たえこママと、交通系ICたちの夜咄
(舞台説明)
ここはメタバース空間にある、
東京・白山の居抜きバー『The Wallet』。
店を切り盛りするのは、雇われママの たえこママだった。
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今夜は貸切。
カウンターの上には、たみこママが昼間から仕込んだ、そばツユの出汁がたっぷり染みた「おでんの大鍋」が湯気を上げている。
今夜集まったのは、
日本全国の交通網を支える**「交通系電子マネー」の同窓生たち**。
いつもはそれぞれの地元(経済圏)で離れて働く仲間たちが、現実世界の終電を見届けた後、メタバースのこの店に大集結したのだ。
カウンターの中では、たみこママが割烹着の袖をまくり、JCB氏(京都弁)と一緒に、全国から送られてきた地酒のボトルを次々と開けている。
「はいはい、みんな遠いところからよく来たねぇ! 席は詰めて座っておくれよ!」
たみこママが威勢よく声をかける。
「ママ、悪いねぇ、急にこんなに集まっちゃって」
幹事のSuicaくん(東京)が、いつもの『モスコミュール』を片手に、少し照れくさそうに頭を掻く。
その隣では、幼馴染のPASMOさん(神奈川)が、ココナッツが香る甘い『ピニャ・コラーダ』のグラスを両手で包んで微笑んでいる。
「何言うてんねんSuica! ワイら『相互利用』の仲やろが! 水臭いこと言うなや!」
スカジャンを着たICOCAくん(大阪)が、豪快に『麦焼酎の水割り』をガツンと机に置いた。
「ママ! このおでんの牛すじ、最高やな! っちゅうか、PiTaPaの姉さん、さっきから何一人で格好つけて『米焼酎のロック』ちびちび飲んでんのや?」
「格好つけてるやなんて、人聞きの悪い」
PiTaPaさん(京都)が上品に着物の袖を引いた。
「うちは後払いですもの、お酒もゆっくり味わって、後から酔いが来るのが粋どすえ。なぁ、JCBはん?」
「よろしおすな。大人の飲み方どす」
JCB氏が静かに微笑んでグラスを磨く。
「いやいや、お二人さん、のんびりしとるだに」
ひよこのキーホルダーをいじるTOICAくん(静岡)が、『緑茶ハイ』のグラスを掲げる。
「静岡の緑茶は日本一だもんで、ファミペイさんの緑茶ハイよりうちの地元の緑茶ハイの方が、なまら……あ、いや、うみゃあに決まってるら?」
「ちょっと、TOICAくん!『なまら』は僕のセリフだべさ!」
エゾモモンガのぬいぐるみを抱いたKitacaくん(北海道)が、顔を真っ赤にして『レッドアイ』のジョッキをドンと叩いた。
「北海道の寒さに比べたら、東京の冬なんてぬるいべさ! でも、たみこママのおでんはなまら温まるべさー!」
「お、Kitacaも気合入っとるたいね!」
ハチマキを巻いた九州男児・SUGOCAくん(福岡)が、鼻息荒く立ち上がった。手には、湯気が立ち上る『芋焼酎のお湯割り』。
「男はガツンと芋のお湯割りばい! 九州の熱い走り、見せちゃるけん! おい、nimoca、はやかけん、お前たちも遅れずについてこんか!」
「もう、SUGOCAくんは暑苦しいけん……」
フェレットを肩に乗せたnimocaさん(西鉄)が、トクトクと『黒糖焼酎』をグラスに注ぐ。
「私は九州のバスも函館の路面電車も全部網羅しとるっしょ。フットワークの軽さなら、誰にも負けんばい」
「そーたいそーたい!『は』やくて『や』さしくて『か』わいいっちゃけん、僕が一番ママに愛されてるっちゃんねー!」
末っ子系のはやかけん くん(福岡市)が、たみこママの割烹着の裾にすり寄る。
「はいはい、みんな可愛いよ!」
たみこママは笑いながら、全員のグラスを次々と自分の胸元のマルチ決済パネルに近づけていく。
「ほら、お酒のおかわりかい? どこの地方のカードだろうが、あたしが『ピッ』ってタッチすれば、みんな一発で繋がるんだからね。ほら、SUGOCAくんもお湯割りもう一杯!」
『ピッ』『ピッ』『ピピピッ』──。
居抜きバーのカウンターに、全国の交通系ICの決済音が心地よく、まるで楽器のセッションのように響き渡る。
その時、店の引き戸がガラガラと開き、派手なネオンイエローのスーツを着たPayPayくんが、寂しそうな顔で覗き込んできた。
「あのぅ……ママ……。今夜、貸切って知らなくて……僕も『レモンサワー』飲みに、入ってもいいですか……?」
それを見たICOCAくんが、ガハハと笑ってPayPayくんの肩を組んだ。
「なんやPayPayちゃん! 寂しそうな顔すな! ワイら交通系の中に、たまにはバーコードが混ざってもええがな! ママ、このお兄ちゃんに一番酸っぱいレモンサワー出したって!」
「オー、PayPayくん、ウェルカムデース!」
厨房で白酒から復活したVisaマスターが、ハイテンションでラグビーボールのように氷を投げ入れる。
「みんな、ありがとう……!(ペイペイ♪)」
嬉し涙を流すPayPayくんを真ん中に、全国の交通系たちがグラスを掲げた。
「さあみんな、今夜は始発まで無礼講だよ! 乾杯!!」
たみこママの威勢のいい掛け声とともに、白山の夜は、日本中を繋ぐ温かい笑顔で満たされていくのだった。
(つづく)




