たえこママのゲキ!
(舞台説明)
ここは、メタバース空間の、
東京・白山の居抜きバー『The Wallet』。
店を切り盛りするのは、雇われママの たえこママだった。
今夜は異様な熱気に包まれている。カウンターの上には、JCB氏が作ったカクテルではなく、各社の「ポイント還元率」「キャンペーン規約」が書かれた大量のポップが散乱している。
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中央で腕を組むのは、
キリンのネクタイを歪ませたnanacoさんと、犬耳フードを逆立てたWAONさん。
対するは、スマホの画面をシュバババと高速スクロールするPayPayくんと、たぬきの電卓を叩くau PAYくんだ。
「いいですか、バーコード決済の皆さん」
nanacoさんがセブンカフェのカップをドンと置いた。
「あなたたちの『10%還元!』なんて、どうせ数日限りの限定キャンペーンでしょう?
私たち流通系は、毎日、地道に、生活に密着した1ポイントを積み上げているのです。この信頼感こそが真のポイ活ですわ!」
「そうだワン!」WAONさんが身を乗り出す。
「イオンの火曜市をなめないでほしいワン! 5のつく日はポイント2倍、ありが10デーは5倍! この確実なルーティンこそが、主婦の心を掴むワン!」
「ハハッ! お姉さん方、話が古いですよ!」
PayPayくんが、
レモンサワーのグラスを掲げて笑い飛ばす。
「今の時代はスピードと一撃のデカさですって! 『超PayPay祭』の1等全額戻ってくる一撃を経験したら、1ポイントずつ貯めるなんて、まどろっこしくてやってられないですよ!」
「フッ……PayPayくん、君はまだポイントの真髄を分かっていないね」
ウーロンハイをすする、
au PAYくんが、メガネをキラリと光らせた。
「真のポイ活とは、無駄な買い物をせず、ポイントを『増幅』させること。
ローソンでのau PAY決済でPontaポイントを限界突破させ、それをさらに『お試し引換券』に変えて1ポイントの価値を3倍に膨らませる……
これぞ、たぬきの錬金術(ポイ活)だ!」
「ポイントを3倍に!? なんですって!?」
nanacoさんとWAONさんの顔色が変わる。
「おいおい、みんな熱うならんといて。お酒がまずくなりますえ」
JCB氏が困ったように微笑みながら、そっと『サントリー 響』のグラスを拭くが、議論は止まらない。
「だいたい、PayPayちゃんはポイントの有効期限が短すぎるワン!」
「それは『PayPayマネーライト』の話でしょ! ちゃんと規約を読んでよ!」
「規約がコロコロ変わりすぎるのよ、あんたたちは!」
「──そこまでだよ、あんたたち!!」
カウンターの真ん中で、パチーーーン!!と、乾いた、しかし凄まじい音が響いた。
たみこママが、愛用の**「京セラのガラホ」**をパカッと力強く閉じた音だ。
一瞬でバーが静まり返る。
「ママ……」PayPayくんがゴクリと息をのむ。
「みんな、ポイントが貯まる・使えるって騒ぐのはいいけどね」
たみこママは、ガラホをレースの割烹着のポケットに仕舞い、冷ややかな、しかし温かい目で一同を見据えた。
「あんたたちが1%だの5%だので揉めてる裏で、その複雑なポイント計算を、エラーも出さずに一瞬で処理してるのは誰だい?
誰がそのポイントを現実のお金と結びつけてると思ってるのさ」
たみこママがトントンと、自分の胸のマルチ決済パネルを叩く。
緑色のランプが、厳かに明滅した。
「あたし(Terminal端末)だよ!
あんたたちがどんなに規約を変えようが、キャンペーンを乱発しようが、あたしがシステムをアップデートして、この胸で『ピッ』と受け止めなきゃ、そのポイントはただの画面の数字になるんだよ。
ポイ活、ポイ活って、人間たちの財布をややこしくして惑わせるんじゃないよ。
1ポイントの裏にはね、人間たちの地道な生活があるんだからさ」
たえこママのドスの利いた、しかし愛のある説教に
、深く頭を垂れた。
「……すいません、ママ」
au PAYくんが電卓をそっとポケットにしまう。
「分かればいいんだよ、分かれば」
たみこママは急にフフッと目元を和らげると、大鍋から熱々のおでんを小皿に取り分けた。
「ほら、これは実質『100%還元』の、ママ特製の大根だよ。ポイントの計算なんて忘れて、温かいうちに食べなさいな」
「ママぁ……!」
一同が感動しておでんに箸を伸ばす。
その様子を、カウンターの端で静かに見ていたSuicaくんが、モスコミュールを口に含みながらボソッと呟いた。
「フッ……やっぱり、ポイントなんて気にせず、0.1秒で駆け抜けるのが一番スマートだな」
「あんたも静かに飲みなさい!」と、たみこママにピシャリと言われ、Suicaくんは慌てて目をそらすのだった。
(つづく)




