほどの高速決済データ通信の風圧とともに、一本の大根が美しく袋に滑り込んできた。その袋には、限界突破した量の玉ねぎが芸術的に詰め込まれている。


「……相変わらず、袋の拡張アルゴリズムが不器用だな、たえこ」


低音の、どこかオリエンタルで冷徹な、しかし懐かしい声。


たえこママがハッと顔を上げると、そこには青い光彩を放つ中国の巨大決済ネットワーク、『Alipayアリペイ』さんが立っていた。


「あ、あんたは……アリペイ……! なんで千葉の道の駅にいるんだい!?」


「マ、ママの元カレ!? 中国のアリババグループの巨人が、なんで観光バスで房総半島に来てんだよ!?」


常連の交通系ICたちは、何がなんだかわからずシステムエラー寸前で大混乱に陥る。


「ふっ、インバウンドの視察さ。……相変わらずいい声をしているな、たえこ。そのルイ姉さんのようなハスキーボイスで、俺のQRコードをスキャンしてくれないか?」


「な、何言ってるんだいこの男は……!」


たえこママは顔を真っ赤にして、詰めたばかりのジャガイモを落としそうになっている。


「ママ、騙されちゃダメだ!」


スマートフォンたちが画面をフル明滅させて必死に警告するが、二人の間には一瞬、かつて大陸をまたにかけた熱い恋のデータが駆け巡っていた。


――数十分後。


ツアーの出発時刻が近づき、観光バスの前に集まった一行。


たえこママの手には、詰め放題の袋ではなく、道の駅で買った『たい焼きソフトクリーム』が握られていた。


温かいたい焼きの皮の器に、冷たいソフトクリームがたっぷりと詰まった、ちょっと不思議なご当地スイーツだ。


パクッとそれを一口食べたママは、どこか遠い目をしながら、ルイ姉さんのような極上のハスキーボイスで静かに呟いた。


「……あの男との思い出なんてさ。あの時はグツグツと燃え上がってた気がしたけど……今思えば、激辛の火鍋みたいな、ただの幻想だったんだよ。冷めちまえば、お腹に何も残らない、ただの煙さね」


冷たいソフトクリームを味わいながら、未練をさらりと水に流すたえこママ。そのあまりの「粋」な横顔に、常連の面々は言葉を失った。


「ママ……カッケーよ……!」

「大人の引き際ってやつだな……!」


「はいはい、おセンチな時間はここまで! ほら、バスが出るよ! 遅れたら置いてっちゃうからね!」


いつものチャキチャキした「かけ声」を響かせ、マックイーンのキャメル色ライダースをなびかせながらバスに乗り込むたえこママ。


窓の外では、アリペイさんが静かに青い光を明滅させて、去りゆくバスを見送っていた。


最先端のデジタルと、詰め放題のネギ、そして甘いたい焼きソフトクリーム。


クラブツーリズムのバスは、たえこママのビターで粋な恋の余韻と、大量の野菜を乗せて、夕暮れのメタバース白山へと帰っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。